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第8章 神の名を冠する魔物

第283話 ユノメルとの別れ

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 しばらく彼女と会話を交わしていると、つい先ほどまでひどかった頭痛も倦怠感もどこかへと消え去ってしまっていることに気が付いた。

(これならもう動いても大丈夫だな。)

 俺は彼女の膝枕から体を起こすと、彼女は少し物足りなさそうな表情を浮かべる。

「もう体は良いのですか?」

「おかげさまでもう大丈夫です。」

「ではもう行ってしまうのですね。」

 名残惜しそうにそうポツリと口にした彼女は、再び笑顔を作るとこちらに向かって言った。

「あまり引き留めていてもご迷惑でしょうし、帰り道にはお気をつけてお帰りください。」

「ありがとうございました。」

「もし気がむいたら、またナナシとともにここにいらしてください。私はずっとここにいますので。」

 彼女に見送られて俺は泉を後にし、最初ナインに送ってもらった海岸を目指して歩くのだった。その最中、激しい気候変動に襲われながらも俺は先ほど会話を交わしていたユノメルのことを思い返していた。

「にしても、ナナシがいたからって理由もあるけど良い人だったな。無償でユピスパークはくれるし、俺の看護もしてくれた。」

 さっき体の調子が回復するまで彼女と会話をしていてわかったことなのだが……どうやらあの泉は全てがユピスパークというわけではないらしい。彼女が泉の水に魔力を籠めて、ある程度の月日を置いたものがユピスパークになるというのだ。
 そして彼女があそこにいる理由はあの泉の水が彼女に必要らしい。彼女の話だとどうやら力の暴走をある程度抑える効果があの泉に湧き出している水にあるらしい。だから自分で完全に力を制御できない彼女にはあの水が必要なのだろう。

 あの水も元をたどると、最初にナナシが見つけたというのだから驚きだ。ユノメルの話ではナナシにあの場所を教えてもらわなかったら……自分の歩いた場所がすべて水銀に汚染されていただろうと語っていた。
 だが、自分の力を抑えることができるのは良いが、いかんせんあの場所は娯楽もなければ人の往来も滅多にない。しかも年に数回訪れる人は皆取りつかれたようにユピスパークを求めてくる密猟者。そういう輩は容赦なく彼女にやられてしまうらしいが……。そのせいもあって少し寂しいのだとも語っていた。

「まぁナナシの気分次第にはなってしまうけど、たまに顔を見せに来てもいいかもしれないな。」

 そんなことを思っていると、ナナシの言葉が頭の中に響いてくる。

『くくく、主よすっかりやつに誑かされているようだな。』

「ナナシ?」

『我が意識の所有権を手放してからユノメルと話していた会話は全て聞いていたぞ。』

「お前、俺も聞いたぞ?俺の意識を奪ってるときにユノメルとめちゃくちゃ酒飲んでたらしいな!?頭痛くなって大変だったんだぞ?」

『良いではないか。それに主の成長にも必要なものなんだぞ?』

 酒が俺の成長に?

「どういう意味だ?」

『あの泉に湧く水に魔力を加えると酒になるとユノメルから聞いただろう?』

 彼女の言葉に俺は頷いた。

『その魔力を加えた酒というのは言わばユノメルの魔力そのもの。つまりそれを摂取するとまぁ間接的ではあるが、ユノメルの高密度の魔力を体に取り入れているということになる。』

「その魔力って消費されたりしないのか?」

『普通は次第に失くなっていくものだが、我の場合は違う。吸収し、自分の魔力の最大量を増やすのだ。まぁ論よりも証拠だ、ステータスを開いてみろ。』

 言われるがままステータスを開いてみると、ナナシの言うとおり魔力の最大量が尋常ではないほど上がっていた。

「本当だ……。」

『主は元はこの世界の人間ではないからな。魔力の最大量が少なかった。故に我も全力の魔法は使えなかったのだが……これで思う存分力を出せる。』

「ほぉ~。」

 ここで俺は少し気になったことを問いかけてみることにした。

「ちなみに、ナナシが全力で魔法を使ったら……どうなる?」

『この星ぐらい簡単に消せるぞ?』

 何のことはないというような、さも当たり前のようにナナシは返答してくる。

「ははは、流石にそいつは冗談だろ?」

『冗談ではない。ユノメルも全力ならば軽くこの星全土を水銀で多い尽くせる。』

「……。」

 ひとまず何も聞かなかったことにしておこうか。何かこの二人は次元が違う。やってと言ったらマジでやりかねない。

 今の言葉を心の中にしまいこんだ俺は、そっとナインの名を呟いて魔王城へと帰還するのだった。

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