263 / 350
第7.5章 聖夜祭
第263話 異世界の冬模様
しおりを挟むヒュマノと新たな平和条約を結んでから数か月の月日が流れた。
早いもので季節はすっかり秋を過ぎ、ちらちらと空から白い雪が降る季節へと移り変わっていた。
普段通り朝に目を覚まし、ベッドから体を起こすと冷たく冷えた空気に肌が触れ、思わずもう一度毛布をかぶりたくなる。チラリと外を見てみると窓の外では雪が降っていた。
「どおりで冷えるわけだ。」
こういう寒い日には温かいものが食べたくなるな。朝食はできるだけ体の中心から温まるようなものにしようか。
頭の中でメニューを考えていると、真横から唸り声が聞こえてきた。
「うぅぅぅ~……カオル、寒いぞ~早う毛布をかけるのだ。」
俺の隣ですっかり縮こまりながら横になっていたのはラピスだった。
「ラピス、お前また俺のベッドに潜り込んでたのか?」
「仕方なかろう。この寒い季節は温もりが欲しくなるのだ。」
「前ノーザンマウントに行ったときはあんな雪山でもピンピンしてたくせになぁ……。」
「山の寒さと冬の寒さは違うのだッ!!」
「はいはい。わかりましたよっと。」
「わぷっ!?」
ラピスの体全身を覆うように先ほどまで俺が被っていた毛布をかけてやる。
「毛布にくるまってるのもいいが、二度寝して朝食に遅れないようにな。」
「わかっておる。」
着替えをしながらラピスにそう告げると彼女は毛布にくるまってもぞもぞしながら答えた。まぁ近頃はこの光景もここ最近見慣れたものだ。
ここのところ毎日のように俺のベッドにラピスは潜り込んできているからな。俺が眠りにつく前はいないのに、朝起きればいつの間にか隣で寝ている。
ラピスだけならまだいいほうだ。多いときは鼻息を荒くしたソニアが潜り込んできている時もあるからな。
まぁこんな感じで冬の寒さには弱いらしいラピスたちだが、朝食にはきっちりと起きてくる。彼女たちの優先事項は睡眠よりも食事らしいな。
そうして今日も今日とて一同が介した朝食の場面で、ふとアルマ様が朝食を食べながらあることを口にした。
「あ、そういえばそろそろ聖夜祭近いんじゃない?」
アルマ様の口から飛び出した言葉は耳にしたことのない言葉だった。それはカナンも同じだったようで……。
「聖夜祭?アルマちゃん何それ?」
「聖夜祭はね~、冬のお祭りだよ~。」
「ほぇ~、そんなのあるんだ。」
興味深そうにカナンがその話をアルマ様から聞いていると、ジャックがその話に捕捉するように説明を始めた。
「聖夜祭とは、この季節にしか出現しない魔物カーバンクルが持ち歩いている宝石の大きさを競うお祭りでございます。」
「カーバンクル?」
またまた聞いたことのない魔物の名前だ。
「カーバンクルとは一応魔物に分類されていますが、精霊種に近い存在とされている少々変わった魔物でございます。」
「カーバンクルはね~お腹のポケットに綺麗な宝石を入れてるんだよ~。」
アルマ様のその言葉にラピスがぴくんと反応した。
「ほぅカーバンクルの宝石とな。なかなかお目にかかれない代物ではないか。」
「えぇ、カーバンクルは本来滅多に人前には姿を現さないのですが、この時期の決まった時間にこの城下町の近くに出没するのです。」
「すっごくすばしっこくて捕まえるの大変なんだよね~。でも今回は絶対大きい宝石持ってるカーバンクル捕まえる!!」
話を聞いている限りではなかなか面白そうなお祭りだな。だが、アルマ様が捕まえるのが大変と言っている辺り捕獲の難易度は相当高そうだ。
時間があったら参加してみたいところだな。
「カナンとメアも一緒に参加しない?みんなでやると面白いんだよ~?」
「うん、楽しそうだから参加してみよっかなぁ。」
「面白いならやる。」
参加の意思を固めているアルマ様たち。彼女たちとはまた別にラピスとエンラ、そしてソニアも何やらこの祭りに参戦しようと話し合っている。
「むっふっふ、カーバンクルの宝石か……我のお宝に加えるには上等だの。」
「あら、ラピスも参加するの?」
「無論だ!!」
「ならワタシも参加しようかしら。」
「な、なぜ光り物に興味がないおぬしまで参加するのだ!?」
「だって面白そうじゃない?それに勝ち負けがあるなら……ラピスには勝っておきたいし~?」
「ぐぐぐ、上等だ。絶対におぬしには負けんぞエンラ!!」
「あらあら、勘違いしちゃいけないわよ?ワタシはソニアと一緒に出るんだから……ねっソニア?」
「は、はいっエンラ様!!」
「なぁっ!?二対一とは卑怯ではないか!?」
「そんなことないわよ~?あんたにはカオルがいるじゃない。」
思わぬところで白羽の矢がこちらに飛んで来た。エンラのその言葉に感化されてしまったラピスはすがるように俺にしがみついてきた。
「か、カオル!!わ、我を手伝ってはくれまいか!?」
「ん~、ま、まぁ時間があったら……な?」
「作るのだっ!!同じ龍として我はエンラに負けるわけにはいかんのだっ!!」
「わかったわかったって、なんとか時間は作ってみるから。」
せがんできたラピスにそう答えていると、隣でエンラは笑っていた。どうやら彼女の思い通りに動かされてしまったらしい。
まぁみんな参加するみたいだし、せっかくなら俺も混ざってみようかな。そうなると、いろいろと準備を整えないとな。
0
お気に入りに追加
88
あなたにおすすめの小説
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
死んだのに異世界に転生しました!
drop
ファンタジー
友人が車に引かれそうになったところを助けて引かれ死んでしまった夜乃 凪(よるの なぎ)。死ぬはずの夜乃は神様により別の世界に転生することになった。
この物語は異世界テンプレ要素が多いです。
主人公最強&チートですね
主人公のキャラ崩壊具合はそうゆうものだと思ってください!
初めて書くので
読みづらい部分や誤字が沢山あると思います。
それでもいいという方はどうぞ!
(本編は完結しました)
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる