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第7章 動き出すヒュマノ
第260話 ヒュマノの誠意
しおりを挟む新たな平和条約の制定から数日後、魔王城宛に現在ヒュマノでの最高権限を持つルメラから書状が届いた。
その内容は今回キメラを造りだす計画を考案した者たちの国外追放……そしてこちらへ被害を出してしまったことへの補償としてできうる限りのことをすること。そして最後に今後のヒュマノと魔族との関係が良い方向へ進むように命を賭して彼が尽力するということだった。
最後のは文字通り命を懸けたルメラの宣誓であったらしく、彼の名が書かれた誓約書が同封されていた。もし、それを破るようなことがあれば……即座に誓約書の効果が発動し、彼の心臓の鼓動を止めてしまうらしい。
正直なところ、キメラ計画に携わった人達を国外へと追放したことと、キメラによって出た被害に関しての補償に関する二つの項目が手紙に書かれていたことで満足だったのだが……。彼がそこまでの覚悟を決めてきたのは予想外だった。
ここまでされたなら、こちらも誠意というものを見せないといけないだろう。
俺は現ヒュマノの国王であるアリスのことを連れて、少し前に戻ってきたというカーラの家を訪ねた。そして、とある魔道具を造ってほしいとお願いすると……。
「そんなことならお安い御用さ。その位の素材なら集まってるから今からでも作れる。ちょっと待ってなよ。」
「ありがとうございます。」
そうして早速お願いした魔道具を作りに行ってしまったカーラ。俺とアリスは彼女の家で座って待つことにしたのだが、そこにちょうど寝起きのステラが現れた。
「ん?これはこれは、アリス嬢にカオルか。」
「あっ!!ステラもこの国にいたんだ?」
「あぁ、どうもイリアスに嫌われたらしくてなぁ。」
くつくつと笑いながらステラは熱い紅茶を淹れると俺たちの前に座った。
「まったく、キミには驚かされたばかりだ。私たちが調査に出かけている間に王都を襲撃し、アリス嬢を攫って来ただけでなく、新たな平和条約まで結んでしまうとはな。」
「まぁいずれは誰かがやらなきゃいけなかったことだったからな。」
その役がたまたま俺だったってことだ。
「まぁこれでヒュマノと魔族はしばらくは安泰だろうな。」
「ヒュマノと魔族はですけどね。」
「問題はそのほかの第三勢力。ペルが所属している暗躍組織だな。」
「あいつらはヒュマノでも魔族でもない。だから平和条約も何も関係ない……好き勝手やってくるわけだ。」
そういえばステラたちはペルについての情報を集めに行っていたらしいが何か進展はあったのだろうか?
「それで、そっちはそっちで何か進展は?」
「あぁ、もちろんいい収穫はあった。私達は西の魔女ユアーダにあって来たんだが、彼女は……一度ペルの陰謀に加担してしまったらしい。」
「ペルの陰謀に?」
「あぁ、ついこの前エルフを襲ってきたパラミシアというやつがいただろう?ヤツがユアーダのダンジョン攻略部隊の1つとともに姿を消していたらしいんだ。これが何を意味するか分かるな?」
「……あの時エルフの集落周辺で戦った魔物に変異した人間達は、そのダンジョン攻略部隊の可能性があるってことか。」
「その通り、私はてっきりペルの実験体だと思っていたが……パラミシアとともに姿を消した攻略部隊の人数とあの時の魔物の数をよくよく照らし合わせてみると、その可能性が濃厚だ。」
「なるほどな。」
「まぁそれでユアーダのやつは今後ペルとは関係を断つと言っていた。それと彼女の広い情報網でペルのことを捜索することにも協力してくれるらしい。」
それなら心強いな。てっきり悪名高い魔女だって聞いていたからペルと手を組んでいる可能性もあると思ったが……。余計な心配だったか。
「私達はこれからもペルの行方について調査を続ける予定だ。」
「そっちも気をつけてな。」
「もちろんさ。」
そうしてステラと会話していると、奥の部屋からカーラが出てきた。
「できたよカオル。」
「おっ、ありがとうございます。」
カーラが手にしていたのは二対の大鏡。これは、アリスがヒュマノのの王都のヴィルシアとこの魔王城と自由に行き来できるようにするために転移魔法陣を組み込んでもらった魔道具だ。
「さて、お嬢ちゃんこの鏡に触れてくれるかい?」
「うん。」
そしてアリスが鏡に手を触れると、一瞬鏡から光が放たれた。
「これで使用者の登録は完了さ。」
「じゃあこれはもうアリスしか使えないんですね?」
「あぁその通りだよ。試しに使ってみるかい?」
「アリス、使い方を教えてもらってくれ。」
「は~い。」
そしてカーラはアリスにこの魔道具の説明を始めた。ある程度魔道具のことを理解したアリスが鏡に手を触れると一瞬で彼女の姿が消え、少し離れた場所に設置したもう一対の鏡の前に転移していた。
「すごいですっ!!」
「ま、これを魔王城の中とお嬢ちゃんの部屋の中に置いとけばいつでも行き来できるってわけさ。」
これはヒュマノで万が一のことがあった場合にアリスがこちらへと逃げてこられるようにするための非常用の脱出装置の役割を担っている。まぁそれは名目上だ。本来の使い道は……この数日間でアリスはずいぶんアルマ様たちと仲良くなってしまったので、好きな時に遊びに来れるように作ってもらったのだ。
これでアリスをヒュマノに返還しても寂しい想いをすることは無い。さて、これで準備は整ったから今度はこちらからヒュマノにアリスを返還する旨の手紙を書いてやるか。
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