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第7章 動き出すヒュマノ

第258話 迎撃戦

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 ヒュマノの王都ヴィルシアが複数人の魔族に襲撃され、現国王であるアリス・ヴィルシアが拉致されたというニュースは俺達が襲撃を行った翌日にはこの国全土に広がっていた。

 もちろん、この事件についてヒュマノが動かない訳はなく、彼らはアリス・ヴィルシアの解放を要求してきた。
 だが、その要求をこちらが飲むことはない。ジャックが彼らの要求を即座に断ったのだ。

 そして要求を断った数時間後に、リルから連絡が入る。

「国境を見張らせてた子達から連絡があったよ、人間達の軍隊が迫ってきてるって。」

 ヒュマノがとった最終策は無謀な強行策。

 だが、こちらはそれをも予測していた。魔物ギルドのハンターに国境付近を監視してもらっていたのだ。

「わかりました。その人達には避難してもらって下さい。」

 リルからの連絡を受けた俺はナイン達を呼んだ。

「ナイン、スリー、セブン。」

「「「はい、こちらに。」」」

 俺が呼ぶと同時に彼女達は背後に現れた。

「ヒュマノの軍隊を止めるぞ。」

「「「了解しました。」」」

 ナインが切り裂いた空間に入る前に、俺は全身を龍化させ、魔族らしい姿へと姿を変えた。そしていざナインが切り裂いた空間へと足を踏み入れると、そこはリルから連絡があった国境だった。
 遠くの方には米粒ほどの大きさだが、ヒュマノの軍勢がこちらへと向かってきているのが見える。

「ナイン、スリー、セブン……念のため言っておくが、一人も殺すなよ?」

「わかっていますマスター。無力化を最優先します。」

「マスター、魔物らしき反応も幾つか見られますが……そちらはどうしますか?」

「そいつらは容赦するな。とにかく人間だけ殺さなければ、それで良い。」

「かしこまりました。」

 軽い確認を終えると、俺達は国境を踏み越えてヒュマノの軍勢へと向かって歩みを進めていく。

 そしてヒュマノの軍勢が目前に迫ると、彼らは足を止め、こちらに言葉を投げ掛けてきた。

「魔族よ!!速やかに我らが国王を返還せよ!!」

「断る。」

 目の前できっぱりと断ってやると、こちらへと言葉を投げ掛けてきた男は顔を真っ赤にして叫ぶ。

「全軍っ!!目の前の魔族を殲滅せよっ!!」

 その言葉と同時に地を揺らすような大声を発しながら人間の兵士達が武器を構えて向かってくる。

「あいつが指揮官か。」

 あいつを拘束して……ここに来ていないヒュマノの偉いやつらを引き摺りださせるか。

 そう考えていると、俺の目の前に見覚えのある大男が迫る。

「てめぇ、昨日はよくもやって……ごあぁッ!?」

 俺の前に迫った……確かハルキン?とかいう大男の兜にスリーの放った弾丸がめり込む。それと同時に後ろにいた兵士達を巻き込みながら彼は後ろに倒れた。

「昨日の今日でごめんな。」

 ポツリとそう呟きながら、俺は彼の体を足場にして飛び上がると、兵士達が犇めくど真ん中へと降り立った。すると、辺りの兵士達がどよめく。

「なっ……。」

「こんだけ密集してたら満足に武器は振れないだろ?」

 そして四方にいた兵士達を吹っ飛ばしてやると、ドミノ倒しのように兵士が倒れていく。

「そこで倒れといてくれ。」

 転んで動けなくなっている兵士達を足場にしながら敵陣の中を突っ走り、俺は先程号令を出していた男のもとへと一直線に向かっていく。

「くっ……横に広く展開しろ!!」

 たった四人に蹂躙されている自分の軍勢を見て慌てて吼えた男。その号令をもっと早くに出しておくんだったな。

 今となってはもう遅い。なぜならナイン達が外側から内側へと寄せるように戦っているからな。
 横に展開しようとした兵士は必然的にナイン達と戦う羽目になり、即座に意識を刈り取られていく。

 最初に相対した時に、こちらの人数に違和感を抱いてその号令を下していれば……。ある程度兵士達は自由に動けただろうが、まぁ結果は同じか。

 そんなことを考えながら、目の前に立ちはだかる兵士達を軒並み打ち倒していると、あっという間に馬に乗った指揮官の男のもとへとたどり着いた。

「馬鹿な……。たった四人の魔族に…………。」

「たった四人の魔族か。そうやって高を括っていたから負けるんだよ。」

「っ!!黙れっ!!」

 馬上からヒュマノの国旗が括りつけられた槍を俺へと向かって突きだしてくる。
 その攻撃を俺が手のひらで受け止めると、槍の柄がグニャリと大きくしなり、終いにはバキッ……という音をたてて折れてしまう。

「ば、化け物めっ!!お前達ッ、何をして…………なっ!?」

 自分の攻撃手段を失った指揮官の男は残っていると思っていた兵士を使おうとするが、彼の周りには既に動ける兵士は一人もおらず、いたのは無傷のナイン達だけだった。

「マスター、99.9%の兵士の無力化に成功しました。意識があるのはそちらの方のみです。」

「ん、お疲れ様。……さて、戦いも終わったところで、話をしようか?」

「ぐぅっ!?」

 俺は馬上にいた指揮官の鎧を掴むと、馬上から引き摺り下ろした。すると、怯えた表情で問いかけてくる。

「な、何が望みだ?」

「あんたには伝令役を頼みたい。」

「伝令役?」

「あぁ、あんた達を動かしたヒュマノの偉い奴等に伝えてくれ。ヒュマノの国王を拐った奴等が会談を望んでいると……な。」

「なっ……まさか貴様らがっ!!」

「ま、そういうことだ。あと、この会談に応じないのであれば俺達はまた…………いや、今度はヒュマノ全てを徹底的に破壊する。」

 圧をかけてそう言ってやると、指揮官の男は渋々ながら……と言った様子で頷いた。

「くっ……わかった。」

「なら行ってくれ、お前が上の奴等を引き連れてくるまでこの兵士達の身柄はこちらが預かる。」

 そう告げると、彼は無言で再び馬に跨がりヒュマノの王都へと向かって駆けていった。
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