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第7章 動き出すヒュマノ
第250話 国境を越えて
しおりを挟む技の名の通り、塵と同じ大きさほどまで切り刻まれた3体のキメラ達。しかしそれでもやつらの肉片は体を再生しようと試みていた。
「これだけ細切れにしてもダメか。ならこうだ。」
俺は顔を部分龍化で変化させると、口から焔のブレスを吐き出した。
そして切り刻まれた破片が炭になるまで燃やし尽くすとブレスを止める。
流石に炭になるまで焼き尽くされては再生はできず、キメラの切り刻まれた肉片は灰となって散っていった。
「ふぅ、これでよしっと。」
顔の部分龍化を解除すると、セブンが歩み寄ってきた。
「お見事でしたマスター。」
「ありがとう。」
「そのアーティファクトは……リストにないアーティファクトですね?」
「あぁ、ナインはリストには載ってないって言ってたな。にしても今までこんな風にはならなかったんだが……。」
それに斬撃の威力も桁違いだった。
「持ち主の実力に応じて性能が変化する……のか?」
「それに関しましてはまだ不明ですが、帰り次第調べてみましょう。」
「そうだな。」
「それと、マスター。こちらを回収しておきました。」
そう言ってセブンは3つの赤く光る丸い石を見せてきた。
「これは?」
「恐らく先程のキメラ達の核かと。」
「いつの間に回収してたんだ?」
「マスターがキメラ3体を細切れにした際に核の部分のみを回収しておきました。」
「よく核だけをあの中から見つけて回収できたな。」
「高度なソナーのお陰です。」
「はは、万能だなそのソナーは。」
さて、キメラ達は倒したが……これで一見落着とはいかないわな。
俺はセブンと共に背後で眺めていたアルマ様達のもとへと歩み寄ると、アルマ様にキメラの核を預けた。
「アルマ様、これを持ってギルドへと先に戻っていてもらえますか?」
「ふぇ?カオルは来ないの?」
「はい、少々やるべきことがありますので。……それじゃ、メア頼むぞ?」
「う、うんパパ。」
そして転移魔法陣を展開するメア。その魔法陣が起動する前にラピスはこちらへと向かって告げた。
「気を付けるのだぞカオル。」
「わかってる。」
その言葉を残してラピス達は転移魔法で転移していった。
「さて、セブン……やることはわかってるな?」
「はいマスター。あの記録をとっていた人間と記録を回収します。」
「ん、じゃ行くか。」
俺は姿を見分けにくくするために全身を龍化させた。その影響でまたしても翼と尻尾が生え、服が一着使い物にならなくなったが……着替えはあるから問題ない。
そして武装を展開したままのセブンと俺は同時に国境を踏み越えた。
すると、国境を踏み越えた瞬間に防衛にあたっていた兵士達が俺達を取り囲む。
「おいおいここは人間様の住む国だぜ?魔族はお断りしてんだわ。」
「隊長!若い女はどうしますか?」
「捕まえて尋問にきまってんだろ~?楽しく……な?」
その言葉を聞いて辺りの兵士は喜びの声をあげた。正直反吐が出るな。ここまで腐りきってるとは思わなんだ。
「おい、お前ら男の方は殺してもいいが……女は傷付けんなよぉ?」
「へへっわかってますって隊長。」
下卑た笑みを浮かべる兵士達。正直なところこいつらに興味はない。俺らが用があるのは……アイツだ。
ヤツは俺達が国境を踏み越えたことで危機感を覚えたのか、既に逃げ出そうとしている。
「はぁ、セブン……先にアイツをひっ捕まえて来てくれ。」
「よろしいので?」
「あぁ、コイツらは俺がやるよ。」
「承知しました。」
そして俺の命令通り、セブンは一瞬で空へと飛び上がると目的の人間を捕まえに行った。
「あっ!?隊長女の方が!!」
「騒ぐな、とっととこの蜥蜴野郎をぶっ殺して捕まえりゃいい話だ。」
「……蜥蜴野郎?」
その言葉を聞いた途端、妙に胸がざわつく。なんというか……ひどく侮辱されたような気分だ。
不思議と怒りが沸き上がって来ている最中、好機とばかりに兵士達が一斉に襲いかかってくる。
「くたばれ下等種族っ!!」
「……あ?」
その言葉についに堪忍袋の緒が切れた。それと同時に体の至るところに剣や槍が振り下ろされる。
しかし、その一斉攻撃が俺の黒い鱗を貫くことはなかった。それどころか、逆にやつらが手にしていた武器がことごとく破損したのだ。
「はっ!?」
「なにっ!?」
予想外の出来事に驚き戸惑う人間達……そんな彼らへと向かって、俺は一歩ずつ歩みを進めながらヒュマノの言葉でやつらに話しかけた。
「攻撃は終わりか?」
「なっ……。」
「じゃあ今度はこっちの番だな。」
俺は隊長と呼ばれていた男に近付くと、身に付けていた兜ごと魔族側の国境の方へと殴り飛ばした。
「おいおい、そっちは俺達の国だぞ?領土侵犯だな。」
「た、隊長!!」
隊長が一瞬にして吹き飛んだことによって一気に慌て始める兵士達。そんな隙を俺が逃すはずもなく……。
「ふんっ!!」
「ぐはっ!?」
「ぎゃぁっ!?」
俺を取り囲んでいた兵士達を全て魔族側へと殴り飛ばす。そいつらを魔力操作で作り出した魔力の糸で拘束する。
「さて、さっきお前らの隊長はなんて言ってたっけ?男は殺して?女は楽しく尋問だったか?」
「ひっ……!!」
「お前らの中に女はいなさそうだしなぁ、じゃあ全員ここで殺すか。ん?」
捕まえた兵士達を脅していると、目的の人間を捕まえてきたセブンが帰って来た。
「マスターお待たせしました。」
「ん、御苦労様セブン。……そいつは気絶してるのか?」
「はい、煩い輩でしたので少々眠って頂きました。」
「そうか、俺もコイツらを永遠に眠らせてやろうかと思ったんだけどさ。」
ヒュマノの言葉でそう話すと、兵士達は震え上がる。
「マスター、その前に帰還石の反応がありますのでそちらを回収した方がよろしいかと。」
「ふーん?帰還石ねぇ、大人しく出した奴は生かしてやるけどどうする?」
「「「だ、出します!!」」」
そして兵士達はあっさり恐怖に支配され、全員自分の帰還石を差し出した。
「あ、隊長とかいう奴は結構力入れて殴ったから気絶してるか?」
ピクピクとしか動いていない隊長と呼ばれていた人間の鎧をバキバキとひっぺがすと、その内側に帰還石がはめ込んであった。
「ん、あったあった。」
俺は集めた帰還石を兵士達の前で粉々に砕く。
「さて、これで使い物にならなくなったな。じゃあ言った通り生かしてやるよ。俺はな。」
「「「へ?」」」
「魔族の国の人達がお前らをどうするかまでは保証できないってことだ。あくまでも俺は殺さないって約束だったからな。」
その言葉に絶望を浮かべた兵士達を魔力で作り出した糸で引き摺りながら俺とセブンは城下町を目指すのだった。
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