241 / 350
第7章 動き出すヒュマノ
第241話 カオル(?)
しおりを挟む「くっくっくっ……。」
くつくつと笑いながらゆっくりと未だ操られている魔物達へと向かって歩みを進めるカオル(?)。
すると、魔物の群れの中から一匹が襲いかかってくる。
「遅い。」
笑みを崩さず、襲いかかってきた魔物の顎を蹴り抜くと、ガックリと崩れ落ちた魔物の頭を龍化させた腕で掴んだ。すると、カオル(?)は徐々に魔物の頭を掴む腕に力を籠めていく。
「脆い……まぁ所詮元は人間か。」
バキッ……と音を立て掴んでいた魔物の頭蓋骨を砕くと、カオル(?)はもの足りなさそうにそう呟きながら、事切れた魔物を投げ捨てた。
そして仲間の魔物が殺されたのを見て一斉に何匹もの魔物がカオル(?)へと襲いかかってくる。
しかしカオル(?)はまるで降りかかる火の粉を払うように、淡々と龍化している身体を使い、次々に魔物を倒していった。
「くぁぁ……雑魚の相手は眠くなる。ここらで終わりにするか。」
チラリとカオル(?)は味方であるリルやカーラ、エルフ達の方へと視線を向けると、人指し指をくいっと上に持ち上げた。すると、リル達が相手にしていた魔物達……そして後続の魔物達も突如として現れたドーム状の土の壁に閉じ込められる。
「な、なに!?」
突如として目の前に現れた土の壁に戸惑うリル達の前にカオル(?)は降り立つと、一言だけ告げた。
「下がっていろ。」
「えっ?」
状況を理解できず、動けずにいたリル達の目の前でカオル(?)が翼を大きく広げると、暴風が巻き起こり、リル達がなすすべなく後方へと強制的に吹き飛んでいく。
「さて、片付けるとするか。」
リル達が後方へと下がった事を確認すると、カオル(?)は人指し指の先端に小さな火の玉を造り出す。彼はそのまま腕をドーム状の土の壁の中へと突っ込んだ。
「龍の王たる者の力の片鱗を最期に見せてやろう。ペタフレア。」
すると、一瞬にしてドーム状の土の壁が内側から真っ赤に染まる。
「うむ、もうよかろう。アブソリュートゼロ。」
再び呪文のようなものを唱えると、真っ赤に熱されていた土の壁が一瞬にして熱を持たなくなり、ボロボロと崩れ落ちていく。
その中には閉じ込めていた筈の魔物達の姿はなく、炭となった何かが転がっているだけだった。
「まぁ、まだこんなものか。完全に龍昇華が馴染んでいるわけではないしな。」
そして魔物達を一瞬で片付けてしまったカオル(?)の前にスリーが現れる。
「む?貴様は……。そうか、主の従者か。」
「言動がマスターと一致しません。何者ですか?」
「ふむ、何者か……と問われると答えるのが少し難しいな。我に名はないが、敢えて答えるとするのならこの肉体に存在する人間と龍の二つの意識の龍の方だ。」
「二つの意識?龍昇華によって人格が変わるというデータはありませんが?」
「それは今の今まで龍昇華を口した者達が龍の王になる存在として認められなかったからだな。」
「マスターは認められた……だから二つの人格を持ってしまっているということですか?」
「そうなるな。」
「ではもう一つ問います。マスターの自我はいつ戻るのですか?」
「くっくっくっ、そう急くな。すぐに戻る。我がこちら側に姿を出せるのは主の意識が失われたときのみだからな。……っと、ほらもうすぐ入れ替わる。」
そう言ってカオル(?)は目を閉じた。
ふと、意識を取り戻して目を開けると目の前にはスリーの姿があった。
「あれ……俺は……。」
「マスター?マスターなのですね?」
「スリー?」
何度も確認するようにスリーは問いかけてくる。
「マスター、記憶はどこまで覚えていますか?」
「記憶?えっと……確か…………あ、うなじに何か植え付けられたのは覚えてるな。」
さすさすと自分のうなじを触ってみるが、そこにはもう何もなかった。
「そこから意識が切り替わった……ということですか。」
「ん?何か言ったか?」
「いいえ、こちらの話です。」
「ってかそれよりも魔物は?リルさん達は?」
「魔物は全て倒されました。リルさん達も無事です。」
「ホッ……ならよかった。」
そうして一つ安堵のため息を吐き出すと、視界の端にクレーターになった地面に埋まっている人間の姿が目に入った。
「ん?あいつは……。」
そのクレーターの方に近づいていくと、その中心には白目を向いて泡を吹きながら倒れている人間の姿があった。おぼろげながら覚えているが、確かこいつに変なのを植え付けられたんだよな。
「スリー、こいつは……まだ大丈夫か?」
「人体を構成する骨の大部分を骨折しているようですが、奇跡的に内臓への損傷はないようです。今からでも十分に助かる見込みはあります。」
「ん、了解。なら……こいつを連れてリルさん達のとこに行くか。」
「了解しました。念のため麻酔弾を撃たせてもらいます。変な行動をされては困りますからね。」
そういうと、スリーはヤツの首もとにプスリと銃弾を撃ち込んだ。
「これでしばらくは起きないでしょう。」
「オッケー、それじゃあ連れていこう。」
そして俺がヤツを背負おうとした時、ポツリとスリーが言った。
「マスター、リルさん達のもとへと向かうのは良いのですが、その格好では少々問題があるかと……。」
「ん?格好?んんん!?」
チラリと自分の身体を見つめ直してみると、着ていたはずの服は跡形もなく、全裸になってしまっていた。
「……妙にスースーすると思ったらそういうことだったのか。」
なんでまた意識を失ってる間にこんなことに……。予備の服を収納袋に入れててよかった。
俺は収納袋から着替えを取り出して着替えると、改めてヤツの事を背負ってリル達のもとへと向かうのだった。
0
お気に入りに追加
90
あなたにおすすめの小説

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。

転生した体のスペックがチート
モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。
目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい
このサイトでは10話まで投稿しています。
続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
やっと買ったマイホームの半分だけ異世界に転移してしまった
ぽてゆき
ファンタジー
涼坂直樹は可愛い妻と2人の子供のため、頑張って働いた結果ついにマイホームを手に入れた。
しかし、まさかその半分が異世界に転移してしまうとは……。
リビングの窓を開けて外に飛び出せば、そこはもう魔法やダンジョンが存在するファンタジーな異世界。
現代のごくありふれた4人(+猫1匹)家族と、異世界の住人との交流を描いたハートフルアドベンチャー物語!
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる