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第7章 動き出すヒュマノ
第227話 エンラの葛藤
しおりを挟むジャックに言われた通り、俺はアルマ様達へと料理を作るため厨房へと向かう。すると、そこには既に一同が会していた。
「来た来たっ!!」
「待っていたぞカオルよ!!我はもう腹と背中がくっつきそうだぞ。」
彼女達に迎え入れられながら、俺は厨房に立つと早速料理を始めた。
少し留守にしていただけだが、ここに立つのは古巣に帰ってきたような心地がある。
俺が淡々と料理を作っていると、その様子をソニアが横でずっと見つめていた。
「そんなに気になるところがあるか?」
そう問いかけると、彼女は当たり前といった様子で一つ頷く。
「当たり前でしょ?どんな些細な動作でも見逃せないのよ。次に活かせるものが絶対あるもの。」
「それもそうだな。」
そしてアルマ様達に料理を作り終えて配膳していくと、嬉々とする面々の中に一人だけ浮かない表情を浮かべる人物がいた。
エンラだ。
「ほら、色々言いたいことはあると思うがまずは美味い飯でも食べて腹を膨らませろよ。」
「……そうね。」
「えへへ~それじゃあいただきま~す!!」
待ちきれなくなったアルマ様は早速作った料理を食べ始める。それを見たエンラも料理を一口口にした。
「ふふ、やっぱり美味しいわね。」
「当たり前だ。」
ゆっくりと食べ進めていく彼女の前に俺は座ると、少しずつあの事について問いかけることにした。
「エンラ、聞かせてくれ。ドリス達と同じ組織にいたのか?」
「そうよ。」
「それは……どうして?」
「五老龍ってのは、龍の中では特別扱いされる存在。でも、それと同時に下から狙われる標的でもある。ワタシはそれが嫌いだった。現に一つ前の五老龍の海を支配してたヤツは誰かの共謀で殺された。」
「その話はラピスから聞いた。その共謀者だったっていうアシッドドラゴンは俺達が倒した。」
「えぇ、その情報はワタシの耳にも入ってる。でも首謀者が死んでない。ワタシはその首謀者ってのを調べるために……あの組織にいた。そしてあわよくば、五老龍の解体をするために……。」
「なるほどな。でもそれじゃあどうして奴らを裏切った?まだ首謀者もわかってないんだろ?」
「まぁね。でも、ラピスがアンタを連れた来たあの五龍会合……あの時和気藹々と皆でアンタの作った料理を食べていたとき、案外悪くないって思っちゃったのよ。そして、ラピスが羨ましいともね。そう思っちゃったら、もう世界の均衡とか、そういうのどうでもよくなっちゃったの。今が楽しければそれで良い……ってね。」
なるほどな。あの会合を切っ掛けに楽観的になった……ってわけか。
「でも、犯人探しはもちろんするわ。許せないしね。」
そう語った彼女は料理を食べ進める手が早くなっている。
そしてあっさりと料理を平らげてしまうと、口元を拭く。
「ふぅ、美味しかった。こんな暮らしが出来れば世界の均衡なんてどうでも良いのよ。でも、奴等はきっと……これからも情報を知ってるアタシを殺しに来るわ。それにアンタ達を巻き込めない。」
そう言って立ち上がろうとする彼女の肩に手を置くと、俺は無理矢理座らせた。
「キャッ!?な、なにするの!?」
「自分の責任を自分で果たすってのはご立派だが、その前に約束したものを忘れてないか?」
「え?」
「エンラ、お前はもうこの城のメイドとして契約を交わしてる。」
「それはそうだけど……。」
「その契約はお前がこの城のメイドである限り、俺達はお前を守る家族だっていう契約だ。」
「家族……アタシが?」
「あぁ、もちろんソニアもだ。それに、ここには魔王であるアルマ様や勇者であるカナンもいる。それにラピスもジャックも、ナインもスリーも……そして俺も。皆家族だ。家族の危機は皆で守るのさ。」
「家族……ね。でも本当にいいの?アタシがここにいたら皆危険なのよ?」
「だが、ここが一番安全なのも事実だ。もしエンラとソニアがここを離れれば……真っ先に狙われるぞ?」
「それは確かにそうだけど…………いたっ!?!?」
そうエンラがくよくよしていると、不意に歩み寄ってきたラピスが彼女の頭に拳骨を落とした。
「まったく、五老龍ともあろうものがくよくよくよくよしおって情けない。」
「くぅぅ……ラピス!!アンタ何すんのよ!!」
「喝を入れてやったのだ。感謝してほしいぐらいだの。」
ラピスは拳骨した手にふっと息を吹き掛けると、エンラに向き合った。
「ここには我らよりも強いものがゴロゴロおるのだ。黙っておぬしはここで匿われておれ!!それがおぬしの従者のソニアのためにもなる。」
「う~、わかったわよ!!もう知らないからね!?」
ぶるぶると顔を振って邪な考えを振り払うと、エンラは俺の方を向いて言った。
「アンタも、アタシを守るって言ったんだからちゃんと守りなさいよね!!」
「あぁ、任せろ。」
まぁ吹っ切れたようで何よりだ。たぶん世界で一番ここが安全な場所だしな。賢明な選択だと思う。
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