上 下
224 / 350
第7章 動き出すヒュマノ

第224話 ヒュマノの秘策

しおりを挟む

 俺が指差してやると、その指揮官らしき男は激昂し残っている部隊に指示を出した。

「残存部隊はそいつを狙え!!エルフは後でいい!!」

「それは悪手だと思うんだがなぁ。」

 指揮官の号令と共に雪崩のように一斉に向かってくる人間の兵士達。もちろん、俺にしか目を向けていない彼らには木の上からエルフ達の正確無比な矢の雨が降り注ぐ。
 それのせいで兵士達はなかなか前進できず、塊となってしまっていた。

「それじゃあ行くか。」

 剣を片手に、俺はトン……と地面を蹴ると、塊となっている兵士達の頭の上に足を下ろす。

「悪いが踏み台にさせてもらうぞ。」

 そして兵士達の頭を足場にして一気に指揮官の前へとたどり着くと、彼の横にいた二人の兵士が俺へと向けて剣と槍を振るってくる。だが、どちらも攻撃の軌道が単純すぎる。

「ほっ!!」

 槍の突きを剣の峰に当てて逸らすと、俺はそのまま剣を動かし、剣を持っていた兵士の手首へと向かって峰打ちをした。すると、たまらず剣を持っていた兵士は痛みで剣を手放した。

「ぐあぁっ!!」

 そして続けざまに今度は槍の柄の部分をスッパリと真っ二つにする。

「なにっ……!?」

 戦う武器を失った彼らを蹴飛ばして吹き飛ばすと、俺は既に恐怖で顔をひきつらせている指揮官へと目を向けた。

「選択肢は2つ。今すぐ部隊をヒュマノへと引き返させる……もしくは全員ここで死ぬかだ。」

「く、ぐぅ……。我々に撤退という選択肢はないっ!!お前達っを飲め!!」

「何をするつもりだ?」

 そうヤツが号令を出すと、足に矢を受けていて動けなくなっていた兵士も、動ける兵士も何かを決心したように小さいカプセルに入った何かを飲み込んでいた。

「何をさせた!!」

 剣の切っ先を指揮官の喉元へと突きつけて問い詰めると、ヤツは不敵に笑う。

「コレがヒュマノの最新技術だ……エルフ?魔族?そんなもの超越してくれる!!」

 そう高々と言い放ったヤツだったが、何かを飲み込んだ兵士達の様子を見て表情を変える。

「「ぐぉ……ァァァァァァアアアッ!!」」

 メキメキと音を立てて人間から何か違うものへと変貌していく兵士達。

「な、なんだこれは……違う……。説明と違うぞ!!」

 明らかに思っていたことと違うことが起きたようで、焦る指揮官の男。

「ッチ、仕方ない。ちょっと眠ってろ!!」

「げぇっ!?」

 剣の峰でヤツの後頭部を打ち、気絶させると俺はヤツを抱えて木の上へと飛び上がる。すると、リリルがすぐに木の枝を伝ってやって来た。

「何が起こってる!?」

「わからない、だが……少なくともこいつを生かしておけば何かしら情報が得られるはずだ。」

「……わかった。こいつは捕縛しておく。」

「あぁ、頼む。それと……エルフ達は集落に避難させた方がいい。」

「なぜだ?」

「嫌な予感がする。あいつらの相手は俺がするから遠くに離れていてくれ。」

「……わかった、気を付けろよカオル。」

「あぁ。」

 そして再び俺は地面へと降り立つと、そこには先ほどまで人間だったはずの何かが大量に犇めいていた。
 その姿はまるで魔物……。人間だった頃の面影は全くと言ってよいほどにない。

 それと、俺は彼らの姿に既視感があった。

(……あの姿、まるで氷魔人のような。)

 人間から姿を変え、魔物のようになった彼らは氷魔人のような姿をしていた。多少俺が見た氷魔人とは違うようだが……そっくりだ。

「まさか、本当にヒュマノが人間を魔物に変える薬を?」

 いや、だが……指揮官らしきあの男のあの慌て様は、何も知らなかったように見えた。仮にもし……あれが演技だとしたらこんな部隊の指揮官になるよりか、演者になった方がよっぽど天職だと思う。

「人間のままだったら峰打ちで済ませたが……魔物に成り果ててしまったのなら、容赦はしない。」

 俺は逆刃に構えていた剣を握り直すと、魔物へと変貌した彼らへと向かって構えた。

「もとは人間だった情け……苦しまないようにやってやる。」

 そして完全に魔物へと変貌し、人間の時の理性を失った彼らは一斉に俺へと向かって襲いかかってきた。

「シッ!!」

 向かってくる奴らに飛閃を飛ばし、先頭集団の首を一撃で飛ばす。もとは仲間だった者達の死体を踏みつけながらも向かってくる魔物へと変貌した者達……。
 彼らが人間だった……と思ってしまえば躊躇いが出る。だから……俺は心を殺し、彼らと向き合った。

 そして数分後……緑色だった大地には真っ赤な鮮血の池とそこらじゅうにの死体が転がっていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上
ファンタジー
チートを貰い異世界転生。何も成し遂げることなく35年……、ついに前世の年齢を超えた。 ※この小説は他サイトにも投稿しています。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

異世界の片隅で引き篭りたい少女。

月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!  見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに 初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、 さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。 生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。 世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。 なのに世界が私を放っておいてくれない。 自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。 それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ! 己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。 ※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。 ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。  

はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。 ※第二章は全体的に説明回が多いです。 <<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

処理中です...