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第6章 龍闘祭

第209話 龍闘祭決勝戦

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 エルデが宣言した10分間の休息の時間は、とても時間の流れが早く感じた。こういう時の時間の流れってのは早く感じるものなんだよな。誰かを待ってたりするときは遅く感じるのに……。

 そんなことを思いながら俺はふと目を開けると、目の前にラピスの顔があった。

「……何してるんだ?」

「いや、おぬしそれで休めておるのか?と疑問に思ってな。」

 この10分間、俺は壁に背を預けて少し眠っていた。俺は日本にいたとき徹夜で仕事をすることもあったし、ほぼ休憩時間がないぐらい忙しく仕事もしたことがある。その経験から身に付いたのが、ほんの5分10分だけぐっすり眠るという技。
 まぁ使う場面は限られるし、普通に寝た方が疲れもとれる。その場しのぎの技だな。だが、今はこれで充分だ。

 ステータス画面を開いてみると、先ほど消耗した魔力、そして体力は全回復している。俺の称号の効果とこの技を組み合わせればほぼ一日中活動は可能だが……命自体を削りそうだからそれはやめておくとしよう。

「魔力も体力もバッチリさ、ほんじゃ行ってくる。」

「うむ、頑張るのだぞ!!」

 そう声援を投げ掛けてくれたラピスに手を振って俺は闘技場の中央へと向かう。すると既にエルデの従者がこちらを待ち構えていた。彼は俺が目の前に来ると問いを投げ掛けてくる。

「体は万全か?」

「もちろん。」

「なら良い、万全でないそなたを倒したとてそれがしの名声には繋がらないからな。」

 背の高い彼は俺のことを見下ろしながらそう言ってフッとうすら笑みを浮かべる。

(人の姿で身長は俺の倍……龍の姿になったらどれだけデカくなるんだ?)

 体が大きいというのはそれだけで純粋な強さに直結する。こいつはその大きな体にどれだけの力を宿しているのだろうか。

 そして俺とエルデの従者が相対すると、審判のエルデが声をあげる。

「では、決勝戦……ラピスの従者対此方の従者。勝負始めィッ!!」

 その開戦の合図とともにエルデの従者は龍の姿へと変身するかと思いきや、何を思っているのかスタスタと俺の方に歩み寄ってくる。

「戦う前に名を名乗っておこう。某の名はジン。そなたの名はなんという?」

「カオル。」

 俺はジンに自分の名前だけを簡潔に告げると、彼はニヤリと笑った。

「カオルか、覚えておこう!!」

 それと同時にジンは俺の目の前で龍の姿へと変身していく。

 ……やはりデカい。さっき戦ったリッカやソニアよりも遥かに巨大なその体はまるで一つの大きな山のようだ。

「では参るぞ!!」

 ジンは大きな足を闘技場の地面へと打ち付ける。すると、俺の足元の地面が急にモコモコと動き、鋭い槍へと形を変えて俺を襲ってきた。

「なるほど。」

 俺は一歩後ろに下がりながら迫り来るそれを抜刀した剣で両断する。すると、斬られたその槍はサラサラと砂になり闘技場の足場へと戻る。
 ジンが使う魔法ってのはこういう地面とかを変形させる魔法か。あとラピスは兎に角硬いし、ブレスもなかなか厄介だ……と言っていたな。

 ならちょっと試してみるか。

 俺はアリス流剣術の初の太刀である飛閃をジンへと向かって飛ばす。すると、彼は微動だにすることなくその硬い岩のような鱗で受け止めて見せたのだ。

「少し痒いな。」

 飛閃を喰らった場所をポリポリと爪で掻くジン。痒いとは言っているが、実際はほぼ何も感じていないのだろうな。飛閃が当たった場所には傷一つついていない。

「硬いな……傷一つつかないか。」

 こいつを譲ってくれた店主の話ではオリハルコンすらもスッパリと切れる……という話だったが、ジンの鱗はそれ以上の硬さというわけだ。

「そのような矮小な攻撃では某に傷はつけられんぞ。早く真の姿になったらどうだ?」

 真の姿もなにも、この人間の姿こそが俺の真の姿なんだけどな。ラピスの従者って立場になってるからみんな龍って勘違いしているのだろうが、俺は変身なんかできやしない。

 そう頭のなかでぼやきながら、俺は剣を鞘へと仕舞うと、だらん……と全身の力を抜いた。

 それを見たジンは不敵に笑う。

「何かするつもりだな?受けて立つ!!」

 さっきはと煽ってきたが……今度は煽る余裕があるかな?

 俺は全身の力を抜きながらも持っている剣へと魔力を集中させる。

 そして濃密な魔力を纏った剣を居合いの如く一気に鞘から抜き放ちもう一度飛閃を放った。

 もちろんそれを見てもジンは動かない。不敵に笑っているだけだ。しかし、飛閃が彼の体に当たりスッ……と吸い込まれるように消えていった次の瞬間。

 ボンッ!!

「ぐぅぁっ!?」

 飛閃の当たった場所の内部から爆発が起こり、その苦痛から思わずジンは悲鳴をもらす。

 今のは飛閃と魔力爆発のスキルを組み合わせた俺流の遠距離攻撃だ。実戦で初めて使ったが……ジンのような硬いやつ相手には効果抜群らしい。

 飛閃が当たり爆発した部分を手で押さえるジンに俺は言った。

「今度は痒そうじゃないな?」

「くっ……やってくれる。」

 ジンが傷を負うと、会場が大きく沸き上がる。どうやら彼が傷つくというのはよっぽどのことらしい。

 そんな最中俺はもう一度剣を鞘へと納めた。

「もう一発行くぞ?今度も受けるか?」

 そしてもう一発先程と同じ攻撃を繰り出した次の瞬間、突然視界が砂嵐で遮られた。目眩ましのつもりか知らないが、意味はない。 

 俺は気にすることなく再び飛閃を放ったが、それは砂嵐を切り裂き、闘技場の壁へとぶち当たった。

「なっ!?いな……い?」

 砂嵐が晴れたかと思えば、目の前からジンは姿を消していた。
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