魔王城のグルメハンター

しゃむしぇる

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第6章 龍闘祭

第203話 胃袋籠絡

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 そして俺はエルデ達にラピスと全く同じステーキを作り、目の前に並べると待ちきれずにいたグロムが真っ先にそれに飛び付いた。

「ん~~~っ!?」

 グロムが食べている様子を見ているエルデ達。そしてグロムはゴクッ……と飲み込むと、ふるふると体を震わせた後叫んだ。

「美味いッ!!美味いぞっ!!」

「むふふ、だろう?ほれ、エルデ達も早く食べぬと冷めてしまうぞ?」

「うむ、ではいただこうか。」

 ラピスに促されるがまま、エルデ達もステーキを口に入れた。その瞬間、彼らもグロム同様に目を大きく見開き、驚きながら食べている。

 タラッサとエンラは、あまりに美味しかったのかすぐにゴクンと飲み込んでしまっていたが、エルデはじっくりと味わうように咀嚼した後飲み込むとラピスと同じようにほぅ……と一つ至福のため息を溢した。

「あぁ……なるほど。これが真にというものか。」

「お肉がこんなに美味しいと感じたのは初めてですわ~。」

 エルデもタラッサも満足してくれたらしい。

「ラピス、あんたまさか毎日こんなのを食べてるの!?」

「そうだ。今日は肉だが、魚や野菜と更には甘味も我は毎日こやつに作ってもらっている。」

「それちょっとズルくない?ねぇ、あなたカオルって言ったわよね?ワタシのとこに来ない?」

「オレのとこに来てもいいぜ?毎日こんなのを作ってくれるんなら大歓迎だ!!」

「おぬしらっ!!我のカオルを奪おうとするでないわっ!!」

 エンラとグロムへラピスが睨みをきかせている最中、気配もなく俺のとなりにタラッサがヌルリと現れる。

「さっきのラピスの話を聞いていた感じ……あなた、魚も美味しくできるのかしら?」

「はい、もちろんです。」

「うふふふ、それはそれは是非とも食べてみたいですわね。」

 にこりと彼女は微笑むと俺の腰にある収納袋に顔を近づけ、クンクンと鼻をならす。

「僅かな海の香り……そして魚の匂い……ここにあるのでしょう?」

 収納袋にしまっている魚の匂いを敏感に嗅ぎとった彼女はツンツンと収納袋をつつきながら問いかけてくる。

 流石は海を支配している龍とだけあって海の匂いには敏感か。

「ありますよ。ですが、ラピス様に許可を頂かねばなりません。」

「あら、そうですのね。わかりましたわ。」

 すると、彼女はラピスのもとへと歩みより声をかける。

「ラピス、私あなたの従者が手掛けるお魚を食べてみたいですわ。」

「魚か?カオル、用意してるのか?」

「ありますよ。」

「なら魚も喰わせてやるのだ。」

 ラピスから許可を得て俺が魚をさばこうとすると、グロムが不満の声をあげた。

「オレは魚なんかじゃなくさっきみてぇな肉が食いたいぜ~。」

「グロム、おぬしさっきは魚は小骨が多く喰えんと言っておったな?」

「あぁ、あのちっこい骨が喉に引っ掛かるのがオレは嫌いだ。」

「カオルが作る魚の料理に骨などはない。」

「骨が無ぇ?どういうこった?」

「うむ、まぁ喰えばわかるのだ。」

 そうラピスとグロムが話している最中、てきぱきと魚を捌いているとそれを横で見ていたタラッサが問いかけてくる。

「それは魚をバラバラにしているんですの?」

「これは三枚下ろしって言って、魚の骨と身を分ける技なんです。」

「そんな技があるんですのね。興味深いですわ。」

 そして三枚下ろしを終え、骨だけになったものを俺はタラッサに見せる。

「コレが魚の骨で、こっちの二つが身の部分なんです。」

「面白いですわね。でもこの骨と骨の間についている身はどうするんですの?」

 そう言ってタラッサが指差したのは魚の中落ちの部分だ。

「ここはこうします。」

 俺は中落ちをスプーンでこそげおとすと、それに醤油を少し垂らしてタラッサに差し出した。

「中落ちです。召し上がってみてください。」

「お、おいズルいぞタラッサ!!」

 自分よりも先に食べようとしているタラッサにラピスが吠える。しかし彼女はやめようとはしない。

「うふふ、ではいただきますわ。」

 彼女はスプーンでいっぱいに中落ちを掬い上げると、それを一気に口の中へと放り込んだ。

「ん~♪これは……これは美味しいですわっ!!」

「それは良かったです。」

「先ほどこれにかけたその赤黒い液体はなんですの?それが魚の味を引き出しているように感じますわ。」

 そう言ってタラッサが指差したのは醤油だ。

「これは醤油っていって豆を発酵させて作った調味料なんです。」

「それはどこで手に入れられますの!?」

「えっと……多分売ってないと思います。良かったらこれ、持っていきます?」

 俺はタラッサにストックしていた醤油のボトルを手渡した。

「いいんですの!?感謝しますわ!!」

 醤油を受け取った彼女はスキップしながら自分の席へと戻っていった。
 
「おい、カオルよ。あれを渡してしまってよかったのか?」

「大丈夫。まだまだストックはあるから。」

 醤油はケース単位で買っているからまだまだストックはある。ラピスに心配されるほどではない。

 そして俺は今度は刺身の盛り合わせを作り上げると五老龍達の前に置く。ラピスは彼らにその食べ方を教えていた。

 もちろん五老龍の面々はその味の虜になり、無我夢中になって食べている。魚は嫌いと言っていたグロムもペロリと平らげてしまいそうな勢いだ。

 さて、これで彼らの胃袋を掴むことはできたな。ラピスの目的の第一段階は無事完了だ。

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