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第5章 成長する2人
第166話 手ごわい魔物
しおりを挟む魔神の腕輪を装備して水晶に囲まれた階層をスリーの指示通りに進んでいると、突然目の前に生えていた水晶が地面から盛り上がり、地面の中から水晶を甲羅に背負った亀のような魔物が現れた。
「おぉっ!?今度は亀か。」
「オォォォォッ!!」
その水晶を背負った亀は俺を見つけるなリ唸るような咆哮を上げた。すると、突然手足と頭を引っ込めて甲羅に籠ってしまった。
「お?……お?」
こっちを威嚇するような仕草を見せたか思えば突然引っ込んでしまったその魔物に、首をかしげて様子をうかがっていると、突然ぴたりと止まっていた甲羅がまるでコマのように急速回転し始める。
そしてどんなからくりを使っているのかわからないが、甲羅を回転させながらものすごいスピードで俺へと向かって飛んできたのだ。
「っ!!」
巨大なコマのように回りながらこっちに向かって飛んで来たそれを、一歩横に避けて躱す。すると、後ろにあった水晶の柱に当たって跳ね返り、さらに加速しながらこっちに向かって飛んで来た。
「速いな。」
それからもその亀のような魔物は反射を繰り返し、どんどん加速しながら攻撃を当てようとしてくる。
あそこまで加速したあの巨体をさすがに体で受け止めるのは危険だよなぁ……。それにあの甲羅に生えている鋭利な水晶。それに回転が加わっているんだ、手で受け止めようものなら切り裂かれかねない。
さてどうしたものかな。
「どうにかして動きを止めないと……なっ!!」
魔神の腕輪を着けた右手をやつに向かって振りかざすと、アーティファクトに籠めた魔力が雷撃となって放たれる。稲妻のような速度で放たれた雷撃は魔物に直撃するも、まるで意に介していないかのように雷撃を喰らいながらこちらに突っ込んできた。
「チッ、全然効いちゃいないか。」
魔神の腕輪の攻撃は意味がない。ならあのナイフ状のアーティファクトならどうだろうか?……いや、流石にあの甲羅は硬そうだ。切り裂けるとは思えない。魔力を全部つぎ込めばもしかするかもしれないが……それはちょっとリスキーすぎる。
「じゃあ、今俺がやれる手段は……これしかないな。」
俺はグッ……と拳を強く握り、魔力を集中させる。そして回転しながら向かってくる亀の魔物に向かって思い切り魔力を籠めた拳を振るった。
次の瞬間伝わってきたのは、とんでもなく硬い金属を殴っているような感覚……。そしてボンッ!!と破裂したような衝撃。
破裂したような衝撃は、俺の攻撃スキルである魔力爆発を使ったからだ。硬い甲羅の内側にある柔らかい体を外側から破壊するにはこの方法しか思いつかなかった。これが効いていればいいんだが……。
俺の出せる全力で拳を振るったおかげで、俺が突き出した拳の先で亀の魔物は回転もスピードもピタリと止まって、ドスンと音を立てて地面に落ちた。すると、泡を吹きながら、甲羅の中にひっこめていた頭が飛び出してきた。そして亀の魔物の体が青い光となって俺の体に吸収されていく。
何とか倒せたことにホッと安堵の息を吐き出していると、今まで体が本能的に忘れさせていた痛みが突然襲い掛かってきた。
「いっ……………てぇぇぇぇぇぇっ!?!?」
亀に突き出した右手にとんでもない痛みが襲い掛かってくる。外傷自体はないが、とんでもなく硬いものを殴ったから骨がジクジクと痛い。真っ赤に晴れてるし……。
思わず右手を押さえてうずくまっている俺に無表情でスリーが話しかけてきた。
「よい攻撃でしたマスター。……少し腕を負傷しているようですが、外傷はないようですし、内部の骨にも傷はついていないようです。ご安心ください。」
「痛いことに変わりはないんだけどな!?まぁ、骨に異常がないってだけで安心はしたけども!!」
はぁ~……まぁこの痛みも少しすれば引くだろう。称号の効果で自然回復力は高くなってるしな。
ふ~ふ~と赤くはれている右手の拳に息を吹きかけながら立ち上がると、スリーがまた口を開く。
「マスター、今後の戦闘に支障が出るようでしたら治しましょうか?」
そう言ってスリーはチャキッ……と銃を取り出した。
「いや、大丈夫だ。すぐ治るさ……多分。もしゲートガーディアンにたどり着くまでに治んなかったら頼む。」
「承知しました。」
「ふぅ、よし……少し落ち着いた。先に進もう。ゲートガーディアンのいる方向は?」
「この先ですね。」
そして俺はスリーが指差した方向へと再び歩き出すのだった。
ダンジョン攻略の道のりはまだまだ長そうだ。
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