魔王城のグルメハンター

しゃむしぇる

文字の大きさ
上 下
157 / 350
第5章 成長する2人

第157話 帰りを待っていた者

しおりを挟む

 初めての依頼を達成し、城下町でお菓子を購入したアルマ様とカナンを連れて魔王城へと帰ってくると、そわそわとした様子のジャックが城門の前で待っていた。

「おぉ!!お帰りなさいませ、魔王様、カオル様、カナン様。お怪我はありませんか?」

「大丈夫~!!よゆ~だったよ!!ねっ?カナン?」

「う、うんアルマちゃん。」

「それより見てみて!!これ、今城下町で流行ってるお菓子なの!!」

 そう言ってアルマ様は先程購入したクレープのようなお菓子をジャックに見せた。

 アルマ様曰く、あのお菓子が今城下町で流行っているお菓子なのだとか……。それは、色々な果物や生クリームがクレープ生地のようなものに包まれていてとても美味しそうだ。俺も買ってみればよかったな。

 まぁクレープなら俺でも作れるから、後でオリジナルのものを作ってみるか試作もかねてな。

「魔物の討伐のお金でお買いになったのですな?」

「うんうん!!前から食べてみたかったんだよね~。」

 そう言ってアルマ様はまたクレープらしきものにかぶりついた。クレープ生地の隙間からたっぷりの生クリームが溢れてきて、アルマ様の口元につく。

「おっと魔王様、お口にクリームが……失礼いたします。」

「んっ。」

 溢れてアルマ様の口元についたクリームをジャックは優しくハンカチで拭う。

「ありがとジャック。」

「いえいえ、お礼を言われるほどのことではございません。執事として当然の責務を果たしたまででございます。」

「後はお部屋に言って食べよ~、カナンも一緒に行こ?」

「う、うん!!」

 そしてアルマ様はカナンと一緒に城の中へと入っていった。それで取り残された俺にジャックが声をかけてきた。

「カオル様ありがとうございました。」

「え?」

 何かお礼を言われるようなことをしただろうか?特にそんなことをした覚えはないんだが……。

「魔王様のことを見守ってくれたことに感謝を述べているのです。」

「あ、あぁそのことですか。それなら当然のことをしたまでですよ。それにやっぱりレッドキャップ如きじゃ話にならなかったです。」

「えぇ、魔王様が魔物と相対して怪我をされるという心配はあまりしておりませんでした。魔王様に傷を負わせられるような魔物はこの近郊にはいませんから。それよりも私が心配していたのは魔物ではなく他の何者かの魔王様がたぶらかされてしまうことです。魔物よりも恐れるべきは知性ある人という存在ですからな。」

「まぁ確かに、言ってることは理解できます。」

 アルマ様がただの魔物程度に怪我を負わされるとは思えない、それにカナンも一緒にいたんだからなおさらだ。魔王と勇者、この世界最強と言ってもいいであろう二人が力を合わせて戦っている状況に正直俺は一切の不安はなかった。
 それでもあくまでもそれは魔物が相手になった場合の話だ。人が相手になった場合は話が違う。ある一部の人という存在は魔物よりもよっぽど狡猾だ。アルマ様やカナンに及ぶ力を持っていなかったとしても、言葉で巧みに心を操る。ジャックが心配していたのもそれだろう。

「危険を避けるためにも、なるだけ関係のない人との接触は避けておきましたから。」

「よい判断です。魔王様は体は成長したとはいえ、心は未だ少々幼さが残っております。それに浸けこんでくる良からぬ輩がいないとも限りませんから。」

「わかってます。アルマ様は今回の依頼で自信が付いたみたいなので、多分近々また依頼を受けに行くかもしれません。その時も気を付けます。」

「お願いいたします。魔物ハンターとして経験を積むことは魔王様の成長に良い影響をもたらすと思いますので、できれば続けてほしいと私めも思っている次第です。」

 どうやらジャックはアルマ様が魔物ハンターとして経験を積むことに反対という姿勢ではないらしい。最初、アルマ様が俺と同じ魔物ハンターをやると言い出したときは少し否定的な態度だったように見えたが……今後のアルマ様の成長の糧になると判断した彼なリの決断なのだろう。

「続けさせてもいいんですか?」

「ホッホッホ、魔王様の成長の糧となるのであれば止める理由はありません。それにカナン様とカオル様という心強い味方も近くにいてくれるようですからな。」

「あはは、流石にアルマ様やカナンには実力的に及びませんけど……万が一の時には守れるように精進します。」

 もし二人に危険が迫った時には俺が身を挺してでも守らないとな。近頃スリーと毎日戦闘訓練をしてるおかげでだいぶ戦闘の技術ってやつが身についてきたとは思うが、あの二人の圧倒的な力を目の当たりにすると、まだまだ届かないことを実感させられた。

「スリー様と近頃激しいトレーニングをしていらっしゃるようですから、きっと問題ありません。」

「はは、あれホントにつらいんですよ?」

 いつも魔力が枯渇して動けなくなるまで彼女に扱かれるからな。ちなみに遠慮というものは一切ない。

「ホッホッホ、頑張ってくださいませ。さてそれでは魔王様のご無事もこの目で確認できましたので私も業務に戻ります。」

「はい、俺もそろそろアルマ様たちのご飯を準備しないといけないので。」

 そうして俺とジャックは城の中へと戻るのだった。こうしてアルマ様とカナンの魔物ハンター一日目は終了したのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

やっと買ったマイホームの半分だけ異世界に転移してしまった

ぽてゆき
ファンタジー
涼坂直樹は可愛い妻と2人の子供のため、頑張って働いた結果ついにマイホームを手に入れた。 しかし、まさかその半分が異世界に転移してしまうとは……。 リビングの窓を開けて外に飛び出せば、そこはもう魔法やダンジョンが存在するファンタジーな異世界。 現代のごくありふれた4人(+猫1匹)家族と、異世界の住人との交流を描いたハートフルアドベンチャー物語!

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

処理中です...