上 下
100 / 350
第4章 激突

第100話 空に浮かぶ原生林

しおりを挟む

 スカイフォレスト

 それはその名の通り天空に浮かぶ巨大な森林のことだ。空に浮かんでいる原理はスカイフォレストの大地の中心には巨大な魔力の核があり、それが地上の魔力と反発しあって浮いている。飛行魔法を覚えているものや、翼があり空を飛ぶことのできる人種などでも、膨大な魔力やスタミナがなければはるか上空に浮かぶその場所にはたどり着けない。
 
 しかしそのおかげででスカイフォレストの自然は人の手や魔物の手が一切加わっていない完全な原生林と化している。そのため地上には探しても滅多にないような貴重な植物が活き活きと生えている。
 またそこにたどり着いた者は皆一様に、スカイフォレストに生えている野菜を食した後……地上で流通している野菜が食べられなくなった。という証言をしている。

 そのことから、スカイフォレストに存在している植物は特別であることが良くわかる。

 その中でもサンサンフラワーはスカイフォレストにしか咲かない超貴重な花である。サンサンフラワーは咲き終わりに大きな実をつける。それがサンサンフルーツと呼ばれている幻の食材だ。

 それが次にアルマ様が欲する……魔王としての成長に必要な食材である。

 次にアルマ様がお願いする食材を知った俺は、ジャックに渡された本を閉じた。

「スカイフォレストに生えるサンサンフラワーの実……サンサンフルーツ。それが次にアルマ様が欲する食材なんですね?」

「その通りでございます。」

 今回は魔物と戦ったりするようなことにはならなそうだから、案外簡単に手に入れられそうだが……問題なのはどうやってそのスカイフォレストとやらに行くかだな。

「今回は魔物とかが障害じゃなくて、どうやってそのスカイフォレストに行くかが鍵になりますね。」

「スカイフォレストには魔物も人も存在しておりません。あるのはただただ、広大な自然のみですからなぁ。しかし、カオル様には力強い味方がいらっしゃるではありませんか?」

「力強い味方……ですか?」

「はい、ラピス様でございます。」

「あぁ!!確かにラピスならその遥か上空にあるっていうスカイフォレストまで飛んでいけるかもしれません。」

 あいつ、一応スカイブルードラゴンっていう種族らしいし、五老龍?とか言うやつの一角らしいし……。空を支配するドラゴン?らしいし……。遥か上空にあるスカイフォレストまで連れてってくれるのはわけないだろう…………多分。

「それで、そのスカイフォレストってのはどこの上空にあるんです?」

「スカイフォレストは少しずつ移動しております。今はちょうど……ヒュマノの王都の上空あたりでしょうか。」

「えぇ!?いけないじゃないですか。」

「ご安心ください。魔王様がそれを欲する時期にはヒュマノからこちらへと流れてくると思われますので。」

「な、ならいいんですけど……。」

「まぁ、恐らく今回は強い魔物などと戦うような事はありませんので、観光のような気持ちでスカイフォレストを探索していただければと、私めは思っております。」

「そう……ですね。後で自分でもちょっとそれについて調べてみます。」

 そして俺は最後のページまで読むことなく彼に本を返した。

「さて、それでは私はこれにて失礼致します。そろそろ魔王様とカナン様の様子を見に行かねばいけないので。」

「えぇ、ありがとうございました。」

 彼はスッと立ち上がると、ペコリとこちらに一礼して部屋を後にして行った。

 静かになった部屋の中でポツリと俺は呟く。

「……スカイフォレストねぇ。」

 天空に浮かぶ人や魔物の手が一切加わっていない原生林……。さっきの本を見た限り、そこには貴重な植物だけでなく、野菜も生えているようだ。しかも、地上の野菜と比べ物にならないほど美味しい野菜が……。

 これ程料理人心をくすぐるものはないな。

「一度食せば、地上の野菜が食べられなくなるほど美味しい野菜か……。」

 一重に野菜といっても、産地や生産方法で大きく味は変わるものだ。分かりやすい例えで言えばトマトだな。
 限界まで水分を与えずに育てたトマトは甘くフルーツのような味になるのだ。

 しかし、それはあくまでも人の手が加わっているものだ。

「天然のもので、そこまで美味しくすることなんてできるのか?」

 甚だ疑問だが、スカイフォレストに行った人達が皆一様にそう言っているのであれば信憑性は高い。

「楽しみだな。」

 さてと、まだ時間もあるし俺の方でも少しスカイフォレストについて調べてみるか。

 スカイフォレストの野菜が有名なら……八百屋が何か知っているのではないだろうか?
 そう思った俺は行きつけの八百屋に足を運ぶことにした。



 今日の食材を買うついでに八百屋の店主にスカイフォレストの野菜のことを聞いてみる。

「あの、スカイフォレストの野菜とかって……入ったりしないんですか?」

「あぁ~……スカイフォレストの野菜ねぇ。」

 俺が問いかけると店主はいつになく渋い表情を浮かべた。

「あれは年に一度……競りで出るかどうかすら不透明な物で、うちにはまず入んないね。」

「そうですか。」

「でも競りに出ないだけで、闇のオークションとかにはスカイフォレストの野菜はたまに出品されてるって話は聞いたことがある。」

 闇のオークション……確か前にヒュマノからの手紙が来た時にジャックが口にしていたような気がするな。

 思えば、まだ俺はこの世界に来てオークションとかそういうのに参加したことはなかった。

 その闇オークションとやらを覗いてみる価値は十二分にあるな。
 そうと決まれば早速ジャックに取り合ってみよう。

「ありがとうございました。また近々顔を出しに来ますね。」

「おぉ~ぅ!!いつでもここで待ってるよ。」

 いくつか野菜を購入し、俺は城へと戻るのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上
ファンタジー
チートを貰い異世界転生。何も成し遂げることなく35年……、ついに前世の年齢を超えた。

死んだのに異世界に転生しました!

drop
ファンタジー
友人が車に引かれそうになったところを助けて引かれ死んでしまった夜乃 凪(よるの なぎ)。死ぬはずの夜乃は神様により別の世界に転生することになった。 この物語は異世界テンプレ要素が多いです。 主人公最強&チートですね 主人公のキャラ崩壊具合はそうゆうものだと思ってください! 初めて書くので 読みづらい部分や誤字が沢山あると思います。 それでもいいという方はどうぞ! (本編は完結しました)

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

処理中です...