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第3章 魔王と勇者

第098話 解き放たれたカナン

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 そしてブレードマーリンとバルンフィッシュを使った料理を作り、みんなが楽しみながらそれを食べていた最中だった。

 突然カナンの体から光が溢れ始めたのだ。

「ん!?」

「な、なになに?何が起きてるの?」

「これは……まさか。」

 ジャックは何かを確信したようにポツリと呟く。

 カナンの体が光に包まれた次の瞬間、パン!!と風船が弾けるような音とともに彼女を包んでいた光が弾け、中から少し背が伸びたカナンが現れた。

 すると……。

「あ……あ……?」

 カナンは自分の喉を押さえて、声を発したのだ。

「カナン?」

 アルマ様が不安そうにカナンに声をかけると、カナンはにっこりと笑って言った。

「アルマちゃん!!ありがと~!!」

「わぁっ!?」

 そしてカナンは突然ぎゅ~っとアルマ様のことを抱きしめ、すりすりと頬をすり付けていた。

 何が起こったのかわからずに呆然としていると、ジャックが丁寧にその解説をしてくれた。

「どうやら魔王様とラピス様と釣果で競いあったことにより、カナン様は勇者として一つ階段を登ったようですな。」

「えぇっ!?でも、強い魔物と戦わないと成長はしないって……。」

「有り余るほどの力をその身に宿したお方が二人、いらっしゃるではありませんか。」

 あぁ……まぁ確かに。カナンの成長相手としてはこの上ないほど十分な二人だが……。

 こんなことでも成長というものを得られるのか。

 意外と勇者ってのは成長の基準が緩いのかもしれないな。そう考えると、アルマ様の成長条件がどれだけ厳しいものかということがより一層際立つ。

 そういえば次にアルマ様が欲する食材は何なのだろう?それも後でジャックに聞いてみることにしよう。

 兎にも角にも、感情と言葉を取り戻したカナンはさぞかし嬉しいようで、絶え間なく嬉し涙を流してアルマ様の服をびしょびしょにしている。それにはさすがのアルマ様も苦笑いを浮かべていた。

 そんな二人の横でリルとカーラは呟いた。

「いやはや、まさか勇者の成長ってやつを間近で見られる日が来るとはねぇ~。長生きってのはしてみるもんだ。」

「いやいやいや!?カーラはなんでこの状況を飲み込めてるわけ!?この前の号外に載ってた失踪したヒュマノの勇者がここ……魔王城にいるんだよ!?これハッキリ言ってすんごいやばいよね!?」

「まぁ、アタシはその号外が配られた日に一回その勇者の子と会って話をしてるからねぇ。なんとも思わないけど。このことに関してはカオルから話を聞いたほうが早いんじゃあないか?なっ、勇者失踪事件の犯人のカオルさん?」

 くつくつと笑いながらわざとらしくカーラはそう言った。するとリルがすごい勢いで詰め寄ってきた。

「き、キミがあの子を攫った犯人なのかい!?またとんでもないことをしでかしたねぇっ!?」

「い、いやまぁ……確かに攫ってしまったのは事実なんですけど。」

 どう説明すればよいものかと悩んでいると、カナン本人がリルに事の経緯を話してくれた。

「違うんです。カオルさんはボクを攫ったんじゃなくて、ヒュマノの人たちから助けてくれたんです!!」

「えぇ?ま、ますます訳が分からなくなってきたんだけど……。」

 混乱するリルに、カナンは自分がヒュマノで受けていた扱い、仕打ちなどを話し。自分から助けてほしいと俺にお願いしたことをリルに話した。すると彼女は複雑そうな顔をしながらうなずいた。

「う~、なるほどね事情は分かったよ。それでも、こりゃまたずいぶんとんでもないものを抱えたねキミもジャックもさ。」

「ホッホッホ、私めは魔王様が平和に毎日を楽しく過ごすことができればそれでよいのです。」

 にっこりと微笑むジャックの横で、俺はただ苦笑いを浮かべることしかできなかった。

「ジャックは相変わらずだね~。さしずめ魔王様ファーストってとこかな?」

 そうリルもやれやれと呆れたように苦笑いを浮かべると、カナンに向かって言った。

「まっ、ヒュマノと私達の関係が悪くなるのは、こっちとしても困るから。この事は私の胸の中に留めておくよ、安心して?」

「あ、ありがとう……ございます。」

 どうやらヒュマノと関係が悪くなると、リルにとっては都合が悪くなるらしく、彼女もまたこの事を胸の内に留めておいてくれるようだ。

 そうホッとしていたのも束の間、リルが目を細めながら俺の脇腹を肘でつついてきた。

「あの子からしたら、キミはまさに白馬に乗った王子様~だったってことだね~?」

「からかわないでくださいよ。」

 彼女の言葉に呆れながら、ため息を吐いていた俺は、アルマ様の横で顔を真っ赤にしていたカナンに気がつくことができなかった。
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