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第3章 魔王と勇者
第086話 行方不明
しおりを挟むその日の夜、俺はラピスとともにギルドに足を運んでいた。普段ならば軽い依頼をこなすついでに酒を煽るところだが今日はどうやら少し事情が違うらしい。
「それで何かあったんですか?」
俺は正面に座る彼女……リルに問いかけた。
「いや~ね、実は依頼中に行方不明者が出ちゃったんだよ。」
「行方不明?────ですか。」
「うん。まぁ、キミたちもわかってる通り、こういう仕事柄だから行方不明なんて起きうることなんだけど。何が問題って、今回行方不明になったのはけっこうベテランの人なんだよね~。」
「そやつがおっちょこちょいなだけではないのか?」
「いや……彼は頭も切れたし、腕も確かだったから安直なヘマを犯すとは思えないんだよ。」
「ほ~う。」
興味なさそうにラピスはリルの話を聞き流している。
「それで、今回はその人を見付けてくればいいって感じ……なんですね?」
「話が早くて助かるよ~。つまりはそういうこと。」
そう言ったリルにラピスは質問を投げ掛けた。
「人探し位ならば我ら以外の者でもできるだろう?なぜ敢えて我らに頼むのだ?」
「もし仮に、行方不明になった彼が魔物に殺されていたら……その魔物はベテランハンターをも倒すほど強いってこと。そんな強い魔物がいるかもしれない場所に下手に人員は割けない。つまり、リスク回避ってやつだね。」
リルの言っていることは確かに理に適っている。ミイラ取りがミイラになり被害が拡大するのを防ぐにはそれが最適解だろう。
「その人が居なくなった場所はどこなんです?」
「ここから南に少し行ったところにある廃鉱山。」
俺がリルから詳細を聴いていると、ラピスが驚いた表情で問いかけてきた。
「お、おいカオルよ?こんな依頼を受けるつもりなのか?」
「あぁ、もちろんだ。」
「はぁ……まったくどこまでおぬしはお人好しなのだ。」
「いやなら帰っててもいいぞ?」
「バカを申すな。おぬしに何かあったら誰が我の飯を作るのだ?面倒だが、我も付き添ってやる。」
渋々といった様子でラピスがそう言うと、リルはにこりと笑う。
「ありがとー二人とも!!報酬は弾むからお願いねっ。」
そしてリルは、その行方不明になったハンターの顔写真や持っている武器の特徴などが書かれた紙を手渡してくる。
それを受け取った俺は椅子から立ち上がる。
「それじゃあ時間が惜しいので……早速行ってきます。」
「おぬし、報酬を弾むという言葉……忘れるでないぞ!!」
ラピスとギルドを飛び出すと、俺達は南にあるという廃鉱山へと急いで向かう。
その途中で俺はリルにもらった行方不明になったハンターの情報に目を通していた。
「名前はステン……歳は42歳か。」
「42歳だと?あやつめ……ベテラン、ベテランと言っておったがまだまだ若造ではないか。」
「そういうラピスはいくつなんだよ。」
「覚えておらん!!何せ100から先は数えるのをやめたからな。」
「そ、そうか……。」
キッパリとそう言ったラピスに、俺は少し呆れながらそう答えるしかなかった。
そして暫く走り続けると、リルの言っていた廃鉱山が月明かりに照らされて見えてきた。
「あそこだな。」
見えてきた廃鉱山へと駆けている途中で、ラピスが突然クンクンと鼻をならしはじめた。
「ん?クンクン……クンクン……。」
「どうした?」
「カオル、その先に見える山から血の匂いがするぞ。」
「血の匂いだって?」
「うむ。しかも血の匂いだけではない……何かが焼けこげるような匂いもする。」
ラピスの嗅覚は信用できる。ノーザンマウントでもあの氷魔人が殺した魔物の血の匂いを感じ取っていたからな。
何か嫌な予感を感じながらも、廃鉱山へと向かって走っていると……。
ボンッ!!
「「っ!!」」
何かが弾けるような音とともに廃鉱山の頂上付近から大きな炎が噴き出したのだ。
「爆発?」
リルは確か廃鉱山って言ってたけど……なんだ?可燃性のガスでも溜まってたのか?
「今の爆発はただの爆発ではないぞ。大きな魔力の気配を感じる。」
「魔力を感じた?ってことは自然な爆発じゃないのか?」
「うむ、爆発と同時に強い魔力が放たれた。自然的なものではない。何者かが魔力を使ったに違いない。」
いやな予感がどんどん膨らんでいく。
とにかくこのステンって人が無事ならいいんだが。もしかすると、この人が魔力を使って爆発を起こしたのかもしれない。襲ってきた魔物を倒すために……。
「急ごうラピス。なんか嫌な予感がする。」
「うむ。」
走るスピードを上げて廃鉱山の麓に着くと、大きく掘られた入り口の中から黒煙がモワモワと溢れ出してきた。
「うっ……この匂いは。」
中から立ち込めているこの黒い煙は、肉を黒く焦がしたような嫌な匂いがする。
「うぐぐ、近くで嗅ぐと鼻が曲がりそうだ。」
この煙はあまり吸い込まないほうが良いだろう。俺は収納袋から分厚いタオルを取り出して口に当てた。これで少しは軽減されるはずだ。
ラピスにも一応タオルを手渡し、俺たちは黒煙が噴き出す廃鉱山の中へと足を進めるのだった。
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