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第3章 魔王と勇者

第084話 南の魔女

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 カナンに朝食を振る舞った後、俺はジャックのアドバイス通りにカーラのもとを訪れるためカナンを連れて城下町へと駆り出していた。
 念のためカナンにはフード付きのパーカーのような服を着てもらい、顔を隠しながら着いてきてもらっている。今日の号外に大きく彼女の顔写真が張られていたからこの国の人達にも彼女の顔は知れ渡っているのだ。

「ひとまずここまで来れば、人通りは少なくなるから安心だな。」

 カーラの家に近づけば、人通りはどんどん少なくなる。何せ郊外だからな。

「ここだな。」

 カーラの家が目の前にあるであろう場所にたどり着き、歩みを止めると手を繋いでいたカナンが首をかしげてノートに文字を書いて見せてきた。

『ここに何かあるんですか?何も無いように見えますけど。』

 相変わらず、俺に対する言葉は日本語で統一している。やはり馴染んでいる日本語の方が書きやすいのだろうか。

「まぁもう少し待ってくれ、そろそろこっちに気付いてくれるはず。」

 俺が、そう口にすると思った通り突然目の前にカーラの家が現れた。
 そしてあわただしく、玄関からカーラが飛び出してくる。

「か、カオル……だから来るときは言ってくれっていってるだろ?」

「すみません、今日は少し急だったもので。」

「まぁ、いいけどさ。……ってその横のは誰だい?」

 カナンに視線を向けると、首をかしげながらカーラは問いかけてくる。

『はじめまして、カナンです。』

「カナン?……カナンってどっかで聞いたことアルマ名前だねぇ。それよりあんた、言葉は話せないのかい?」

「カーラさん、実はですね……。」

 俺はカーラにカナンがヒュマノの勇者であることを告げ、言葉と感情を封じられていることを話した。
 すると、彼女は頭を抱えながら大きなため息を吐いた。

「はぁ~……なるほどねぇ。どおりで聞いたことがある名前だと思ったよ。まさか、今日の号外に載ってた勇者失踪の犯人がこんな身近にいるとはねぇ。」

「できれば内密にしてくれると助かります。」

「わかってるさ。まぁ、入んなよ。その言葉と感情を封印する魔法にはちょいと心当たりがある。」

 そして彼女の家に招き入れられると、カーラは俺達に紅茶とちょっとしたお茶菓子を提供してくれた。

「んで、その勇者の言葉と感情の封印の話だけど……あんた、この女に見覚えはないかい?」

 そう言って彼女は一枚の写真をカナンに見せた。すると、カナンはコクコクと頷いて見せる。

「予想通りだねぇ。やっぱりこいつかい。」

「カーラさん、その人は?」

「こいつはのステラ。封印系の魔法のエキスパートさ。」

「南の魔女っていうと、前に学校の校長をやってるって言ってた……あの?」

「あぁ、こいつは今はヒュマノの王都の魔法学校の校長さ。こいつの封印の魔法は厄介でねぇ……。」

 カーラはゆっくりとカナンに手を伸ばし、手に魔力を込めると、突然何かにバチン!!と弾かれた。

「こんな感じで魔力で干渉しようとすると、弾かれるのさ。」

「それってつまり……封印を解くのは無理ってことですか?」

「答えを早まるんじゃあないよ。この世に無限なんてもんは存在しない。どんなものでもいつかは寂れて腐っていく、もちろん魔法もねぇ。」

 そう告げて、カーラは自分の杖をとるために立ち上がる。そして自分の杖を握り締めると、にかっと白い歯を見せて笑った。

「つまり、何が言いたいかって言うと、この世に解除できない魔法なんざないってことさね。」

 カーラは杖の先をカナンに向ける。すると、さっき魔力を込めたときと同じように……バチバチと電気が弾けるような音が鳴り始めた。

「たいていの封印魔法ってのは、ある程度の魔力の負荷をかければ解けるもの。だけどアイツのは別格でねぇ、一発デカい魔力を込めたとしても傷一つつかない。だから……。」

 そう説明しながらカーラが杖を手元でくるりと回すと、カナンの顔の前に淡い色の魔法陣が現れ、次第に薄れて消えていった。

「これで良し。後はじっくり時間との闘いさ。」

「いったい何をしたんですか?」

「持続的にアタシの魔力で一定の負荷をかける魔法をかけたのさ。わかりやすい例えをするなら、魔法を腐食する魔法ってとこかねぇ。たとえ耐久力の高い魔法でも持続的に負荷を加えられれば次第に弱くなって効果は薄れていくものさ。」

「なるほど、ちなみにそれってどのぐらいの時間がかかるものなんです?」

「それは正直なところアタシにもわからない。ただすぐには無理だね。ステラのやつ、とんでもなく強い封印をかけてるみたいだからねぇ。こんな子供にひどいことをするもんだよ全く。」

 そう大きくため息を吐くと、カーラはカナンの頭に大きな手を優しく置いた。

「まぁ、アタシも協力するから一緒に治していこうじゃないか。」

『ありがとうございます。』

 幼い少女を気遣うカーラの優しい一面が垣間見えたのだった。

 
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