魔王城のグルメハンター

しゃむしぇる

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第3章 魔王と勇者

第079話 面会の儀終了

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 アルマ様と買い物に出かけた翌日、突然俺のもとにジャックが訪ねてきた。

「ジャックさん今度はどうしたんですか?」

「実は一つお願いがございましてな。つい先日、勇者一行をここでもてなしたことは記憶に新しいと思いますが……あの面会は交互に行うのが習わしなのです。」

「つまり今度は、こっちがヒュマノに行くってことですね?」

「その通りです。」

 彼の話を聞いて、ことの顛末は理解した。だが、一つ疑問がある。

「それってまた何か用意しなきゃいけないなんてことは無いんですよね?」

 不安だったのはまたこの前のように無茶なことを要求されないかということだ。さすがに今度はこっちがもてなされる側だから、そんなことはないだろうとは思うが……。念のため聞いておかねば不安だった。

「はい、今度はこちらが用意するものはございません。ただあちらの王に顔を見せるだけですので。」

「それならいいんですけど。それでその面会は俺も着いて行ったほうが良いんですかね?」

「本当は私と魔王様の二人で行く予定だったのですが、魔王様がカオル様と一緒に行きたいとおっしゃいましたので、良ければついてきていただけませんか?」

「それぐらいなら全然いいですよ?」

「私どもが留守にしている間、このお城はラピス様とナイン様に守っていただく予定です。」

 ナインはともかく、ラピスなんかに任せて大丈夫だろうか。まぁ戦闘能力自体はかなり高いから大丈夫……かな?
 
「ホッホッホ、そんなに心配しなくても問題はございません。余程の命知らずでない限りこのお城に侵入しようなんて思う輩はいないでしょうから。」

「わかりました。それでいつ向こうに行くんです?」

……今から参ります。」

「えぇっ!?」

 にこりと笑いながらそう言ったジャックに思わず俺は驚いて声を上げてしまった。まさかアポなしでこんなことを言われるとは……いつもの彼ならば前日に前もって言ってくれるのだが。
 こんな急なことになってしまった理由は次に彼の口から話されることになる。

「急な話になってしまって申し訳ありません。実はつい先ほど魔王様にカオル様を一緒に連れていきたいと言われましてな。」

「あぁ、なるほどそういうことだったんですね。そうとなれば、すぐに準備します。」

「お願いいたします。」

 そして彼と別れた俺は普段使いの服ではなく、この世界の正装に着替えて準備を整えた。さすがに私服で赴くわけにはいかないだろう。
 アルマ様の配下である俺がだらしない恰好を晒すのは、アルマ様に恥をかかせてしまうと同義。

 久しぶりにきゅっとネクタイを締め、正装に身を包んだ俺は部屋を出た。そして待ち合わせの場所へと向かう。するとその途中、ラピスとすれ違うことになった。

「む?普段とはずいぶん格好が違うなカオルよ。」

「今からちょっと勇者に会いに行かないといけないんだ。そういうわけで、留守は任せたぞ。ナインもいるから大丈夫だとは思うが……。あ、もし昼食までに帰ってこれなかったら厨房の小さいほうの冷蔵庫を開ければ何かしら入ってるからな。」

 俺の言っている小さい冷蔵庫というのはカーラに作ってもらった保存庫のことだ。

「全部食っても良いのか?」

「べつにいいぞ。ただ、大きいほうの冷蔵庫の中には手を出すなよ?」

「うむ分かったのだ。」

「じゃあ行ってくるからな。」

 一応彼女に釘を刺しておく。ラピスは大喰らいだからな。食材とか、仕込んだものを貯蔵してる大きいほうの冷蔵庫まですっからかんにされては困るのだ。

 そして待ち合わせ場所である城門前へとむかうと、すでにアルマ様とジャックの二人が待っていた。

「あ!!カオル来たっ!!いつもと服違うね~。」

 俺の姿を目にするなリ、こちらに向かって小走りで近づいてきたアルマ様は普段と服装が違う俺の周りをくるくると回る。
 そして俺はアルマ様に手を引かれた。

「それじゃ行こっ?ジャック移動魔法おねが~い。」

「かしこまりました。」

 パチンと彼が指を鳴らすと、俺たちの足元に大きな魔法陣が現れた。そこから溢れ出した光に包まれると、一瞬視界がくらんだ。その次の瞬間俺たちはヒュマノの王城の前に転移していた。
 俺たちが転移すると、城の中からたくさんの兵士たちを連れてイリアスがゆっくりとこちらに向かってきた。

「ずいぶん派手な登場で。すでに王は待っている、そこで突っ立てないで着いてくるんです。」

 そして俺たちは大量の兵士に囲まれながら城の中へと案内された。

 その途中、アルマ様に引き寄せられると耳元で囁かれる。

「ねぇあの人間、すっごい態度悪いよね?なんか見下されてるっていうかね?」

「そうですね。少なくとも客人に対する態度ではありません。」

「まぁ、ちょっとは我慢するけどさ。」

 少し機嫌を悪そうにしながらアルマ様は、前を歩くイリアスのことをじろりとにらみつける。

 そして案内されるがまま、巨大で豪勢な扉の前に連れてこられるとイリアスはこちらを振り返った。

「この先で王が待っていますよ、くれぐれも変な気を起こさないように。まぁ勇者のカナンがすぐそばに控えていますから返り討ちに遭うでしょうがね。」

「そんなことしないよ。カオル、ジャック行くよ。」

「「はい。」」

 アルマ様に続いて巨大な扉をくぐると、奥行きのある広い部屋の最奥に勇者の少女と、宝石が幾つも散りばめられた王冠を被った老人がいた。

 ゆっくりと歩いて赤いカーペットの上を進んでいると……。

「そこで止まりなさい魔の王。」

 王らしき老人に止まるように言われ、アルマ様は歩みを止める。こちらが止まったことを確認すると、その老人は脇に控えていた勇者の少女に声をかけた。

「カナン、不審なものを持っていないか確認しなさい。」

「…………。」

 勇者は一つ頷くと、こちらに近づいてきて光の無い瞳でじろりとこちらを見つめてくる。アルマ様とジャックはただ見つめるだけで何もしなかったのだが、俺に対しては入念にポンポンと体のいたるところを触って不審なものを持っていないか確認してきた。

 そして何もないことを確認すると、彼女はヒュマノの王の方を向いてこくりと頷く。

「どうやら何も怪しいものは持っていないようですね。」

「当たり前でしょ、アルマたちは争いに来たわけじゃないんだから。」

「ふん、魔の者の言うことは信用できませんからね。さて、今代の魔の王の顔は拝めました、これにて面会の儀は滞りなく終了です。下がりなさい。」

「言われなくてもとっとと帰るよ~だっ!!」

 ついに我慢の限界が来たらしく怒りを露わにしたアルマ様は俺とジャックの手を引いて、ヒュマノの王の前を去った。部屋を出ると、ニヤニヤと笑みを浮かべたイリアスが待っていた。何か言いたそうな彼が口を開く前にアルマ様が先に口を開く。

「見送りはいらないよ。じゃあね。」

 そして城を出ると同時にジャックは移動魔法を使い、俺たちは魔王城へと戻るのだった。
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