魔王城のグルメハンター

しゃむしぇる

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第3章 魔王と勇者

第078話 心の変化

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 不変の日々というのは続かないもので、いつかは必ず変化の時が訪れる。例えばそれは季節の移り変わりであったり、社会情勢であったり、人間関係であったり……様々なものが移り変わっていく。

 もちろん、俺の周りでも少しずつ……変化が起こり始めていた。

「さてっと、今日の食材でも買いに行こうか。何かいい食材があればいいんだが……。」

 そう思って今日は市場へとくり出そうとしていると……。

「あ、カオル?」

「……??アルマ様?」

 出発しようとしていると、ふと後ろからアルマ様に呼び止められた。

「どうかしましたか?」

「あの……えっと、こ、これからどこに行くの?」

 顔を赤くしてもじもじしながらアルマ様は問いかけてきた。

「今から今日の料理に使う食材を買いにいくところでした。」

「そうなんだ……そ、それってアルマも着いてっちゃダメ?」

「……っ!!」

 こ、これはどう答えれば良いんだ!?俺としては連れていっても全然良い。むしろ、何を食べたいのか直接聞けるし、プラスでしかない。
 ただ、この判断は俺の一存で決められるものでは…………。

「だ、ダメ?」

「あ、いや……。」

 瞳を潤ませながら聞いてくるアルマ様に思わず戸惑っていると、廊下の奥にジャックの姿が目に入った。
 彼はこちらを向いてニコリと笑うと一つ頷く。OKサインだ。

 それを確認したところで、俺はアルマ様に言った。

「わかりました、では今日は一緒に行きましょう。」

「えっ、いいのっ!?」

「はい。」

「え、えへへ……やった♪」

 ぱぁっと表情を明るくすると、アルマ様は俺の手をとった。

「早く行こうカオル!!」

「はいっ。」

 そして俺はアルマ様と共に城下町へと踏み出した。



 上機嫌なアルマ様と共に街へくり出すと、周囲の視線が一気にアルマ様へと集まってきた。

「お、おい……あれって魔王様じゃないのか?」

「普段はお城にいるはずなのに、いったいどうしたのかしら。」

 等々、こそこそと辺りでアルマ様について話している声が聞こえてくるが、当の本人のアルマ様は特に気にしていないようで……。 

「ねぇ、カオル。今日買い物に行くのってどこなの?」

「市場に行きます。いつも行きつけのお店が何件かあるので、そこで買おうかなと。」

「市場ってあっちだっけ?アルマ、あんまり外に出たことないから覚えてないんだよね。」

 言われてみれば……俺がこっちに来てからというものの、アルマ様が城から外出している姿は見たことがないな。
 恐らくはジャックがアルマ様の身の安全を考えて、あまり外に出さないようにしていたのだろう。

 魔王城の中は安全が確立されているとはいえ、城下町はそうではないからな。

「はい、そっちであってます。次の脇道を右に行きましょう。」

「うん!!」

 そしてアルマ様と共に市場へとやって来た俺は馴染みの八百屋に顔を出した。

「こんにちは。」

「おぉ!!カオルさんいらっしゃい…………って!!その御方はぁっ!?ま、ままま魔王様っ!?は、はは~ッ……。」

 顔馴染みの八百屋の店主はアルマ様を見た途端に地面に額を擦り付けて平伏の姿勢をとった。
 すると、アルマ様は困ったように言った。

「あ、いやいやそういうのいいよ?アルマは今日はカオルについてきただけだし。それよりもいろんな果物とか見たいな~。」

「た、直ちに持って参りますっ!!」

 すると、店主はすぐに立ち上がり店の奥から何やら厳重に梱包された何かをいくつか持って帰って来た。

「是非とも魔王様にはこちらを召し上がっていただきたく……。」

「これなぁに?」

「こちらは南の海に浮かぶ島で採れたという果実でございます。」

「龍の涙?」

「はいっ!!龍が涙を流すがごとく、珍しい果実でございます。」

「龍が涙って……そんなに珍しいかな?ラピスとかカオルにいじめられていっつも涙目になってる気がするけど~。」

「アルマ様、ラピスは特別な例ですので……。」

「そっか~。それよりも、それ美味しいの?」

「お味の方は果物の中でも最上級かと。」

「ふ~ん、カオルはどう思う?」

「実際に食べたことはないので、なんとも言えませんが……珍しいものならば一度食べてみても良いかと思います。」

「ん~、じゃあこれちょうだい?」

「ははっ、ありがとうございます。ただいま梱包してお持ちいたします!!」

 そして二つ店の奥へと行ってしまう店主。すると、アルマ様はこちらを向いてニコリと笑った。

「カオル、買い物って楽しいね。こうやっていろんなのを見てるだけでも楽しいよ。」

「楽しんでいただけているのなら何よりです。」

 そう相づちを打つと、少しアルマ様は恥ずかしそうにしながら続けて言った。

「え、えっとね……だからまた一緒に来たいな~。なんて思ったんだけど、またアルマのこと連れてってくれる?」

「もちろんです。」

「や、やった!!絶対だよ?約束だよ!?」

「はい。」

 この日を境に、一度離れていたアルマ様との距離が再びぐっと近くなったような気がした。

 前よりも体を密着させてくるようになった気がするが……恐らく気のせいだろう。

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