76 / 350
第3章 魔王と勇者
第076話 踊る者
しおりを挟む結局自分で連れてきた鑑定士の言葉すらも信じようとせず、城の裏にあったステータスの木を実際に目にするまでイリアスは悪あがきをつづけた。しかし、実際にそれを目にしたときイリアスは愕然とし、あがく気力もなくなったようで呆然とステータスの木を眺めながらぶつぶつと独り言を話し始めた。
「な、なぜここにこれが……いったいどうなっている。」
愕然とするイリアスのそばにジャックは歩み寄ると口を開いた。
「いやはや、これには私どももとても驚きました。今朝目を覚ませばこれが突然生えていたのですから。これも平和を望む天からの恵みでしょうかな。」
「ぐぐぐっ……。」
自慢の口ひげをくるくると弄りながらそう言ったジャックに、イリアスは怒りのこもった視線を向ける。
「おや?何をそんなにお怒りなのですかな?あなた方が欲しがっていたものは全てこうして揃えましたというのに。」
「チッ、急用を思い出した。急ぎ帰らせてもらう。カナン、行きますよ。」
「…………。」
強引に勇者の少女の手を引くとイリアスは馬車に乗り込み帰っていってしまった。
それをジャックとアルマ様とともに見送っていると、ポツリとアルマ様が呟く。
「ねぇジャック、あのカナンって子すっごく無口なんだね。」
「そのようでしたな。感情も一切表情に映っていませんでしたし、この表現が正しいのかはわかりませんがまるで人形のようでした。」
俺は例の作業をしている間があったため、アルマ様と勇者の少女の会話の内容や部屋の中の状況はわからない。ただ、いまの会話を聞いている限り特に勇者とアルマ様が親交を深めれたということはなさそうだ。
「友達ができるかと思ったのにな~、ざんね~ん。あ、そういえばカオルが作ってくれた料理いっぱい残ってるしラピス誘って一緒に食べよ~っと。」
気分を切り替えるとアルマ様は残った料理を食べるべく城の中へと戻っていった。
そして、アルマ様がいなくなりジャックと二人になった時彼が笑いながら口を開く。
「ホッホッホ、それにしてもよもや花畑にステータスの木を移植するとは……。思いもよりませんでした。昨日花畑に穴を掘ってよいか尋ねてきたのはこのためでしたか。」
「そういうことです。」
「あのイリアスという男の表情の変わりよう……無表情の勇者とは正反対でしたな。」
愉快そうにジャックは笑う。
「まさか本物だとは思いもしなかったんでしょうね。」
「えぇ、そうでしょう。こちらが偽物を用意することまで計算していたようですからな。」
「ご丁寧に鑑定士まで連れてきてましたからね。」
「ホッホッホ、平和条約の破棄を確実とするために余程計画を緻密に練っていたようですが……。カオル様のお陰で全て水の泡になりましたな。」
「俺だけの力じゃないですよ。ナインがいなかったら、誰にも見付からずに王城に入ることもできなかったので……。」
「ですが、ナイン様の力を使ったのはカオル様でございます。」
「ま、まぁそうなんですけど……。」
「ですからそんなに謙虚になることはありません。カオル様も、ナイン様もお二方ともいなければ成し得なかったことなのですから。」
すると、彼は突然頭を下げた。
「この度は誠にご助力感謝いたします。」
「い、いえ!!とんでもないです。頭を上げてください。」
「これで少しはご自分がどれだけ魔王様に貢献したか……わかりましたかな?」
「うぅ、良くわかりました。」
「ホッホッホ!!よろしいです。」
愉快そうに笑うと、ジャックは城の中へと戻っていった。
この人には敵わない……そう痛感させられた瞬間だった。
それから長い道のりを経て、ヒュマノの王城へと帰って来たイリアスは守の果実があったはずの庭園へと迷わずに向かった。
そして衝撃的な光景を目にすることになる。
「こ、これは……まさかっ!?」
こつぜんと消えた、元それがあった場所の付近に転がる果実の食べ残し……。それを見たイリアスの顔が怒りに染まる。
「~~~ッ!!衛兵っ!!」
彼が大声でそう叫ぶと、城を守る兵士たちが集まってきた。
「はっ!!イリアス様如何いたしましたか?」
「如何いたしましたか……じゃない!!これを見ろッ!!」
「これは……果物の食べカスですか?」
城を守る兵士達にも、ここにステータスの果実があることは知らされていなかった。それ以上に、兵士でさえもこの庭園の中へと足を踏み入れるのは禁止されていたのだ。
「そうだッ!!もとはここにステータスの果実が実っていた……だが何者かが侵入し食い荒らしたんだ!!」
「イリアス様、お言葉ですが……それはあり得ません。ご存じの通り城の周りには強力な結界が張ってあり、許可のない者は入ることはできません。それに仮に結界を貫通するにしても魔力を使わずに突破することは不可能なんです。」
「~~~ッ!!ならこれはどう説明するッ!?」
イリアスは地面に転がる果実の食べ残しを指差して叫ぶ。
「恐らくですが……結界を超えることができない以上内部の者による仕業かと思われます。」
「何ィィィッ!?ヒュマノに……しかも王城に務める者のなかに裏切り者がいるというのかッ!!」
イリアスは策に嵌めるつもりがまんまと策に嵌められ、いるはずのない裏切り者を探す羽目になるのだった。
0
お気に入りに追加
88
あなたにおすすめの小説
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
はぁ?とりあえず寝てていい?
夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。
※第二章は全体的に説明回が多いです。
<<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる