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第3章 魔王と勇者
第071話 無茶な要求
しおりを挟むいつものようにアルマ様達に料理を提供し終えた俺は自室でゆったりとした時間を過ごしていた。
すると、部屋の扉がノックされ向こうから声が聞こえてきた。
「カオル様、少々お時間よろしいですかな?」
「ジャックさん?どうぞ?」
訪ねてきたのはまたもやジャックだった。彼を部屋に招き入れると、神妙な面持ちで彼は部屋に入ってきた。
それだけでなにか厄介事の匂いがする。
ソファーに腰かけた彼に紅茶を差し出すと、早速俺は用件を問いかけることにした。
「今日はどうしたんです?」
「実は少々厄介なお客人が3日後……来る予定でして。」
「厄介なお客人……ですか。」
「はい。」
彼が厄介だ……と口にするほどだ。余程厄介なのだろう。
「ちなみにどちら様か聞いても?」
「魔王様に対をなす存在、勇者です。」
「勇者って……物語とかで魔王を倒したりするあの?」
「はい、その勇者でございます。」
「えぇっ!?じゃあアルマ様を倒しに来るってことですか!?」
「いえ、そういうわけではありません。」
俺の言葉に首を横に振ったジャック。それを見て俺はホッと胸を撫で下ろした。
「でも、アルマ様と勇者って敵みたいな関係じゃ?」
「一昔前まではそうでした。ですが、三代前の魔王様が勇者と平和条約を結んだことで、お互い敵ではありながらも戦いはしない。というルールが決められたのです。」
「……なるほど。」
「そして平和の証として魔王様や勇者の代が代わる毎に挨拶に赴くのが恒例となりました。」
「つまり、それが3日後ってことですか。」
「その通りです。」
おおかた事情はわかった。そして俺がやるべきことも。
「つまり俺は、その勇者にもてなしの料理を作れば良いってことですね?」
俺の言葉にジャックは今度は首を縦に振った。
「でも、ただ来訪してくるだけなら厄介ってほどでもないような気がするんですけど……。」
「その通りです、問題はこれを見ていただければわかるかと。」
するとジャックはこちらに一枚の紙を手渡してきた。
「これは……?」
「あちらから送られてきた文章です。」
目を通してみると、そこには……。
『魔王配下の者へ。
此度の面会では以下の物を準備せよ。
・力の果実
・守りの果実
・命の果実
・魔の果実
ヒュマノ代表 イリアス。』
簡単に書かれたそれを見て俺は一言だけ呟いた。
「勇者側の人達ってずいぶん上から目線なんですね。」
「元来ヒュマノは我々と戦い、物資を奪って経済を成り立たせていた国ですから。平和条約を結ぶ際に少し譲歩をした結果がこれです。」
「なるほど。」
つまりこっちが下手に出たからつけあがってるってわけか。随分心臓に毛が生えてるじゃないか。
良い性格してる。
「で、問題はこの4つですね。」
「はい……ただでさえ手に入らないステータスの果実四種類。これをあと3日で集めてこいと。」
「たしか、これって生える場所もランダムなんですよね?」
「はい。」
なんという無茶ぶりだろうか。ってか恐らく、ステータスの果実のことを知ってるあっちも到底準備できるっては思ってないだろ。
準備できないのをわかって要求してきてる。
そして準備できなかったら難癖をつけてくる……こういうタイプの輩がやることは先が読みやすい。
「一応、私の知り合いには連絡をとってみたのですが……どれも空振りで。闇オークションの品にも入っていないようなのです。」
「う~ん、そうですか。」
いよいよ切羽詰まったな。ジャックの人脈を使っても見つからないとなると……。
「ちなみにこれ、準備できなかったらどうなるんです?」
「平和条約の破棄です。」
「えぇっ!?明らかに無理なのを要求しておいてですか!?」
「これも譲歩をした結果です。」
いよいよ魂胆が見えてきたぞ。こんな無茶な要求をして、用意できなかった場合平和条約の破棄……つまり、勇者側の人達は平和条約の破棄を狙ってる。
「まだ完全体でない魔王様と勇者の面会で、その場で条約破棄となれば魔王様の命が危ない……何としてでもこの4つを手にいれなければならないのです。」
くぐっ……とジャックは拳を握る。彼の白い手袋にはじわりと赤い鮮血が滲んでいた。
「…………わかりました。俺の方でも探してみます。」
「ありがとうございます。私も時間の空きを見て情報を集めますので。」
こんなにやるせなさそうな表情のジャックを見るのは始めてだ。俺もできることをやろう。
そして夜……俺がギルドに赴こうとした時だった。
「マスター、よろしいですか?」
「ナインか。なんだ?」
扉を出たところでナインと鉢合わせた。
「恐れながら昼間の会話の一部始終を聞かせていただきました。具体的に何が必要なのかナインにも教えていただけませんか?」
「力と守り、そして命と魔のステータスの果実だ。」
「かしこまりました。少々お待ち下さい。記憶領域にアクセス……統計開始。」
そう言ってナインは目を瞑り何らかの処理を始めた。
「出現パターンを予測……候補地クローズアップ…………終了。」
そしてナインは再び目を開けると、言った。
「マスター、候補地が404地点あります。」
「404!?そんなにあるのか!?」
「はい、ですが……その地点を周り統計を更新すれば、候補地は絞り込めます。」
「……その404地点のどこかにあるんだな?」
「間違いありません。」
「わかった。案内してくれ。」
「かしこまりました。武装展開」
ナインは機械仕掛けの剣を出現させると、空間を切り裂いた。
「マスター、こちらです。」
「あぁ、行こう。」
足で解決できる問題なら、ひたすらに足を動かしてやる。
そしてナインの協力のもと、俺は候補地として選ばれた地点へと赴くのだった。
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