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第2章 獄鳥ノーザンイーグル
第065話 vsノーザンイーグル
しおりを挟むアーティファクトを横に薙いで狙ったのは、どの生物にも共通で急所である首。
しかし、アーティファクトの見えない刃による攻撃はノーザンイーグルの羽毛によって、あっさりと防がれてしまう。
「マジか。」
ってことはスケイルフィッシュの鱗よりも遥かに硬い代物だぞあれ。
こいつじゃ歯が立たないな。
俺はアーティファクトを片手で持ちながら、もう片方の手に魔装で魔力の剣を作り出した。
「こっちの剣ならどうだ。」
地面を蹴り、ノーザンイーグルへと距離を詰める。近付けば近付くほど、その巨大な体躯が現実味を帯びてくる。
だが、デカさにビビってたらこいつを倒すことなんて出来ない。
仁王立ちで此方を見下すノーザンイーグルの真下までたどり着いた俺は、魔装を纏わせた手を振るった。
「ふんっ!!」
羽毛の隙間を掻い潜るように放った一撃……。先程羽毛の防御力は思い知った。なら、その隙間を狙う!!
そして攻撃がヒットする直前、目の前からノーザンイーグルの姿が消えた。
「どこにいった!?」
周囲を見渡すが、ノーザンイーグルの姿は見当たらない。
そして上を見上げたその時だった……。
「キョェェェェェェッ!!」
空高く飛び上がったノーザンイーグルが、俺の頭上でけたたましい咆哮を上げる。そして一気に急降下してきたのだ。
「これは不味い。」
そう思った時には、俺の頭上にノーザンイーグルのするどく尖った嘴が迫ってきていた。
「っ!!」
寒さで動きが制限されている体を無理矢理動かし、後ろに飛び退く。
これで攻撃をかわすことはできた。後はノーザンイーグルが地面に降りてきた瞬間を狙――――――。
しかし、その勢いのまま垂直に地面に落下するかと思われたノーザンイーグルは、あろうことか地面の僅かに手前で直角に曲がると、再び此方に狙いを定めて迫ってきたのだ。
「その動きっ――――――。」
状況を理解したときには、時の流れがピタリと止まった。危険予知が発動したのだ。
俺の腹部へと迫ってきているノーザンイーグルの鋭い嘴。マトモに喰らえば致命傷なのは間違いない。
だが、俺はこの動きに見覚えがあった。
「はは、なるほどな。流石一回ノーザンイーグルを倒した経験者だ。」
今のノーザンイーグルの動きは、ジャックと本気でやりあったときに見た動きだ。
流石のジャックといえども、空中で曲がることは出来ないから壁を使ってやってくれたってわけか。
じゃああれは本来の彼の動きじゃなかったってことか。
今更ながらあの場で勝ち誇った自分が恥ずかしくなってきた。
「だが、おかげで動きはわかってる。」
俺は止まった時間のなかで、ノーザンイーグルの首に手を回した。
すると、時間の流れがもとに戻り始める。それと同時に俺は受け身のスキルが発動するように頭で強く想う。
「捕まえたぞ。」
「キョッ!?」
時の流れがもとに戻ると同時に、俺はノーザンイーグルの首を抱えたまま後ろに飛んだ。そして首に回した手に全力で力を込めた。
「ぐ、ぐっ……。」
流石に身の軽いジャックと違いとんでもなく重い……。だがっ!!
「ふんぐッ!!オォォォォォッ!!」
レベルアップして得たステータスと、力の果実を食べて得たボーナスステータスは伊達じゃないっ!!
ノーザンイーグルの巨体を持ち上げると、俺はそのまま後ろに倒れるようにノーザンイーグルを地面に叩き付けた。
「ケェッ!?」
背中から地面に叩き付けられたことで肺が収縮し、溜めていた空気が全て出てしまったノーザンイーグルは少しの間身動きが取れなくなる。
その一瞬の隙に、俺は首の上に股がると魔装で作った魔力の剣を首もとに当てた。
「お前の命は無駄にはしない。」
そして目の上に手を覆い被せると、魔力の剣で首の頸動脈を断ち切った。それ以降、ノーザンイーグルが体を動かすことはなかった。
「ふぅ……勝ったぁ。」
どっと疲れが覆い被さってきた俺は思わず冷たい地面に横になってしまう。
すると、ラピスの顔がぬっと上から現れた。
「まったく、もう少し安全に戦うということをおぬしは知らんのか?」
「しょうがないだろ?魔法だって使える訳じゃないんだ。俺にあるのはこの魔装と、アーティファクト。ほんでスキルと力……。これだけだ。泥臭くやるしかないんだよ。」
「ふむ、まぁ……下手に華やかさを求めて大怪我をされるよりかはマシだの。ほれ、手を貸してやる。」
「おぅ、さんきゅ。」
差し出されたラピスの手を取って俺は体を起こしてもらう。
「一先ずこれで、第一目標は達成だ。」
「残るはその氷魔人とやらだけか。」
「そうだ。だが、そいつを探しに行く前に……先にやらないといけないことがある。」
「やらないといけないこと?なんだそれは。」
「このノーザンイーグルの血抜きをする。」
頸動脈を断ち切っているとはいえ、このまま持ち帰ると、血が肉に回って臭みが出そうだからな。
「まったく、おぬしはどこに行っても飯のことを考えているのだな。」
「そりゃあ、せっかく食べるなら美味しい方がいいだろ?」
「まぁ、それは否定はせん。」
「だから手伝ってくれ。」
「何をすればいい?」
「簡単だ、このノーザンイーグルの足を持って少し飛んでくれ。」
「それだけか、容易いのだ。」
ラピスは軽々とノーザンイーグルの足を持つと、背中から生やした翼で少し宙に浮いた。
「もうちょいもうちょい。」
「このぐらいか?」
「うんうん、そこでキープしててくれ。」
俺はノーザンイーグルの下に大きな皮袋を置くと、もう片方の頸動脈の方にも刃を入れた。
すると、みるみるうちに切れ目を入れた場所から血が抜けていき皮袋に溜まっていく。
ちなみに血に慣れている人でないとかなりグロい絵面になっている。
「一つ疑問なのだが、その血はどうするのだ?」
「この先に血はギルドに売る。なんかこのノーザンイーグルの血は良い薬になるらしい。」
「薬か、食ってもうまくないものには興味はないのぉ~。」
「一応血酒で飲んでも美味しいらしいぞ?」
「そんなに好き好んで血を飲みたいとも思わんわ。」
「まぁ、そうだな。」
俺は結構スッポンの生き血酒とか好きなんだけどな。まぁ、アルマ様も飲めないし……今回は無しだ。薬として有効活用してもらおう。
そして血が垂れてこなくなったことを確認して俺はノーザンイーグルを収納袋にしまった。
「よし、日が暮れるまではまだ時間がある。さっさと下山するぞ。」
「うむ!!」
そして山頂から下山しようとしたその時だった。
グチャ……。
「……??」
まるで柔らかい生肉を咀嚼するような音が背後から響いた。後ろを振り返ると、ノーザンイーグルが狩ってきたノーザンバッファローの死体に何かが貪りついている姿が目にはいった。
「ラピス、下山は少し後だ。」
「わかっておる。」
ノーザンバッファローを無残に食い漁ると、そいつは血にまみれた口を手で拭いながら此方に視線を向けてきた。
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