上 下
62 / 350
第2章 獄鳥ノーザンイーグル

第062話 リオーネス

しおりを挟む

 魔物を全て倒し終えると、再び馬車は進み始めた。

 馬車の中でラピスと他愛のない会話を弾ませていると、外の景色が少しずつ変わり始めた。

「ん?雪がちらつき始めたな。」

 外を覗いてみると、チラチラと雪が降り始めていた。

「どうやら北の大地に近付きつつあるようだな。」

「ラピスは寒いのとか大丈夫なのか?」

「まぁ、もともと我は空の高い所を飛んでおったからな。高く飛べば飛ぶほど気温は低くなる故、寒さに対する耐性はある。」

「なら安心だな。」

 生憎俺は寒さに対する耐性はほぼ皆無だ。東北生まれでもなかったからな。雪も指で数えられる位しか見たことがない。

 だから俺はそろそろ上に服を着込もうか。

 収納袋から、俺は予め買っておいた防寒着を羽織った。モコモコの裏地が暖かい。

 そうやって一人でぬくぬくとしていると……。

「カオルよ、ずいぶん暖かそうなものを着ているではないか。」

「生憎俺は寒さに強くないからな。こんな風に上に重ねて着て少しでも暖かくするってわけさ。」

「もちろんそれは我の分もあるのだろう?」

「あるぞ?着るか?」

「うむ。」

 そして俺はラピス用に買っていたの防寒着を彼女に差し出した。

「おい、カオルよ?」

「ん?」

「もう少しマシなのは無かったのか!?これはいかにも人間の子供が着るものだろう?」

 子供用もいうこともあって、可愛らしくデザインされたそれにラピスは顔を真っ赤にして言った。

「仕方ないだろ?ラピスの体に合いそうなのがそれしかなかったんだから。まぁデザインは少し……子供っぽいが。防寒性は抜群だぞ?……多分。」

「うぐぐぐぐ……ま、まさか我がこんなところでこのような辱しめを受けることになるとは。」

 可愛いデザインの防寒着とにらめっこするラピス。しかし、数分後には諦めがついたのかそれを羽織っていた。

「お、ちゃんと似合ってるじゃないか。」

「お世辞を言うでないわ。こんな子供の着るものが我に似合うわけが…………。」

「まぁ、確かにドラゴンの姿のラピスには似合わないだろうな。でも、今の姿には似合ってるように見えるぞ?」

「む、むぅ……そうか。なら……悪くないやもしれん。」

 素直に感想を告げると、彼女は少し顔を赤くしてそう言った。

「そういえば、ラピスは人間の姿の時っていっつもその姿だけど……体型を変えたりとかできないのか?」

 ふと疑問に思ったことを彼女に問いかけてみた。すると……。

「我は変化の魔法が苦手なのだ。故にこの姿にしか化けることができぬ。」

「変化の魔法……ねぇ。」

「まぁ、この姿が最も魔力効率の良い姿であることも事実。下手に体を大きくしたりすると長い間姿を維持できぬのだ。」

「その姿ならずっと維持できるのか?」

「そうだ。魔力の消費よりも回復の方が早いからな。」

 自分以外の別な何かに変身できるってなかなかロマン溢れる魔法だな。俺は魔力の扱いがまだ下手だから長時間の維持はできないだろうが……。

「面白い魔法だな。それ、後で教えてくれよ。」

「むっふっふ、我に魔法の師になれと?カオルよ、おぬしはやはりなかなか良い目を持っておるではないか。師匠と呼んでも良いのだぞ?」

「考えとくよ。」

 もし変化の魔法を使えるようになったらいったい何に姿を変えてみようか。それを考えるのもまた楽しいな。

 そんな会話を弾ませながら、馬車は深々しんしんと降る雪の道中をひた進むのだった。




 そして気がつけば、すっかり日が沈み、辺りには暗闇が降りていた。
 それに伴って寒さも一段と増してくる。

「う~寒っ!!防寒着着ててもこれか。」

 たまに馬車のなかに入ってくる風が凍えるように冷たい。防寒着から出ている顔に当たると尚更だ。

 寒さに慣れていない俺が体を震わせていると、正面に座っているラピスが口を開いた。

「カオル、大丈夫か?」

「あ、あぁ……ちょっと予想してたより寒かっただけだ。」

「……仕方ない。我が暖めてやるのだ。」

 すると、ラピスは俺の膝の上にピョンと飛び乗った。

「ラピス?」

「こうしておれば幾分か暖かいだろう。我はドラゴン故体温も高いのだ。」

 確かに、膝にのせている感じ……まるで湯タンポを抱き抱えているような暖かさがある。

「ありがとな。」

「おぬしに風邪を引かれては困るからな。こんな場所でおぬし以外に我が満足できるものを作れる者はおるまい。」

 そうして、ラピスに暖めてもらいながら、また馬車に揺られていたのだが……ふと突然馬車がまた止まった。
 そして運転席の方から運転手がひょっこりと顔を出した。

「お客さん、リオーネスに到着しましたよ。」

「お、やっと着いたか。」

「これで馬車に揺られるのも終わりだの。」

 ラピスとともに馬車から降りると、真上にはキラキラと輝く満天の星空が広がっていた。
 幻想的な景色に目を奪われていると、運転手の男性がこちらに歩いてきた。

「お客さん、道中はありがとうございました。」

「あ、大丈夫ですよ。」

「あれだけ魔物を倒してもらったんで、運賃は要りません。」

 そう彼は言ったが、俺は彼の手に運賃に少し色をつけてお金を手渡した。

「あなたはちゃんと自分の仕事をこなした。それに対する対価ってのは必要ですよ。それじゃあありがとうございました。」

「え!?あ、お客さん!?」

 そして彼に背を向けて俺とラピスは灯りの灯るリオーネスへと入っていった。

「カオルよ、今から山に登るのか?」

「まさか、こんな真っ暗な道を進むわけないだろ。今日はひとまず宿を探して……明日の朝出発だ。」

 俺にはスキルの夜目があるから暗い道でも見えるが……それでも全てがはっきりと見えるわけではない。安全を考慮するならば明朝の出発が最善策だろう。

「さ、凍える前に宿を探すぞ。」

「うむ!!」

 降り積もった雪の中を歩きながらリオーネスの中を探し回っていると、ようやく宿屋と書かれた建物を見つけることができた。

「ここだ。」

 扉を開けると、中から暖かい空気が漏れて通りすぎていった。

 そして俺たちに気がついた宿屋の従業員の女性が声をかけてくる。

「こんばんは~、宿屋へようこそ~。ご宿泊ですか?」

「はい、二部屋空いてますか?」

「空いてますよ~。ではではこちらにお名前をお願いします。」

 差し出された紙にサラサラと名前を記入すると、部屋の鍵を二つ手渡された。

「今からでしたらご夕食もご用意できますけど、どうしますか?」

「お願いします。あと、明日の朝食も。」

「かしこまりました~。ではお部屋は二階に上がってすぐにありますので、ご夕食ができるまで少しお待ち下さ~い。出来次第こちらから声をかけますので~。」

「ありがとうございます。」

 そしてラピスと二階に上がり、各々自分の部屋を確認した後に、明日の予定を話し合うために俺の部屋に集まった。

「カオルよ、意外としっかりとした宿屋だの?」

「あぁ、ベッドも柔らかいし……これなら馬車で揺られて疲れた体も休められる。それで、明日の予定だが……朝食を食べた後に登頂開始だ。んで、ノーザンイーグルを倒して……行きか帰り道でギルドの依頼をこなす。」

「ふむ、目的は二つか。」

「できれば一日で登って帰ってくるのが望ましいが……天候に左右されるだろうから、最悪一泊位野宿することは考えておいてくれ。」

「寒い中で野宿か……。」

「大丈夫、しっかり準備は整えてきた。そこは安心していい。」

「そうか。では心配は要らなさそうだな。」

「あぁ、大船に乗ったつもりでいてくれて構わない。」

 そしてラピスと明日の予定を煮詰めていると、部屋の扉がコンコンとノックされ声が聞こえてきた。

「お客様~ご夕食の準備が出来ましたので一階にお越し下さ~い。」

「ん、もう出来たのか。」

「カオル以外のものが作る飯で我が満足できるとは思えんが、まぁ試しに食ってやろうではないか。」

 一階に向かうと、香ってきたのはチーズの香り。そして席に用意されていたのは、たっぷりのとろけたチーズと、蒸し野菜やパン等々。

 これは間違いなくチーズフォンデュだ。

 もちろん美味しくないわけがなく、俺とラピスは北の大地の味覚を存分に味わったのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上
ファンタジー
チートを貰い異世界転生。何も成し遂げることなく35年……、ついに前世の年齢を超えた。 ※この小説は他サイトにも投稿しています。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

異世界の片隅で引き篭りたい少女。

月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!  見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに 初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、 さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。 生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。 世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。 なのに世界が私を放っておいてくれない。 自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。 それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ! 己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。 ※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。 ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。  

はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。 ※第二章は全体的に説明回が多いです。 <<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

処理中です...