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第1.5章 レベリング
第057話 魔物捕獲依頼
しおりを挟むその日の夜、俺がギルドに向かって出掛けようと部屋を出ると、そこでラピスが俺のことを出待ちしていた。
「ラピス?」
「今からギルドに行くのだろう?」
「あぁそうだが?」
「なら我も連れていくのだ。」
「珍しいな、自分から行きたいって言うなんてさ。」
「近頃おぬし帰りが遅いからな。依頼で手間取っておるのなら我を誘えば良いというのに……。」
いやぁ……生憎依頼で手間取ってる訳じゃないんだよなぁ。まぁ、今弁解しても理解してもらえないだろうし、連れてって体験してもらった方が早いだろう。
「悪いな、じゃあ今日は頼む。」
「うむ、我に任せるのだ!!その辺の魔物なんぞ消し飛ばしてくれるわ!!」
そして俺は意気揚々のラピスを連れてギルドへと向かう。
夜の街でひときわ光を放つギルドへと足を踏み入れると、やはりというか、なんというべきか……酒場にはリルの姿があった。
「んぁ?あぁ!!キミ達やっと来たね~。待ってたよ~。」
「お酒のみながらですか?」
「まぁまぁ年中休みなしで働いてるんだからさ、このぐらい許してよ。それよりも、今日はそっちの子もいっしょなんだ?」
「カオルが依頼に手こずっておるようだからな。今日は我が協力し、手早く終わらせてやるのだ。」
「はは~ん?」
ラピスから話を聞いたリルはニヤリと笑うと、酒の入ったジョッキを片手に俺に近寄ってきた。
「キミ、夜中ここでお酒飲んでるのあの子に言ってないんだ?」
「まさか、遊んでるなんて言えないでしょう?」
「あははは♪それもそうだね~。まっ今は話しを合わせてあげるよ。」
そしてリルはラピスの方に近寄ると、彼女の肩に手を回した。
「いや~、最近ここいらの魔物も強くなっててね~。カオルくんも手こずっててさ~。」
「うむうむ、思った通りだ。して、今日はどんなヤツを倒せば良いのだ?」
「まぁまぁその辺の話は座って飲み物でも飲みながら話そうよ~。昼間のことも話したいしさ。」
「む、むぅ……我はカオルとともに早く帰るために来たのだが……。」
「美味しい料理もあるよ?」
「それはいただこう!!」
リルがそう言った瞬間にこれだ……。やはりラピスは美味しい料理という言葉には弱い。
どうして長いときを生きているドラゴンなのにこうも単純なんだ……。
あまりの単純さに思わず苦笑いを浮かべながらも、俺とラピスはリルとテーブルを囲んで腰かけた。
「私と同じお酒とこの前入れたお酒、それとおつまみたくさんお願~い。」
酒場のマスターにリルがそう告げると、すぐに俺とラピスの前になみなみと注がれた酒が運ばれてきた。
「あ、あの~リルさん?今日の依頼は…………。」
問いかけようとすると、リルは俺に小さな紙切れをラピスに見えないように手渡してきた。
それに目を通してみると……。
『今日、依頼はないよ~☆』
そう書いてあった紙に目を通して再びリルに試験を向けると、彼女は悪戯に笑いながら、パチンとウインクして見せた。
どうやら今日はまんまと嵌められたらしい。
また朝までコースか……と半ば諦めている俺の横で、ジョッキに注がれている飲み物をゴクゴクと一気に飲み干すラピス。
「ぷはっ、これは前にカオルが作ってくれたやつに似てるな。体が内側から暖められているようだ。」
「あはは~、キミはビールが苦手みたいだからね~。それなら飲めるでしょ?」
「うむ!!もう一杯だ!!」
「いいねぇ~、そういう勢いのある飲みっぷりかっこいいじゃん?」
「むははははっ!!このぐらい何杯でも飲み干してやるのだ!!」
あ~あ~……最初からあんなに飛ばして……。リルも下手に褒めるからラピスが完全に調子に乗ってる。
これはまた背負って帰らないといけないかな……。
俺はビールをゆっくりと飲みながら、凄まじい勢いで酒を飲み干していくラピスの姿を呆れながら眺めていた。
そしてテーブルが埋まるほどの大量のつまみが運ばれてきたところで、リルは話を始めた。
「それじゃ、料理も来たところで……そろそろ例の件について話そっか。」
「やっとですね。」
「あはは~、そう言わないでよ。キミの相棒だってこんなに楽しそうに飲んでるんだからさ。」
「酒を呷らせたのはリルさんでしょ。」
「まぁそれは否定できないね~。まぁまぁそれよりも、依頼の話……聞きたいでしょ?」
「できればラピスが完全につぶれる前にお願いしますよ。」
「はいはいっと、まぁ昼間も言った通り……ノーザンマウントの魔物討伐の依頼なんだけどさ。」
「そういえば、なんていう魔物なんです?名前……まだ聞いてなかったんですけど。」
「それも含めて今から話すよ。今回倒してもらいたいのは氷魔人って名前の魔物さ。」
「氷……魔人?」
「あぁ、まぁ人って名前についてるけど、れっきとした魔物だからそこは勘違いしないように。」
「そうなんですね。」
それは少し安心した。
だが、一つ疑問がある。確か俺が読んだノーザンマウントの本の中に、そんな名前の魔物はいなかったはずだ。
「俺が読んだノーザンマウントに関する本には、そんな名前の魔物はいなかった気が……。」
「まぁ氷魔人は今回初めて目撃された新種だからね。古い本に書いてないのも無理はないさ。」
「新種の魔物……ですか。」
「そっ、まぁそいつが今ノーザンマウント周辺で暴れてるんだってさ。」
「なるほど。じゃあ今回はそいつの討伐が依頼……という事でいいんですね?」
「いや、実はそうじゃないんだ。」
「そうじゃないって……いったいどういう?」
「今回依頼が来たのは周辺の村からじゃなく、魔物の研究機関からなんだよ。」
「……??その魔物の研究機関と依頼といったいどういう関係が?」
「まぁ要するに、今回キミ達に依頼したいのは氷魔人の討伐じゃなく、捕獲なんだよね。」
「えぇっ!?魔物を捕獲!?」
思わず少し声が大きくなってしまう。
「しかもできるだけ損傷を少なくって補足付き。だからまぁ~難易度が高い依頼なんだよね~。」
「と、討伐じゃダメなんですか?」
「何があっても生きた状態であること、それが今回の依頼内容さ。だから討伐すれば依頼は失敗ってことになるね。」
捕獲って簡単に言ったっていったいどうすればいいんだ?気絶させて引き摺ってくればいいのか?だとしても気絶させられる時間にも限りはあるし……。
頭を悩ませていると、ギルドの扉が開く音が聞こえた。
「まぁ、そんなに思い悩む必要はないよ。今回は、捕獲用の魔道具を作ってもらうようにお願いしたからね。」
ギルドの扉の方へと目を向けると、そこには……。
「今日もカオルがいんのかい。ん?そこのチビすけは……見ない顔だねぇ。」
黒い魔女装束に身を包んだカーラが立っていた。
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