35 / 350
第1.5章 レベリング
第035話 心は乙女?
しおりを挟むカーラの家に入ると、案の定彼女の背丈に合わせているから天井が高い。しかし明らかに筋力全ぶりな見た目をしている割に、家の中はどこか女性っぽさを感じさせる。きっちりと物は整理されていて、無駄がなく、ところどころに可愛いぬいぐるみが置いてある。
意外と心は乙女とかそういう感じの人なのかもしれない。
まじまじと部屋を見渡していると、照れくさそうにしながらカーラが言った。
「あんまり人の部屋をまじまじと見るんじゃないよ、こっぱずかしい。」
少し頬を赤らめながらそう言った彼女は、手にしていた大きな杖をパッ……と手放した。すると独りでに杖はふわふわと宙を飛び、玄関脇に立てかけられた。
「まぁ見せたいもんは山ほどあるんだが、立ち話もあれだし座んなよ。」
くいっとカーラが指を動かすと、勝手にテーブル脇にあった椅子が動き俺のもとに引き寄せられた。
促されるがまま俺がその椅子に座ると、今度は俺のことを乗せたまま椅子が宙に浮き、テーブルまで運ばれた。
一方のカーラはずかずかと歩いてテーブル越しに正面に座る。すると独りでにティーポッドと二人分のティーカップがテーブルの上にふわふわと浮いてくると、熱々の紅茶が勝手に注がれた。
言葉にするのならまさに全自動だ。そんな様子を眺めていると、カーラが笑う。
「便利なもんだろ?ってまぁアタシが全部動かしてるんだけど。」
「そんなに魔力を使って魔力が切れたりしないんですか?」
ふと疑問に思ったことを問いかけてみた。すると彼女はニヤリと笑った。
「アタシは特異体質でね。空気中に漂ってる魔素を呼吸だけじゃなく肌からでも吸収できるのさ。だからこの世界に魔素があり続ける限り、アタシの魔力は無限ってわけだ。」
すごい体質だな。まさに魔法使い向けの体質……魔法を使う人たちからしたら喉から手が出るほど羨ましい体質だろうな。
「まぁこんな体質なのにもかかわらず、こうやって引き籠って魔道具の開発ばかりしてっから他の魔女からは宝の持ち腐れなんて悪態吐かれるんだけどさ。」
自慢すると同時に彼女は苦笑いしながら他の魔女たちから嫌われていることもさらりと口にした。
そう口にした後に少し悲しそうな表情を浮かべた彼女に俺はポツリと思ったことを口にしてしまった。
「別にやることなんて人それぞれだから、何をしてもいいと思いますけどね。」
「………………!!」
俺がそう口にすると彼女はぽかんとした表情を浮かべ、恐る恐る口を開いた。
「アタシが変だって思わないのかい?」
「別に……そうは思いませんけど?」
「そ、そうか……。」
俺がはっきりと答えると、彼女は少し顔を俯かせながら表情を隠すように三角帽子のつばをつまんだ。こちらからは正面の表情をうかがうことはできないが、耳が真っ赤になっているのは見える。何か恥ずかしいことを言ってしまっただろうか。
そう不安になっていると、ぼそりと彼女が口を開いた。
「そ、そんな風に言われたの初めてだ……。」
「えっ?」
小さな声で何かをぼそりと呟いた彼女。こちらの耳には何を言っていたのか聞こえなかったので聞き返すと、彼女はぶんぶんと勢いよく首を横に振りながらこちらを向いて言った。
「な、なんでもないっ!!そ、それより新作の話だったな、ちょっと待ってな!!」
今の話を打ち切るように新作の話を持ち出した彼女は、テーブルに両手を叩きつけて立ち上がると隣の部屋へと行ってしまう。
バタンと扉が閉まった後、カーラが入っていった部屋からはボフボフと柔らかい何かを叩くような音が聞こえてきた。
何をしているのだろうか……明らかに何かを持ってくるときの音ではないよな。
そう不思議に思っていると、ピタリとその音が止み、落ち着きを取り戻した様子のカーラが箱のようなものを持って戻ってきた。
「待たせたね、こいつがアタシの新作さ。」
彼女が持ってきたのはどこか小さな冷蔵庫のような雰囲気を醸し出しているものだった。
「こいつは収納の魔法と時間停止の魔法を同時に付与した魔道具だ。」
「収納と時間停止を……それでこれは何ができるんです?」
「まぁ見てなよ。」
扉を開けて彼女はその魔道具の中に手を入れると、ほわほわと湯気のたつティーカップを取り出した。
「これは2日前にこの中にしまってた紅茶さ。」
「ふ、2日前!?」
「あぁ、そうだよ。しっかり熱も冷めてないし、腐ってもいないだろ?」
彼女の言うとおり、ティーカップの中に入っている紅茶は熱も冷めておらず、腐ってもいない。淹れたてのものとまったく変わらない。
「まぁ二つの魔法を重ねがけしてる分、収納の容量は小さくなっちまってる。それに軽量化してもこのデカさが限界だ。持ち運ぶにはちょいとばかし不便って感じさ。」
「収納袋に入れて持ち運んだりは?」
「できない。同じ魔法がかかった魔道具は重複できないんだ。」
「なるほど……。」
でもこれって……ある用途ではめちゃくちゃ使えるよな。
そう思ったとき、ジャックの言っていた言葉が頭の中にフラッシュバックする。
『おそらく今後カオル様にとって必要になる物かと。』
彼はこれがどんなものかわかっていて俺に話を持ちかけたのか。なるほど……確かにこれは必要だ。
「ど、どうだ?」
恐る恐る彼女はオレにそう問いかけて来た。
「うん、すごく使えると思います。」
「ホントか!?ど、どんなとこが使える?」
「あくまでもこれは俺の場合ですけど、アルマ様に作った料理が冷めることなく保存できる。それが何より大きいですね。何日か城を離れることもあるので、自分にとってはとてもありがたいものです。」
「そ、そうか……ならこいつを使ってみてくれよ。」
「良いんですか?」
「もちろんさ!!魔王様のお気に入りのあんたが使ってるってなれば、噂も広まるだろ?それを聞いて買ってくれるヤツも出てくるかもしれないからねぇ。」
「それじゃあありがたく使わせてもらいます。」
これがあれば……料理の鮮度を落とすことなく保存ができる。つまり、俺がいない数日間にアルマ様に出来立ての暖かい料理を提供する事ができるということだ。
「……つ、使うなら後で使った感想も教えてくれよ?今後の参考にするからさ……。」
「わかりました。それじゃあ、ありがとうございまし…………たっ!?」
そしてお礼を言って立ち去ろうとすると、彼女に腕を掴まれた。
「ま、まだ時間あるだろ!?もうちょっとゆっくりしていきなよ。」
「え、あ……は、はい。それじゃあ……。」
「お、お菓子とか好きか!?アタシがよく食べてるのがあるんだ。今持ってくる!!」
そして俺は時間の許す限り……彼女のおもてなしを受けることになってしまったのだった。
ちなみにお菓子の趣味も可愛いかった。
0
お気に入りに追加
88
あなたにおすすめの小説
異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
はぁ?とりあえず寝てていい?
夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。
※第二章は全体的に説明回が多いです。
<<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる