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第1.5章 レベリング
第033話 リルとの酒盛り
しおりを挟むリルから話を聞くべく、俺は再び彼女の前に座った。
「うんうん、その気になってくれて何よりだよ。まぁただ座って話しても面白くないし、何か食べながら話そうか。」
するとリルは酒場のマスターに何かを注文しに行ってしまう。そして戻ってくるときには、俺が考えてメニュー化されたフィッシュアンドチップスとなぜか二人分のお酒を携えて戻ってきた。
「はい、これキミのお酒だよ。」
「さっきお酒はいいって言ったじゃないですか。」
「まぁそんなこと言わないでさっ!!一人酒は案外さみしいものなんだよ?あいにく彼氏もいないしさ~。」
さらりとそう口にすると、彼女はジョッキに入っていた酒を勢いよく飲み始めた。まるで日頃溜まった鬱憤を晴らすかのように。
「ぷはぁ~!!いやぁ~、やっぱりお酒は最高だよ。ほらキミも飲んで飲んで?」
リルはこちらが飲まなければ話を始めてくれそうにない。
「じゃあいただきます。」
シュワシュワと泡立つまるでビールのような酒を俺はぐいっと流し込んだ。
「いいねぇ~良い飲みっぷりぃ~♪」
「ぷはっ……それで、例の依頼について聞かせてもらえますか?」
「も~せっかちだなぁ~。じゃあ本題に入るけど……キミ達にお願いしたいのはこの依頼さ。」
そう言ってリルは俺の前に一枚の依頼書を差し出した。
「依頼内容は最近新しくできたダンジョンの探索。」
依頼内容に聞いたことのない言葉があった。
「ダンジョン?」
「あれ?聞いたことない?」
一瞬キョトンとした表情を浮かべたリルだったが、すぐにダンジョンについて説明してくれた。
「ダンジョンっていうのは、世界中のどこかに突発的に発生する迷宮のことさ。それがここから南に行ったところにできたんだよ。」
「……ダンジョンというのはわかったんですけど、探索だけなら他のハンターでもできるんじゃ?」
「普通のダンジョンならね。」
リルはやけに普通という言葉を強調する。
「今回出現したダンジョンは攻略難度Aクラスのダンジョン。普通の冒険者じゃ手に負えない位強い魔物が蔓延ってるダンジョンらしいのさ。」
リルから話を聞いていたが、一つ疑問に思ったことがある。
「……ちょっと待ってください?」
「なにかな?」
「そういう情報があるってことは、先に調査に行った人がいるんですか?」
「うん、ダンジョンができたら最初に調査に赴く先見隊があるんだけど、その人達から回ってきた情報だね。」
そんな仕事まであるのか。未知の迷宮に真っ先に足を踏み入れる仕事なんて危なっかしそうだけどな。
「その人達は一応ダンジョン攻略のエキスパートなんだけど……一階層の魔物にすら手も足もでなかったらしくてね、こっちに依頼が回ってきたってわけさ。」
「なるほど……それほど強い魔物が蔓延ってるってことですね。」
「ま、そういうこと。キミのレベルアップにはちょうどいいんじゃない?」
確かに強い魔物ならレベルアップの糧にはちょうど良い。だが依頼を一つ返事で受けるわけにはいかない。
「一つ質問なんですけど……ダンジョンっていうのはどれぐらい探索に時間がかかるものなんです?」
俺にとって時間というのはとてつもなく大事なものだ。それこそ、時間がかかるのならば予めアルマ様の料理を作りおきしておかなければならないし……。
「う~ん、一概には言えないんだけど深いダンジョンでも2日……3日あれば攻略できると思うな。」
「長くて3日……。」
それだけの時間アルマ様が我慢できるだろうか?もし仮に3日間留守にするのならば、食事だけでなく、日持ちするお菓子も作っておいた方がいいだろう。多分その方がアルマ様の機嫌を損ねずに済む。
「あくまでも時間がかかった場合の話だけどね。恐らくキミとラピス君が協力すればもっと早く攻略できるさ。」
そう見解を示すと、リルはジョッキに入っていた酒を一気に飲み干した。そして顔を少し赤らめながら問いかけてくる。
「どうだい?受けてくれるかな?」
「……今すぐに答えることはできません。」
「もちろん、今すぐ決めろとは言わないさ。ジャックともしっかり話し合って決めてほしいね。下手に強引に依頼を受けさせるとジャックに怒られちゃうからさ。」
「わかりました。」
一つ頷いて、俺もジョッキに入った酒を一気に飲み干し、席を立ち上がろうとするとリルに肩を掴まれた。
「あれ~?どこ行くのさ?まだ宴会は始まったばっかだよ?」
「い、いや……流石にそろそろ帰らないと……。」
「ダメっ、ぜっ……たい!!帰さないもんね~。依頼の話は終わったし、こっからは私の愚痴に付き合ってもらうもーん。」
「えぇ……。」
思わず困惑するが、彼女はそんなことお構いなしで。
「お互い様独り身なんだしさ~?仲良くやろうよ~ねっ?」
確かに独り身なのは否定できないが……。
いつの間にか俺のとなりに椅子を動かしたリルは、ガッチリと俺の手を両手で抱き締め、鼻息を荒くしていた。
どうやら今晩は帰れそうにない。というか、帰してくれそうにない。
仕方がないから彼女の愚痴に付き合ってやるとするか。なに、彼女がすっかり酔っぱらって眠ってしまうまでの辛抱だ。
そう思って彼女に付き合うことにしたのだが……後々この選択が過ちであったことを後悔することとなった。
というのも、リルはかなり酒に強いようで、結局俺は陽が昇ってくるまで彼女の日頃の愚痴に付き合わされる羽目になったのだから。
これからは酔っ払った彼女の酒の誘いには気を付けようと思う……。うん、本当に。
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