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第1.5章 レベリング

第031話 帰還

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 半グレ集団を片付け終え、アルマ様たちの元へと戻ると時間がゆっくりと動き始め元の時の流れに戻った。

 再び歩みを進め始めたアルマ様の目にあの半グレ集団は映ることは無く、何も気付かれずに済んだ。
 まぁ気付かれないように隠ぺいしたんだけどな。もし気が付かれてアルマ様に恐怖を与えるようなことはあってはならないから。

 そしてジャックの屋敷に着く前に、俺は彼に耳元で囁かれた。

「カオル様お気遣いに感謝いたします。」

「え?」

「今しがた通りました道に無数の邪悪な気配を感じ取っておりました。しかし感じたと思った次の瞬間にはそれは跡形もなく消え去っておりましたので……おそらくは一時的に時間を止められるカオル様がやってくださったのでは?と、思いましてな。」

 これはもう流石としか言いようがないな。俺のスキルを知りつつもその並外れた観察眼で俺がやったことを察したのだろう。

「スキルが勝手に発動しちゃったもので……。」

「ホッホッホ、やはりそうでしたか。私の目に狂いはなかったようで、安心しました。」

 口元の整ったひげを指でつまむと彼は誇らしげに言った。

「それにしても別の世界に来てスキルを使えるという話は初めて聞きました。」

「えっ!?」

「本来であればこちらの世界ではスキルというものは使えなくなってしまうものなのですよ。」

「それじゃあ魔法は?」

「魔法はまた別の話になりますね。体内にある魔力を使い切ってしまえば、この世界では魔力の回復ができないので使えなくはなります。」

 なるほど……なら俺も使えるのかな? 

 手に魔力を込めると、自動的にスキルの魔力操作が発動し、頭で思った物の形をすぐに象った。

「おぉ、使える。」

「はい、そのように魔力を扱うことは可能です。しかし、この世界にはがありませんから魔力の回復ができないのです。」

 ジャックの言葉の中に聞いたことのないワードがあった。

「魔素?」

「魔素とは空気中に含まれる魔力を構成する物質です。呼吸する際に酸素と共に血流に取り込まれることで魔力に変換されます。」

「つまり、この世界にはそれがないから魔力を回復できない……ということですか。」

「そういうことです。」

「なるほど。」

 魔法が使えるというのはわかったが……どうして俺は使と言われているスキルをこの世界で使えたのだろうか。

「でもどうして俺はスキルを使えたんですかね?」

「これはあくまでも推測にすぎませんが、恐らくカオル様はもともとはこちらの世界の人間ですので、使えたのかと……。」

 そうジャックは仮説を立てた。

「あちらの世界の住人である我々がスキルを使えないのに、カオル様だけが使えるとあれば、そうとしか考えられないのです。」

「確かに……そうですね。」

 でもそのおかげでアルマ様を守ることができた。こればかりはこの世界で生まれて良かったと思うべきところだろう。

 そんなことを話しているとあっという間に屋敷に着いてしまった。

「着いた~っ!!」

 屋敷につくや否やアルマ様は、屋敷の中をパタパタと駆け回り始める。

「なんとか無事に帰ってくることができましたな。」

「えぇ、ひとまず安心ですね。」

 そうしてなんとか無事に食い物を終えたので、買ってきたお菓子を食べながら一休みすることになった。
 というのも、アルマ様とラピスがもう我慢できなさそうだったからだ。

 大きなテーブルの上に大量のお菓子や切り分けられた果物を並べると、アルマ様とラピスの二人は目を輝かせた。

「おいしそ~っ!!」

「やはり我の選んだものに間違いはなかったな。」

「どれから食べよっかな~……。」

「では私は紅茶を淹れて参ります。」

 二人が迷っている間にジャックは紅茶を淹れに行ってしまった。すると、迷いに迷ったアルマ様は俺に意見を求めて来た。

「カオルはどれがいいと思う?」

「確かに、ここに住んでいたカオルであればどれが美味しいのかわかるのではないのか?」

「う~ん、俺だったらこれ、ですかね。」

 そして俺が手にしたのは馴染み深いポテトチップスの袋だった。これは偶然にもアルマ様もラピスも二人とも買っていたものだった。

「ほぅ?理由はあるのかの?」

「これは本当に完成されたお菓子……っていうか、一回食べたら病み付きになる美味しさが。」

「へぇ~!!ならアルマこれから食べよっ。」

「我もそうするぞ!!」

 袋を大きく開けたポテトチップスを二人は手に取ると、迷いなく口の中へと放り込んだ。すると、噛む度にパリパリという心地のよい音がこちらまで響いてくる。

「ん!?これおいし~っ!!」

「うむ!!程よい塩加減で食感も良く美味いのだ!!」

 俺の言った通り、二人はすぐにポテトチップスの虜になり食べ始めた手が止まらなくなっていた。

 室内にはパリパリとポテトチップスが砕ける音がまるでASMRのように響き渡っている。そしてそろそろお茶が欲しくなってくる頃にジャックが暖かい紅茶を運んできた。

「お待たせしました。紅茶です。」

「ん~っ、ジャックありがと~!!」

「ちょうど水が欲しかったのだ。感謝するぞ。」

 口の中の塩分と油分を暖かい紅茶で流し込みリセットすることにより、二人の手は再び勢いを取り戻していた。
 そしてあっという間にポテトチップス二袋が無くなってしまう。続いて別のお菓子に手を伸ばそうとしていた二人だったが、そこで俺は声をかけた。

「お二人とも、あんまり食べすぎるとお昼ご飯が食べられなくなりますよ?」

「「あ゛っ!!」」

 俺が声をかけると、二人は思い出したように表情を強張らせた。

「そ、そういえばもうすぐお昼ご飯なの忘れてた……。」

「我もすっかり忘れていたのだ……。」

 すっかり忘れていた様子の二人。そんな二人にジャックは声をかけた。

「お城へ帰る魔法陣は準備できております。いつでも帰れますよ。」

「じゃあ帰って早くお昼ご飯食べる!!」

「うむ!!」

 一度広げたお菓子などを収納袋に仕舞うと、ジャックに連れられて魔法陣の部屋へと向かう。

「では参ります。」

 そしてガチャンと部屋につけられていたレバーを引くと、来たときと同じように魔法陣から光が放たれ始め、視界が包まれていった。
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