21 / 350
第1.5章 レベリング
第021話 ハンターズギルド
しおりを挟むジャックの薦めで魔物ハンター達が集まるギルドへと足を運ぶべく城を出ようとしたとき……。
「お~い、カオルどこへ行くのだ~?」
背後からラピスに声をかけられた。
「魔物ハンターのギルドに行くんだよ。」
「ま、魔物ハンターだと!?ま、まさか我のことを討伐するつもりではなかろうな!?」
顔を青ざめさせながらラピスは言った。
「そんな事するわけないだろ?第一にラピスはもう契約で、城のお手伝いをすることになってる。それだけでも身の安全が保証されていると思うが?」
「うむむ、確かにそうなのだが……。それならばどうして魔物ハンターなんぞのところに行く?」
「次にアルマ様が欲する食材を採りに行くにはレベルが足りないんだよ。」
「ほぉ、レベルとな。」
ここで俺はふと気になった。
「そういえばラピスはレベルはどのぐらいあるんだ?」
「我のレベルか?む~……いくつだったかの~。100から先は数えるのを止めた故正確なものはわからん。しばらくレベルも上がっとらんし。」
「ひゃ、百!?」
レベル100と言えばジャックよりも遥かに上だ。まさかラピスがそんなに強かったとは思わなんだ。
「そういうカオルのレベルはいくつなのだ?」
「22だよ。」
「ぶふっ!!22だと!?」
思わず吹き出してしまったラピスは、笑いをこらえて口元を押さえている。
「なんだよ、そんなに可笑しいか?」
「可笑しいにきまっておろう?カオルは態度こそ大きいが、レベルはずいぶんと可愛いものだの~。ぷくくくく♪」
ここまで馬鹿にされると、流石に癪に触るな……。少しお返ししてみるか。
「ラピス、今日のご飯抜きな。」
「な、なんとな!?」
そう口にした瞬間ラピスの顔色が一気に青ざめていく。そして彼女はすがり付くように俺にくっつくと、涙を流しながら訴えかけてきた。
「カオル~、ほんの冗談なのだぁ。飯抜きは許してほしいのだ~!!」
「まぁ、気分次第だな。」
「そんな殺生なぁ~……。飯抜きなんて、我は餓死してしまうぞ?」
大袈裟だな。一日二日飯を抜いたところで死にはしないさ。まぁ、そんなひどいことをするつもりは毛頭ないがな。
「ふっ、冗談だよ。契約にある通り飯はしっかり作ってやるさ。」
「よ、よかったのだ~。」
「っと、ほれ着いたぞ。」
そんな会話をしていると、あっという間に目的地の目の前に着いてしまった。
「ここが魔物ハンターのギルドか。意外と綺麗な建物だな。」
外観は良いが中はどうかな?
木製の大きな扉を開けて中へと入ると、強烈なアルコールの匂いが鼻をついた。
「むぅぅ、カオル……鼻がツンとするのだ。」
「アルコールが揮発してる匂いだ。苦手なら鼻をつまんでいた方がいいぞ?」
「わかった。」
ラピスは片手で俺の服の裾をきゅっと掴みながら、空いている方のもう片方の手で鼻を摘まんだ。
「このアルコールの匂いの原因はあれか。」
どうやらこのギルドは酒場と一体化している場所のようで、酒場には真っ昼間から酒盛りをしている男達が集まっていた。
「ラピスしっかり着いてこいよ。」
「うむ。」
一先ず受付らしいところへと向かう。そしてそこにいたフリルのスカートを身につけた女性に声をかけた。
「すみません。」
「は~い、ハンターズギルドへようこそ!!初めての方……ですよね?」
「はい、ハンターの登録をしに来たんですが。」
「登録ですね。では誰かからの推薦状とかはお持ちですか?お持ちでないのならこのまま手続きを進めますけど。」
「あっと……これでいいですか?」
城から出る前にジャックに手渡されていた一枚の紙をその女性に手渡すと、彼女は目を丸くして慌て始めた。
「あっ、あっ……ギルドマスターを呼んで参りますので少々お待ちくださいっ!!」
パタパタと駆け足で女性はどこかへと行ってしまった。
「ラピス、少し待つようだ。」
「むぅ……我はこんな臭いところ早くおさらばしたいぞ。」
ラピスとそう話していると、酒場の方から酔っ払った大柄の男が此方に近付いてきて、ラピスに詰め寄った。
「お~う嬢ちゃん、可愛いねぇ~。あっちでオレに酒注いでくんね~か?」
「うっ……臭っ。お断りだ!!」
男の放つ酒気に鼻を曲げながら拒絶するラピスだったが、その様子を見ても男は彼女にさらに詰め寄った。
「そうつれねぇこと言うなよ~。一杯だけでいいからよ、なっ?」
そしてラピスに手を伸ばそうとした男。俺はその男の手がラピスに届く前に掴んだ。
「そんなに酒を注いでほしいなら俺が行こう。」
「あぁ?男なんざ興味ねぇよ、痛い目に遭いたくなかったら黙ってその手を離しやが…………っ!?」
男は躍起になって俺の手を振りほどこうとするが、俺もさらに力を籠めた。
「~~~っざけんな!!離せっ…………うぉぉぉっ!?」
男が思い切り力を籠めたところでパッと手を離してやると、よろよろとよろめきながら無様な姿を晒しながらもこちらに怒りのこもった視線を向けてきた。
「てめぇ……調子こいてんなァ。」
ギロリと俺のことを睨み付けてくると、男は酒場の舞台を指差した。
「おい、ヒョロガリ野郎……彼処でヤろうや。彼処はどれだけ殴ろうが、武器で切りつけようがお咎めなしだからな。」
「つまり、俺がどれだけお前を殴っても良いってことだな?」
「へっ、言ってろよ。勇気があるなら上ってきやがれ。」
普段ならこんなやっすい挑発には乗らないのだが、少しこいつにお灸を据えてやりたくなった。
「ラピス、ちょっとここで待っててくれ。」
「う、うむ。」
ラピスに受付の前で待っておくように言うと、俺は酒場の舞台の上へとあがる。すると、先ほどの男は他にも何人か舞台の上で待機させていた。
「……そいつらは?」
「審判だ。決着には審判が必要だろ?」
審判が三人も必要か?どう考えても伏兵だろうが……と突っ込みたくなったが俺はのどまで上がってきたその言葉をぐっと飲み込んだ。
「まぁいいか、ほら……そっちが売ってきた喧嘩だ。来いよ。」
そしてちょいちょいと挑発してやると男の額にビキリと青筋が浮かんだ。
「調子づきやがって……ボコボコにしてやるよォッ!!」
男はポケットに手を突っ込むと、両手にメリケンサックのような物をはめて殴りかかってきた。
なるほど、舞台に上がってからずいぶんと余裕そうだと思っていたが、それは武器が使えるからだったのか。
「死ねやァッ!!」
男の大きな拳が目の前に迫ったその瞬間、時の流れが極端に遅くなる。危険予知が発動したのだ。
しかし、本当に死の危険が迫っている時のように完全に動きが止まっているというわけではない。ゆっくりと……ゆっくりと男は動いていた。そして周りの景色も同じように。
ということは、命の危険はないが喰らえば怪我をする程度ということかな?
いつもならこの時間の中で避ける動作をとるところだが、今日は少し試したいことがある。この時の流れのなかで……攻撃を加えたらどうなるのか、それを検証しよう。
「さて、一発思いっきりいかせてもらうか。」
グッ……と握る手に力を籠めると、俺は思い切り男の腹に拳を叩き込んだ。その瞬間に時間の流れが急速に元に戻っていく。
緩やかになっていた時間の流れが元に戻ると同時に、形容しがたい爆音が酒場に鳴り響き、それによって生じた衝撃波で酒場にあったテーブルや椅子、果てには人までも大きく吹き飛んでいく。
そして俺の拳を食らった男は審判として立たせていた男三人を巻き添えにギルドの壁を突き破り、通りまで吹き飛んでいた。
辺りが騒然とするなか、二階から一人の女性が降りてきた。
「あちゃ~……遅かったか。」
酒場の惨状を目にして頭を抱えながら、彼女は此方に歩み寄ってきた。
「キミが噂の魔王様のお気に入りだね。どうやらうちの子が迷惑をかけたみたいで、ごめんよ。」
俺は酒場の舞台はから降りると、彼女にペコリと一礼した。
「すみません、いろいろ壊してしまって……これは後でしっかりと……。」
「あぁ、これ?いいのいいの、修繕費は全部アイツらに払わせるからね。」
「でも壊したのは俺……ですよ?」
「あはは、キミは何も心配することはないよ。悪いのはアイツらなんだよね?なぁ、諸君?」
チラリと彼女が酒場で飲んでいた人達に視線を向けると、彼らは一斉に首を縦に振った。
「ま、というわけさ。さて、事情はなんとなく書面を見てわかってる。私の部屋で話そうか。あと、そこのお連れさんもね。」
そして俺とラピスは彼女に連れられてギルドの二階へと案内されるのだった。
0
お気に入りに追加
90
あなたにおすすめの小説

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。

転生した体のスペックがチート
モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。
目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい
このサイトでは10話まで投稿しています。
続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
やっと買ったマイホームの半分だけ異世界に転移してしまった
ぽてゆき
ファンタジー
涼坂直樹は可愛い妻と2人の子供のため、頑張って働いた結果ついにマイホームを手に入れた。
しかし、まさかその半分が異世界に転移してしまうとは……。
リビングの窓を開けて外に飛び出せば、そこはもう魔法やダンジョンが存在するファンタジーな異世界。
現代のごくありふれた4人(+猫1匹)家族と、異世界の住人との交流を描いたハートフルアドベンチャー物語!


クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる