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第1章 黄金林檎

第019話 魔王としての成長。

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「おいカオルどこへ行く?」

「アルマ様に採ってきた黄金林檎を振る舞いに行くんだよ。」

「我の分はないのか?」

「俺が1個しか持って帰ってきてないの知ってるだろ?あいにくラピスの分はない。」

「むぅ……。」

 そしてラピスとともに厨房の入り口をくぐると、既にアルマ様とジャックの二人が待っていた。

「あ!!カオル……とっ!!」

「まだ言うかお主っ!!」

「アルマ様、紹介が遅れました。これから俺の手伝いをしてもらうラピスです。以後お願いします。」

「むぎっ!?」

 アルマ様の目の前で俺はラピスを無理矢理お辞儀させた。

「む~、わかった。よろしくねラピス。」

「ぐぐぐっ……我がこんなちびすけに頭を下げることとなるとは、不覚だ。」

「では、早速黄金林檎の方を剥きますので少しお待ちください。」

「うん!!ラピスとお話しして待ってる。」

 ラピスのことをアルマ様に預けると、俺は黄金林檎を手に取った。そしてオリハルコンというものでできているというナイフで皮を剥き、食べやすいようにカットするとアルマ様のもとへと向かった。

「お待たせしました。黄金林檎です。お菓子にすることも考えたのですが、さぞ美味しい果実とのことでしたので……やはりそのままで召し上がってください。」

「うん、ありがと。ラピスも食べる?」
 
「良いのか!?」

「1個だけね~。」

「ぐぐぐっ、ちびすけのくせにケチなヤツだの。」

「えへへ~、だってこれはアルマのだも~ん!!」

 アルマ様はフォークで黄金林檎を突き刺して、大きな口へと放り込んだ。

「ん~っ!!おいし~っ!!」

 ラピスの分を残して全部ペロリと食べ終えたアルマ様。満足そうな表情を浮かべていると、突然異変が起こった。

「あれ?」

 フワリとアルマ様の体が宙に浮いたかと思うと、胸の中心から光が溢れ出したのだ。

「っ!?あ、アルマ様っ!!」

「カオル様、心配は無用ですぞ。」

「でも……。」

「まぁ見守っていてくだされ。」

 ジャックがそう言っているのだ、大丈夫なのだろうと思ってアルマ様に起こった変化を見届けていると、胸からでた光がアルマ様の体をすっぽりと包み込んでしまった。

 そしてしばらくすると徐々に光が弱まり始め、包まれていたアルマ様の姿が露になりはじめた。

「えっ?あれが……アルマ様ですか?」

 再び姿を現したアルマ様は一回りほど成長していて、頭から二対の黒い角が生えてきていたのだ。

「驚くのも無理はありません。カオル様は私が黄金林檎のことについて話したときのことを覚えておいでですか?」

「確か、第代魔王の血筋を受け継ぐ者は成長の過程で、様々な食材を欲する……でしたっけ?」

「その通り、そして始めの食材である黄金林檎を食したアルマ様は……魔王として体と心が一つ成長したという訳でございます。」

 そんなことが……。信じられない事だが、目の前のアルマ様の姿は確かに成長している。

 目の前の事実を受け入れられずに唖然としていると、光から解放されたアルマ様がゆっくりと地に足をつけた。そして俺の方を見つめてきた。

「カオル、黄金林檎美味しかったよ。次はもっと食べたいな。」

「あ……は、はい。」

 明らかに話し方も以前までとはまるで違う。ついさっきまでは幼さが抜けきっていなかったが……今は幼さは感じない。それどころか少し威厳を感じる。

 そんなアルマ様にジャックが祝福の言葉を投げ掛けた。

「アルマ様おめでとうございます。」

「ジャックもありがとね。」

「とんでもございません。私めは魔王様の成長をこの目で見ることができて幸せでございます。」

「そっか、あとは……ラピスだね。」

 アルマ様はラピスに近付くと、意地悪そうにニヤリと笑った。

「ラピス、これでもうアルマのことをなんて呼べないね?」

「お、お主急にそんなに成長するのは卑怯ではないか!?」

 突然成長を遂げたアルマ様にラピスも戸惑いを隠せないようだ。

「さてっと、次のご飯までまだ時間があるし~。カオル、ちょっとアルマと手合わせしよ?」

「いっ!?」

「ホッホッホ、それは良いお考えでございます。」

「アルマまだ力を制御できないと思うから、避けるのが上手いカオルが相手にちょうどいいと思うんだ~。」

「あ、あはは……そ、それならジャックさんの方が――――。」

 柔らかく断ろうとすると、ぎゅっと手を握られ耳元で囁かれた。

「もちろん、受けてくれるよね?」

「……は、はい。」

「きっまり~!!じゃあアルマの攻撃が当たったら次のご飯のとき、ケーキも作ってね!!」

 好物は相変わらずケーキらしい。

 断ることもできず、ぐいぐいと手を引かれトレーニングルームへと連れていかれる俺にジャックとラピスはそっと手を振っていた。

 見てないで助けてほしい……。

 そう切に願うのだった。



 そして引きずられるようにしてトレーニングルームへと連れてこられると。

「それじゃあ全力で行くからね~っ!!」

「お、お手柔らかにお願いします。」

「えへへ、行くよーっ!!」

 トン……とアルマ様が軽く床を蹴った瞬間に、危険予知が発動し時の流れが一時的に止まる。
 いつもならこの間に攻撃を避けるのだが、魔王として一つ成長したからか、いつもとはアルマ様が少し違った。

「っ!?少し……アルマ様が動いてる?」

 完全に止まっているはずの時間の中で、アルマ様がゆっくりと動いているのだ。今までこんなことはなかった。
 それに驚いていると、ゆっくりとアルマ様がこっちを向いた。その表情は楽しそうに笑っていた。

「っ!!」

 嫌な予感をひしひしと感じた俺は、アルマ様が動く前になんとか視線を切れる背後へと回り込んだ。すると、時の歯車が動き始め、時間の流れがもとに戻る。

 それと同時に、アルマ様の姿が掻き消え、先ほどアルマ様と目があった時に俺がいた場所に大きなクレーターができたのだ。

「~~~っ……。」

「あれ?今日はカオルのこと追えたと思ったんだけどな~。」

 クレーターの中心に立つアルマ様はゆっくりと拳を床から引き抜くと残念そうな表情を浮かべた。

「やっぱりカオルは速いなぁ~。」

 パンパンと手をほろっているアルマ様を、冷や汗を流しながら眺めていると声が響く。

『レベルが2上昇しました。』

(今のだけでレベルが2も上がったのか!?)

 さっきから驚きの連続だ。いつになったら休ませてくれるのだろうか。
 そんなことを思っていると――――。

「う~ん、それじゃ。」

 その言葉に、俺は思わず苦笑いを隠しきれなかった。






 場所は変わり、カオル達が去ったキノコの森のマシュルドラゴンの巣の前にて……。

「グルルルル……。」

「全く、魔王の雇った人間一人程度であれば方がついた一件だったというのに……。予想外の邪魔が入ったな。」

 威嚇するマシュルドラゴンの目の前で黒衣に身を包んだ何者かがそう呟く。

「さて、我々の痕跡は消さねばならない。故にお前にも消えてもらおうか。」

 黒衣の者が背中に携えていた大きな剣を引き抜くと、刀身に真っ赤な焔が宿った。

「灰塵。」

 そう口にしながら剣を一閃すると、キノコの森が火の海に包まれた。
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