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第1章 黄金林檎

第012話 初めてのギャンブルと白金貨

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 そうしてただひたすらに絵柄を揃えるだけとなってしまったこの反射神経スロット……、いつしか俺の周りには人だかりができ背後にはコインがぎっしりと詰まったドル箱が何段も積み重なってしまっていた。

(……どうしようか。)

 俺のスキルである危険予知はいまだに俺のことをここから離してはくれない。というのだ。

 もう何度目かも知れないダブルアップの文字が画面に表示され、次の瞬間には大量のコインが放出される。その繰り返し。

 そんなことを繰り返していると、こちらに一人の人物が歩いてきた。

「お客様ご遊戯の最中申し訳ございません。大変恐縮なのですが、当店ではお客様にこれ以上コインを払い出しすることができないので……どうかご容赦を。」

 こちらに近寄ってきた彼がそう言うと、俺は体の自由が利くことに気が付いた。どうやらスキルの方も諦めてくれたらしい。
 俺は席から立ち上がって彼にぺこりと頭を下げる。

「すみません、初めてだったものでちょっと楽しくてやりすぎました。」

 こちらがそう謝ると彼は一瞬驚いたような表情を浮かべた。

「そ、そうでしたか。それではこちらにあるお客様が獲得したコインを換金させていただきますので、どうぞこちらへ。」

 表情を引きつらせながら彼は俺のことを別室へと案内してくれた。そして別室で腰掛けるように促されると、彼はひとたび部屋を後にした。

「ふぅ、にしてもまさかスキルに体の自由を制限されるとは思わなかった。」

 何度も何度も俺の命を救ってくれたスキルではあるが、まさかこんな時に牙をむいてくるとは……。今後ギャンブルはできそうにないな。

 少しの間彼のことを待っていると、彼は意外にも小さな革袋を携えて戻ってきた。

「お待たせいたしました。こちらが今回換金させていただいた……15枚になります。」

 彼の言葉からというワードが出た瞬間俺は耳を疑いそうになった。

「し、15枚!?」

「はい、間違いございません。」

 というのは金貨のさらに上の硬貨の名前だ。金貨が日本円で一万円ならば、単純思想では十万円……と思うかもしれないが、それは間違いだ。

 白金貨は一枚当たり、金貨百枚分の価値がある。つまり一枚で百万円の価値がある硬貨なのだ。

 俺もこの世界に来てから目にするのは初めてだ。

「よろしければどうぞご確認を……。」

 そう言って彼はテーブルの上に白金貨が入った袋を置いた。

 恐る恐るそれに手を伸ばして持ってみると、ずっしりと重い白金貨15枚の重みが手に伝わってくる。白金貨は普通の金貨よりも二回りほど大きく、そして重いのだ。
 俺は一枚一枚しっかりと数を数え15枚あることを確認すると一つ頷いた。そして俺が頷いたのを見て彼はほっと安堵したように息を吐き出す。

「間違いのなかったようで安心しました。我々も間違いの無いように普段から心がけてはおりますが、何せ今回は白金貨がこんなにということでしたから。」

 額を伝う汗をハンカチでぬぐいながら彼は言う。

「では間違いもなかったようですので、よろしければ裏口の方からお帰りください。正面入り口ではお客様に声をかけようと待っている方が大勢いらっしゃるご様子ですので。」

「お気遣いありがとうございます。」

 そして俺は彼に案内され、店の裏口から店を後にした。

 興味本位で正面の入り口の方を遠巻きに覗いてみると、すごい数の人だかりができてしまっていた。

(見つからないように早く帰ろう。)

 人通りの多い通りを避けて裏路地を進み魔王城へと帰りつくと、ジャックが俺のことを待っていた。

「おかえりなさいませカオル様、どうでしたかな?」

「もう二度とギャンブルはしません。」

「ホッホッホ、その様子ですと結構お使いになりましたか?」

「えっと、こんな感じになりました。」

 ジャックに例の白金貨の入った袋を渡すと、彼はそれを開けた。すると大きく目を見開いた。

「これはっ……白金貨ですか!?」

「はい……。」

「しかも、1枚2枚……15枚ですと!?いったい何をどうすればこんなに……。」

「えっと、実は────。」

 こうなってしまった経緯いきさつを彼に話すと、一瞬目を丸くしたが、次の瞬間にはにこりと笑った。

「ホッホッホ、なるほど。あの賭博では魔力の使用は禁止されていても、魔力を伴わないスキルの使用はまかり通りますからな。」

「つまり俺と同じようなスキルを持っていたら……。」

「そういうことです。まぁそれでもカオル様のように一瞬時を止めるという稀有なスキルを持っている者はいないでしょう。あるとすれば、身体能力を一時的に向上させ、反射神経を大きくあげるものでしょうか。」

 ジャック曰く、身体能力を上昇させるようなスキルはなかなか身に付かないのだとか……。
 
「そんなスキルをお持ちでは賭博も楽しめませんな。」

「ギャンブルはもうやりませんよ。こっちが申し訳なくなります。」

 笑う彼に苦笑いで返す。

「ホッホッホ、確かに……。カオル様が訪れた店は大赤字必死でしょうな。」

「まぁでも、ギャンブルに向いてないってわかった抱けでも収穫でしたよ。」

「そうですな。また別の趣味をこの街で探してみるのが良いでしょう。」

 彼とそんな話をしていると、突然バン!!と勢いよく部屋の扉が開いた。そしてアルマ様が入ってくる。

「カオル~!!アルマお腹へった~!!」

「えっ!?アルマ様、まだお昼には時間が……。」

 アルマ様の昼食の時間まではまだ時間がある。しかし……。

「でもアルマお腹へったもん?ご飯作って~!!」

 お腹から可愛らしい音を鳴らしながらアルマ様はぎゅっとしがみついてくる。

「え、えっと……。」

 チラリとジャックに視線を向けると、彼は満面の笑みで一つ大きく頷いた。どうやら要望通りにしても良いらしい。

「わ、わかりました。何が食べたいとか……ありますか?」

「う~ん……アルマあんまり料理わかんないけど、とりあえず美味しいのっ!!」

 どうやら料理はお任せで良いらしい。オムライスを注文してこなかったのは、朝たくさん食べたからだろう。

「それじゃあパスタでも作りましょうか。」

「あ!!アルマパスタも好き~♪が良い!!」

「わかりました。それではそのようにします。」

 趣味を見つけるのには失敗したが、結果的にはお金も増えて良い結果になった。

 だが、二度とギャンブルには行かない。そう誓いをたてるのだった。
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