12 / 350
第1章 黄金林檎
第012話 初めてのギャンブルと白金貨
しおりを挟むそうしてただひたすらに絵柄を揃えるだけとなってしまったこの反射神経スロット……、いつしか俺の周りには人だかりができ背後にはコインがぎっしりと詰まったドル箱が何段も積み重なってしまっていた。
(……どうしようか。)
俺のスキルである危険予知はいまだに俺のことをここから離してはくれない。まだやれというのだ。
もう何度目かも知れないダブルアップの文字が画面に表示され、次の瞬間には大量のコインが放出される。その繰り返し。
そんなことを繰り返していると、こちらに一人の人物が歩いてきた。
「お客様ご遊戯の最中申し訳ございません。大変恐縮なのですが、当店ではお客様にこれ以上コインを払い出しすることができないので……どうかご容赦を。」
こちらに近寄ってきた彼がそう言うと、俺は体の自由が利くことに気が付いた。どうやらスキルの方も諦めてくれたらしい。
俺は席から立ち上がって彼にぺこりと頭を下げる。
「すみません、初めてだったものでちょっと楽しくてやりすぎました。」
こちらがそう謝ると彼は一瞬驚いたような表情を浮かべた。
「そ、そうでしたか。それではこちらにあるお客様が獲得したコインを換金させていただきますので、どうぞこちらへ。」
表情を引きつらせながら彼は俺のことを別室へと案内してくれた。そして別室で腰掛けるように促されると、彼はひとたび部屋を後にした。
「ふぅ、にしてもまさかスキルに体の自由を制限されるとは思わなかった。」
何度も何度も俺の命を救ってくれたスキルではあるが、まさかこんな時に牙をむいてくるとは……。今後ギャンブルはできそうにないな。
少しの間彼のことを待っていると、彼は意外にも小さな革袋を携えて戻ってきた。
「お待たせいたしました。こちらが今回換金させていただいた……白金貨15枚になります。」
彼の言葉から白金貨というワードが出た瞬間俺は耳を疑いそうになった。
「し、白金貨15枚!?」
「はい、間違いございません。」
白金貨というのは金貨のさらに上の硬貨の名前だ。金貨が日本円で一万円ならば、単純思想で白金貨は十万円……と思うかもしれないが、それは間違いだ。
白金貨は一枚当たり、金貨百枚分の価値がある。つまり一枚で百万円の価値がある硬貨なのだ。
俺もこの世界に来てから目にするのは初めてだ。
「よろしければどうぞご確認を……。」
そう言って彼はテーブルの上に白金貨が入った袋を置いた。
恐る恐るそれに手を伸ばして持ってみると、ずっしりと重い白金貨15枚の重みが手に伝わってくる。白金貨は普通の金貨よりも二回りほど大きく、そして重いのだ。
俺は一枚一枚しっかりと数を数え15枚あることを確認すると一つ頷いた。そして俺が頷いたのを見て彼はほっと安堵したように息を吐き出す。
「間違いのなかったようで安心しました。我々も間違いの無いように普段から心がけてはおりますが、何せ今回は白金貨がこんなにということでしたから。」
額を伝う汗をハンカチでぬぐいながら彼は言う。
「では間違いもなかったようですので、よろしければ裏口の方からお帰りください。正面入り口ではお客様に声をかけようと待っている方が大勢いらっしゃるご様子ですので。」
「お気遣いありがとうございます。」
そして俺は彼に案内され、店の裏口から店を後にした。
興味本位で正面の入り口の方を遠巻きに覗いてみると、すごい数の人だかりができてしまっていた。
(見つからないように早く帰ろう。)
人通りの多い通りを避けて裏路地を進み魔王城へと帰りつくと、ジャックが俺のことを待っていた。
「おかえりなさいませカオル様、どうでしたかな?」
「もう二度とギャンブルはしません。」
「ホッホッホ、その様子ですと結構お使いになりましたか?」
「えっと、こんな感じになりました。」
ジャックに例の白金貨の入った袋を渡すと、彼はそれを開けた。すると大きく目を見開いた。
「これはっ……白金貨ですか!?」
「はい……。」
「しかも、1枚2枚……15枚ですと!?いったい何をどうすればこんなに……。」
「えっと、実は────。」
こうなってしまった経緯を彼に話すと、一瞬目を丸くしたが、次の瞬間にはにこりと笑った。
「ホッホッホ、なるほど。あの賭博では魔力の使用は禁止されていても、魔力を伴わないスキルの使用は罷り通りますからな。」
「つまり俺と同じようなスキルを持っていたら……。」
「そういうことです。まぁそれでもカオル様のように一瞬時を止めるという稀有なスキルを持っている者はいないでしょう。あるとすれば、身体能力を一時的に向上させ、反射神経を大きくあげるものでしょうか。」
ジャック曰く、身体能力を上昇させるようなスキルはなかなか身に付かないのだとか……。
「そんなスキルをお持ちでは賭博も楽しめませんな。」
「ギャンブルはもうやりませんよ。こっちが申し訳なくなります。」
笑う彼に苦笑いで返す。
「ホッホッホ、確かに……。カオル様が訪れた店は大赤字必死でしょうな。」
「まぁでも、ギャンブルに向いてないってわかった抱けでも収穫でしたよ。」
「そうですな。また別の趣味をこの街で探してみるのが良いでしょう。」
彼とそんな話をしていると、突然バン!!と勢いよく部屋の扉が開いた。そしてアルマ様が入ってくる。
「カオル~!!アルマお腹へった~!!」
「えっ!?アルマ様、まだお昼には時間が……。」
アルマ様の昼食の時間まではまだ時間がある。しかし……。
「でもアルマお腹へったもん?ご飯作って~!!」
お腹から可愛らしい音を鳴らしながらアルマ様はぎゅっとしがみついてくる。
「え、えっと……。」
チラリとジャックに視線を向けると、彼は満面の笑みで一つ大きく頷いた。どうやら要望通りにしても良いらしい。
「わ、わかりました。何が食べたいとか……ありますか?」
「う~ん……アルマあんまり料理わかんないけど、とりあえず美味しいのっ!!」
どうやら料理はお任せで良いらしい。オムライスを注文してこなかったのは、朝たくさん食べたからだろう。
「それじゃあパスタでも作りましょうか。」
「あ!!アルマパスタも好き~♪かるぼな~らが良い!!」
「わかりました。それではそのようにします。」
趣味を見つけるのには失敗したが、結果的にはお金も増えて良い結果になった。
だが、二度とギャンブルには行かない。そう誓いをたてるのだった。
0
お気に入りに追加
88
あなたにおすすめの小説
異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
はぁ?とりあえず寝てていい?
夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。
※第二章は全体的に説明回が多いです。
<<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる