11 / 350
第1章 黄金林檎
第011話 給料日
しおりを挟むアルマ様がついに俺の目の前で料理を食べてくれた今日は、それだけでも特別な日だが……実は俺にとってさらに大事な日でもある。
アルマ様の朝食を作り終えた俺はジャックに呼び出された。
「カオル様、今月もお疲れ様でございました。こちらが今月分のお給料になります。」
「ありがとうございます。」
今月の給料と言って彼はこちらにチャリチャリと音がする革袋を手渡してきた。
「そしてこちらが明細書になります。」
革袋に続いて彼はこの革袋の中身の詳細が書かれた明細書をテーブルの上に置いた。
そうお分かりの通り、今日は月に一度の給料日なのだ。しかし、今日の給料日はいつもとは少し違っていた。というのも明らかに普段よりも革袋がパンパンに膨らんでいるのだ。
それを不思議に思った俺が明細書に目を通すと、いつもの倍以上の給料がこの袋の中に入っているようで……。明細書の項目には新たに「レッドキャップ討伐報酬」と「力の果実提供の報酬」の項目が加えられていて、その二つが給料が増えている大きな要因のようだ。
「このレッドキャップ討伐報酬ってのと力の果実提供の報酬っていったい?」
「ホッホッホ、つい昨日大量のレッドキャップと力の果実を持って帰って来たではないですか。それの報酬でございますよ。」
「それにしても多くないですか?」
「昨日もお話しした通り、力の果実はとても貴重なものです。それゆえにとても高価でもあります。そしてレッドキャップはハンターたちが多額の懸賞金をかけておりました。」
なるほど、納得だ。
ちなみに俺の普段の手取りの給料は金貨24枚。24枚と聞くと少ないように感じるかもしれないが、この世界では、金貨という硬貨は日本での一万円相当の価値があるのだ。つまり普段は毎月24万円相当の給料をもらっている。
そして今日は、それの倍以上の金貨50枚が革袋の中に入っているようだ。の本円に換算して約50万円……少し早いボーナスをもらったようなものだ。
「アルマ様も毎日カオル様の作る料理を楽しみにしておりますので。これからもどうぞよろしくお願いいたします。」
「こちらこそ、ありがとうございます。」
さて、これは嬉しい誤算だ。とはいってもこの世界でお金を使うことなんてあんまりない。俺の普段の食費や家賃も給料から差し引かれてるし、新しく買うものも特にない。だからもらった給料は全部手つかずの状態で保管してる。
「そういえばカオル様は、あまりお金を使っていないようですが……何か買いたいものでもあるのですかな?」
「あ、別にそういうわけじゃなくて……。ただ、使い道がないだけです。」
そう訂正すると、彼は目を丸くした。
「使い道がない……ですか。では今までのお給料は全部貯金を?」
「はい。」
「ふむ……。」
興味深そうに彼は頷く。
「カオル様は欲がありませんな。」
すると、彼はにこりと笑いながらそういったのだ。
「ははは、よく言われます。」
実際あっちの世界にいたときも、欲がないと何度も言われたことがある。
「何か趣味でも見つけてみては?」
「趣味……ですか。」
確かにこれといって趣味というものは持ち合わせていなかった。俺にとって料理というのは趣味ではなく仕事だからな。
「カオル様は賭博には興味はないのですかな?」
「あんまりないですけど、それよりこの世界にも賭博とかってあるんですか?」
「ホッホッホ♪ここをどこだと思っておいでですかな?魔王様が築き上げた欲の全てが詰まっている場所です、賭博ももちろんございますよ。とは言っても、ほとんどの店は紹介制ですが……。」
すると、ジャックは胸ポケットから名刺を一枚取り出した。
「こちらを見せればどの店でも入れますよ。」
流石は魔王の執事という称号を持っているだけある。名刺を見せるだけでパスがもらえるというのか。
「ものは試しという言葉がありますので、良ければ少し遊んでみては?」
「う~ん、わかり……ました。」
ギャンブルはあまり気乗りはしないが、彼の気遣いを無駄にするわけにもいかない。試しに行ってみようか。まだ、アルマ様の昼食まで時間はあるし……な。
たっぷり給料も出たことだし、人生初のギャンブルと洒落こもう。
ジャックから教えて貰った城下町のとある店で、彼の名刺を見せると地下にある巨大な賭博場へと案内された。
「お客様は当施設のご利用は初めてですか?」
「はい。」
「では一つ一つご案内いたしますね。」
そして丁寧に一つ一つの遊戯の遊び方を教えてもらうと、店員は「それではお楽しみくださいませ。」と告げて行ってしまった。
「ふむ、ひとえにギャンブルって言っても色々あるものなんだな。」
ブラックジャックにポーカー、パチンコやスロットのようなもの。挙げ句の果てにはチンチロまであった。
ルールの複雑なのは今日は遠慮しておこう。
そう思って俺は店員が初心者におすすめと言っていた、反射神経スロットなるものの台に座った。
これは至極単純な仕掛けで、演出や確率変動等が存在しない代わりに、己の反射神経で同じ柄を押し当てないといけないというものらしい。
「まぁ、おすすめって言ってたし……少しやってみよう。」
硬貨を入れる場所に金貨を一枚入れると、台の真ん中の絵柄の書かれたローラーがすごい勢いで回転し始めた。
「なるほどな。後はボタンを押して当てるだけか。」
至極単純だが……こうも回転が速くてはなかなか難しそうだ。
(まぁ最初は当てずっぽうでやるか。)
そして俺がボタンに手を伸ばしたその時だった。
「ん?」
突然世界が一気にスローモーションになったのだ。これは紛れもなく危険予知が発動している。
しかし、辺りを見渡しても危険なものは存在していないように見える。
少しの間考えていると、ある可能性に辿り着く。
「……まさか破産の危険も予知してるのか?」
いつも命に危険が迫ると、ほぼ時が止まったようになるのに、今はスローモーションなのも直接的な命の危険がないからではないだろうか?
そう説明すると全て納得がいく。
「なら、これは……こうか?」
ゆっくりになった世界で、俺はでかでかと7と書かれた絵柄が真ん中に来たところで三回ボタンを押した。
すると、世界の時間がもとに戻り、台の排出口から大量のコインが出てきた。
「………………。」
やってしまった感が否めない。完全にズルだろこれ。こんなことをしてたらこのお店の人が商売にならない。
これでやめようと思って立ち上がろうとすると、今度は完全に世界が止まった。
「あ?また?」
しかし、今度は今までと違って俺自身の体も動かなくなっている。まるでこの台から離れるなと縛られているかのようだ。
「……まだやれってのか。」
まさか自分のスキルに縛られるとは……。このスキルもなかなかやってくれるな。
お店の人には申し訳ないが、こうなったらスキルが満足するまでやってやる。
そう決めると、世界が再び動き出した。そして台にはダブルアップチャンスと表示されている。
「ダブルアップ?」
どうやら連続で当たりを当てると、出てくるコインが倍になるシステムらしい。
俺から見ればまるで死人に鞭を打つようなシステムだな。これを設計した人は、まさか二連続は無いだろうと思って設計したのだろうが……。
俺にはこの危険予知のスキルがある。
そして再びボタンに手を伸ばすと、またしても時間が急速に遅くなる。後は絵柄のところでボタンを押すだけだ。
なんの難しさもなく、俺は再び7を3つ揃えてしまった。
すると、さっきの倍の量のコインが排出される。
そして画面にはまたしてもダブルアップの文字が表示されるのだった。
0
お気に入りに追加
90
あなたにおすすめの小説

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。

転生した体のスペックがチート
モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。
目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい
このサイトでは10話まで投稿しています。
続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
やっと買ったマイホームの半分だけ異世界に転移してしまった
ぽてゆき
ファンタジー
涼坂直樹は可愛い妻と2人の子供のため、頑張って働いた結果ついにマイホームを手に入れた。
しかし、まさかその半分が異世界に転移してしまうとは……。
リビングの窓を開けて外に飛び出せば、そこはもう魔法やダンジョンが存在するファンタジーな異世界。
現代のごくありふれた4人(+猫1匹)家族と、異世界の住人との交流を描いたハートフルアドベンチャー物語!
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる