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第1章 黄金林檎
第011話 給料日
しおりを挟むアルマ様がついに俺の目の前で料理を食べてくれた今日は、それだけでも特別な日だが……実は俺にとってさらに大事な日でもある。
アルマ様の朝食を作り終えた俺はジャックに呼び出された。
「カオル様、今月もお疲れ様でございました。こちらが今月分のお給料になります。」
「ありがとうございます。」
今月の給料と言って彼はこちらにチャリチャリと音がする革袋を手渡してきた。
「そしてこちらが明細書になります。」
革袋に続いて彼はこの革袋の中身の詳細が書かれた明細書をテーブルの上に置いた。
そうお分かりの通り、今日は月に一度の給料日なのだ。しかし、今日の給料日はいつもとは少し違っていた。というのも明らかに普段よりも革袋がパンパンに膨らんでいるのだ。
それを不思議に思った俺が明細書に目を通すと、いつもの倍以上の給料がこの袋の中に入っているようで……。明細書の項目には新たに「レッドキャップ討伐報酬」と「力の果実提供の報酬」の項目が加えられていて、その二つが給料が増えている大きな要因のようだ。
「このレッドキャップ討伐報酬ってのと力の果実提供の報酬っていったい?」
「ホッホッホ、つい昨日大量のレッドキャップと力の果実を持って帰って来たではないですか。それの報酬でございますよ。」
「それにしても多くないですか?」
「昨日もお話しした通り、力の果実はとても貴重なものです。それゆえにとても高価でもあります。そしてレッドキャップはハンターたちが多額の懸賞金をかけておりました。」
なるほど、納得だ。
ちなみに俺の普段の手取りの給料は金貨24枚。24枚と聞くと少ないように感じるかもしれないが、この世界では、金貨という硬貨は日本での一万円相当の価値があるのだ。つまり普段は毎月24万円相当の給料をもらっている。
そして今日は、それの倍以上の金貨50枚が革袋の中に入っているようだ。の本円に換算して約50万円……少し早いボーナスをもらったようなものだ。
「アルマ様も毎日カオル様の作る料理を楽しみにしておりますので。これからもどうぞよろしくお願いいたします。」
「こちらこそ、ありがとうございます。」
さて、これは嬉しい誤算だ。とはいってもこの世界でお金を使うことなんてあんまりない。俺の普段の食費や家賃も給料から差し引かれてるし、新しく買うものも特にない。だからもらった給料は全部手つかずの状態で保管してる。
「そういえばカオル様は、あまりお金を使っていないようですが……何か買いたいものでもあるのですかな?」
「あ、別にそういうわけじゃなくて……。ただ、使い道がないだけです。」
そう訂正すると、彼は目を丸くした。
「使い道がない……ですか。では今までのお給料は全部貯金を?」
「はい。」
「ふむ……。」
興味深そうに彼は頷く。
「カオル様は欲がありませんな。」
すると、彼はにこりと笑いながらそういったのだ。
「ははは、よく言われます。」
実際あっちの世界にいたときも、欲がないと何度も言われたことがある。
「何か趣味でも見つけてみては?」
「趣味……ですか。」
確かにこれといって趣味というものは持ち合わせていなかった。俺にとって料理というのは趣味ではなく仕事だからな。
「カオル様は賭博には興味はないのですかな?」
「あんまりないですけど、それよりこの世界にも賭博とかってあるんですか?」
「ホッホッホ♪ここをどこだと思っておいでですかな?魔王様が築き上げた欲の全てが詰まっている場所です、賭博ももちろんございますよ。とは言っても、ほとんどの店は紹介制ですが……。」
すると、ジャックは胸ポケットから名刺を一枚取り出した。
「こちらを見せればどの店でも入れますよ。」
流石は魔王の執事という称号を持っているだけある。名刺を見せるだけでパスがもらえるというのか。
「ものは試しという言葉がありますので、良ければ少し遊んでみては?」
「う~ん、わかり……ました。」
ギャンブルはあまり気乗りはしないが、彼の気遣いを無駄にするわけにもいかない。試しに行ってみようか。まだ、アルマ様の昼食まで時間はあるし……な。
たっぷり給料も出たことだし、人生初のギャンブルと洒落こもう。
ジャックから教えて貰った城下町のとある店で、彼の名刺を見せると地下にある巨大な賭博場へと案内された。
「お客様は当施設のご利用は初めてですか?」
「はい。」
「では一つ一つご案内いたしますね。」
そして丁寧に一つ一つの遊戯の遊び方を教えてもらうと、店員は「それではお楽しみくださいませ。」と告げて行ってしまった。
「ふむ、ひとえにギャンブルって言っても色々あるものなんだな。」
ブラックジャックにポーカー、パチンコやスロットのようなもの。挙げ句の果てにはチンチロまであった。
ルールの複雑なのは今日は遠慮しておこう。
そう思って俺は店員が初心者におすすめと言っていた、反射神経スロットなるものの台に座った。
これは至極単純な仕掛けで、演出や確率変動等が存在しない代わりに、己の反射神経で同じ柄を押し当てないといけないというものらしい。
「まぁ、おすすめって言ってたし……少しやってみよう。」
硬貨を入れる場所に金貨を一枚入れると、台の真ん中の絵柄の書かれたローラーがすごい勢いで回転し始めた。
「なるほどな。後はボタンを押して当てるだけか。」
至極単純だが……こうも回転が速くてはなかなか難しそうだ。
(まぁ最初は当てずっぽうでやるか。)
そして俺がボタンに手を伸ばしたその時だった。
「ん?」
突然世界が一気にスローモーションになったのだ。これは紛れもなく危険予知が発動している。
しかし、辺りを見渡しても危険なものは存在していないように見える。
少しの間考えていると、ある可能性に辿り着く。
「……まさか破産の危険も予知してるのか?」
いつも命に危険が迫ると、ほぼ時が止まったようになるのに、今はスローモーションなのも直接的な命の危険がないからではないだろうか?
そう説明すると全て納得がいく。
「なら、これは……こうか?」
ゆっくりになった世界で、俺はでかでかと7と書かれた絵柄が真ん中に来たところで三回ボタンを押した。
すると、世界の時間がもとに戻り、台の排出口から大量のコインが出てきた。
「………………。」
やってしまった感が否めない。完全にズルだろこれ。こんなことをしてたらこのお店の人が商売にならない。
これでやめようと思って立ち上がろうとすると、今度は完全に世界が止まった。
「あ?また?」
しかし、今度は今までと違って俺自身の体も動かなくなっている。まるでこの台から離れるなと縛られているかのようだ。
「……まだやれってのか。」
まさか自分のスキルに縛られるとは……。このスキルもなかなかやってくれるな。
お店の人には申し訳ないが、こうなったらスキルが満足するまでやってやる。
そう決めると、世界が再び動き出した。そして台にはダブルアップチャンスと表示されている。
「ダブルアップ?」
どうやら連続で当たりを当てると、出てくるコインが倍になるシステムらしい。
俺から見ればまるで死人に鞭を打つようなシステムだな。これを設計した人は、まさか二連続は無いだろうと思って設計したのだろうが……。
俺にはこの危険予知のスキルがある。
そして再びボタンに手を伸ばすと、またしても時間が急速に遅くなる。後は絵柄のところでボタンを押すだけだ。
なんの難しさもなく、俺は再び7を3つ揃えてしまった。
すると、さっきの倍の量のコインが排出される。
そして画面にはまたしてもダブルアップの文字が表示されるのだった。
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