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二節 開花
4-2-10
しおりを挟むカラスの夜闇に紛れながらの襲撃と、エリーによる攻撃によりロシアンマフィアの一団はあっという間に殲滅され、彼らのボスの男だけが唯一五体満足で取り残されていた。
「さてと、残るはテメェだけだぜ。」
「こ、この俺を殺しても……本国の部下たちが必ず復讐を……。」
「あ?勘違いすんなよ。」
グイッとエリーは男の首を鷲掴みにして持ち上げると、少し力を込めながら言った。
「テメェには吐いてもらわなきゃいけねぇ事が山程あんだよ。全部洗いざらい吐くまで死ねると思うなよ。」
「グッ……。」
そしてパッと手を離したエリーは男に背を向けると、カラスに向かって言う。
「尋問と拷問は専売特許なんだろ?任せるぜ。」
「あぁ、任せてもらおう。」
そう告げると、エリーはカラスに背を向けてどこかへと歩き出した。
「どこへ行く?」
「煙草吸ってくるだけだ。」
カラスにそう言い残し、エリーは暗がりへと消えていく。
そしてすっかり人の気配すらもしなくなったところで、エリーは自分の手の甲に向かって声を掛ける。
「いいぜ。」
そう声をかけられると、エリーの手の甲にあった眼が地面へと移動し、そこから眼の吸血鬼が姿を現した。
「いやはや、おみそれしましたよぉ~。すっかりもう吸血鬼の力を使いこなしてるじゃあないですか。能力の発現方法を見た限り……かなり稀有な操作系。素晴らしいですよぉ?」
「ケッ、褒められたって嬉しかねぇよ。で、そっちに送った野郎はどうなんだ?」
「彼は今解析に回していますがぁ~……私の見立てでは、我々の細胞を無理矢理移植された人間。といったところでしょうか。」
「無理矢理移植ってよ、吸血鬼の血ってやつは合う合わねぇがあんだろ?」
「おや、よくご存知で。いま仰った通りでぇ……選ばれた人間でなければ、まず我々の細胞というのは適合しません。ですがぁ、彼は選ばれた人間ではないのですよねぇ。まぁ、それはあなたも同じなのですが。」
「……どういうこった?アタシは事実吸血鬼になってんじゃねぇか。」
「えぇ、どうやらあの薬は……本当に適合しないはずの人間でさえも吸血鬼にしてしまったようです。」
「他人事みてぇに言ってるがよ、そもそもアレはテメェらが開発したモンだろ?」
そのエリーの言葉に眼の吸血鬼はふるふると首を横に振った。
「違いますよぉ~。あなたの手に渡ったもの……アレは私達に命令を下している存在に預かり、あなたに渡すように命令されたのですよぉ。」
そう言って、眼の吸血鬼はチラリとエリーの方を向く。
「もしかすると、上の存在にあなたは気に入られているのかも……しれませんねぇ。」
「そういうのはこっちから願い下げだぜ。」
一つ大きなため息を吐きながら、エリーは煙草を吹かすのだった。
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