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二節 開花
4-2-1
しおりを挟む短期間の療養を終えたエリーは、リースのラボに急遽用意された彼女専用の実験室へと赴いていた。
エリーが部屋の中央に立つと、殺風景な部屋に設置されたスピーカーからリースが指示を出す。
『さて、それじゃあエリー。準備はいいかな?』
「あぁ、問題ねぇ。」
『説明したとおりだけど、今回の実験はエリー自身の吸血鬼の力を確かめる実験だよ。兎に角無理は禁物、異常があったらすぐ言うようにね?』
「あいよ。」
『じゃあまずは、さっき渡した血液パックを使って試しに何かやってみて?』
リースの指示に従い、エリーは血液パックを取り出し栓を開けた。
そして意識を強く向けると、血液が動いてエリーの両腕に纏わりついていく。最終的には見覚えのある凶悪な形の爪のような形へと変貌を遂げた。
「……こうじゃねぇ。」
ポツリとエリーはそう口にすると、再び強く意識を向けた。すると、血液は球体となってエリーの手のひらへと集まった。
その球体になった血液へと向かってエリーは、命令を飛ばした。
「撃て。」
そう命令すると、エリーの手にあった血液の球体が一瞬揺れ動く。その次の瞬間、彼女の目線の先にあった壁を何かが深く貫いた。
「なるほどな。」
力の性質を今の流れである程度理解したエリーは、別室にいるリースに向かって声をかけた。
「お袋、試しにアタシに向かって銃撃ってみてくれ。」
『それ大丈夫?』
「大丈夫だ。最悪当たったって死にやしねぇよ。」
『ん~、わかった。』
少しの間をおいて、天井が開く。すると、そこから機銃がゆっくりと降りてきた。
『それじゃあ、3つ数えたら撃つから。』
「ん。」
『3…2………1……ファイア。』
その合図と同時にエリーはまた命令を飛ばす。
「護れ!!」
直後、エリーの前に血液の壁が現れる。放たれた銃弾は、その血液の壁を通り越す頃にはすっかり威力が失われ、エリーの眼の前にコロコロと転がった。
『おぉ~、凄いね。』
「戻れ。」
そう命令を出すと、エリーの前に現れた血液の壁は、再び彼女の手のひらへと集まった。
『その力は本能的にわかるものなのかい?結構使いこなしてるように見えるけど。』
「言っただろ、こんな完全じゃねぇ吸血鬼には何回かなってるってよ。」
『でもその時間ってほんの数分でしょ?その経験だけでそこまで扱えるようになるものかな~。』
「ま、そこはアタシの才能ってやつだろ。」
『才能ねぇ~、まぁそういうことにしておこうか。』
スピーカーの向こうで大きなため息を吐くリース。
『で、力を使った感じはどう?』
「何も特に感じることはねぇな。」
『ん~、オッケ!ひとまず今日のところは終わりでいいよ。』
「あいよ、ちなみにこの血は飲んでもいいのか?」
『良いよ~。』
エリーは球体となっていた血液を口の中へと放り込み、飲み込んだ。すると、やはり体の奥底から漲るように力が湧いてくる。
「そういやぁ……アイツ、こんなこともやってたな。」
おもむろにエリーは、ピッ……と人差し指を立てて、目の前に一本線を描いた。
直後、部屋の壁が横一文字に切り裂かれた。
「そういうことな。よ~くわかったぜ。」
自分の心臓を見下ろして、そうポツリと言ったエリーは実験室を後にするのだった。
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