腐りかけの果実

しゃむしぇる

文字の大きさ
上 下
79 / 88
二節 開花

4-2-1

しおりを挟む

 短期間の療養を終えたエリーは、リースのラボに急遽用意された彼女専用の実験室へと赴いていた。

 エリーが部屋の中央に立つと、殺風景な部屋に設置されたスピーカーからリースが指示を出す。

『さて、それじゃあエリー。準備はいいかな?』

「あぁ、問題ねぇ。」

『説明したとおりだけど、今回の実験はエリー自身の吸血鬼の力を確かめる実験だよ。兎に角無理は禁物、異常があったらすぐ言うようにね?』

「あいよ。」

『じゃあまずは、さっき渡した血液パックを使って試しに何かやってみて?』

 リースの指示に従い、エリーは血液パックを取り出し栓を開けた。
 そして意識を強く向けると、血液が動いてエリーの両腕に纏わりついていく。最終的には見覚えのある凶悪な形の爪のような形へと変貌を遂げた。

「……こうじゃねぇ。」

 ポツリとエリーはそう口にすると、再び強く意識を向けた。すると、血液は球体となってエリーの手のひらへと集まった。

 その球体になった血液へと向かってエリーは、命令を飛ばした。

。」

 そう命令すると、エリーの手にあった血液の球体が一瞬揺れ動く。その次の瞬間、彼女の目線の先にあった壁を何かが深く貫いた。

「なるほどな。」

 力の性質を今の流れである程度理解したエリーは、別室にいるリースに向かって声をかけた。

「お袋、試しにアタシに向かって銃撃ってみてくれ。」

『それ大丈夫?』

「大丈夫だ。最悪当たったって死にやしねぇよ。」

『ん~、わかった。』

 少しの間をおいて、天井が開く。すると、そこから機銃がゆっくりと降りてきた。

『それじゃあ、3つ数えたら撃つから。』

「ん。」

『3…2………1……ファイア。』

 その合図と同時にエリーはまた命令を飛ばす。

!!」

 直後、エリーの前に血液の壁が現れる。放たれた銃弾は、その血液の壁を通り越す頃にはすっかり威力が失われ、エリーの眼の前にコロコロと転がった。

『おぉ~、凄いね。』

。」

 そう命令を出すと、エリーの前に現れた血液の壁は、再び彼女の手のひらへと集まった。

『その力は本能的にわかるものなのかい?結構使いこなしてるように見えるけど。』

「言っただろ、こんな完全じゃねぇ吸血鬼には何回かなってるってよ。」

『でもその時間ってほんの数分でしょ?その経験だけでそこまで扱えるようになるものかな~。』

「ま、そこはアタシの才能ってやつだろ。」

『才能ねぇ~、まぁそういうことにしておこうか。』

 スピーカーの向こうで大きなため息を吐くリース。

『で、力を使った感じはどう?』

「何も特に感じることはねぇな。」

『ん~、オッケ!ひとまず今日のところは終わりでいいよ。』

「あいよ、ちなみにこの血は飲んでもいいのか?」

『良いよ~。』

 エリーは球体となっていた血液を口の中へと放り込み、飲み込んだ。すると、やはり体の奥底から漲るように力が湧いてくる。

「そういやぁ……アイツ、こんなこともやってたな。」

 おもむろにエリーは、ピッ……と人差し指を立てて、目の前に一本線を描いた。
 直後、部屋の壁が横一文字に切り裂かれた。

「そういうことな。よ~くわかったぜ。」

 自分の心臓を見下ろして、そうポツリと言ったエリーは実験室を後にするのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ヴァンパイアキス

志築いろは
恋愛
ヴァンパイアおよびグール退治を専門とする団体『クルースニク』。出自ゆえに誰よりもヴァンパイアを憎むエルザは、ある夜、任務先で立ち入り禁止区域を徘徊していた怪しい男に遭遇する。エルザは聴取のために彼を支部まで連れ帰るものの、男の突拍子もない言動に振り回されるばかり。 そんなある日、事件は起こる。不審な気配をたどって地下へ降りれば、仲間の一人が全身の血を吸われて死んでいた。地下にいるのは例の男ただひとり。男の正体はヴァンパイアだったのだ。だが気づいたときにはすでに遅く、エルザ一人ではヴァンパイア相手に手も足も出ない。 死を覚悟したのもつかの間、エルザが目覚めるとそこは、なぜか男の屋敷のベッドの上だった。 その日を境に、エルザと屋敷の住人たちとの奇妙な共同生活が始まる。 ヴァンパイア×恋愛ファンタジー。 この作品は、カクヨム様、エブリスタ様にも掲載しています。

囚われの姫〜異世界でヴァンパイアたちに溺愛されて〜

月嶋ゆのん
恋愛
志木 茉莉愛(しき まりあ)は図書館で司書として働いている二十七歳。 ある日の帰り道、見慣れない建物を見かけた茉莉愛は導かれるように店内へ。 そこは雑貨屋のようで、様々な雑貨が所狭しと並んでいる中、見つけた小さいオルゴールが気になり、音色を聞こうとゼンマイを回し音を鳴らすと、突然強い揺れが起き、驚いた茉莉愛は手にしていたオルゴールを落としてしまう。 すると、辺り一面白い光に包まれ、眩しさで目を瞑った茉莉愛はそのまま意識を失った。 茉莉愛が目覚めると森の中で、酷く困惑する。 そこへ現れたのは三人の青年だった。 行くあてのない茉莉愛は彼らに促されるまま森を抜け彼らの住む屋敷へやって来て詳しい話を聞くと、ここは自分が住んでいた世界とは別世界だという事を知る事になる。 そして、暫く屋敷で世話になる事になった茉莉愛だが、そこでさらなる事実を知る事になる。 ――助けてくれた青年たちは皆、人間ではなくヴァンパイアだったのだ。

札束艦隊

蒼 飛雲
歴史・時代
 生まれついての勝負師。  あるいは、根っからのギャンブラー。  札田場敏太(さつたば・びんた)はそんな自身の本能に引きずられるようにして魑魅魍魎が跋扈する、世界のマーケットにその身を投じる。  時は流れ、世界はその混沌の度を増していく。  そのような中、敏太は将来の日米関係に危惧を抱くようになる。  亡国を回避すべく、彼は金の力で帝国海軍の強化に乗り出す。  戦艦の高速化、ついでに出来の悪い四姉妹は四一センチ砲搭載戦艦に改装。  マル三計画で「翔鶴」型空母三番艦それに四番艦の追加建造。  マル四計画では戦時急造型空母を三隻新造。  高オクタン価ガソリン製造プラントもまるごと買い取り。  科学技術の低さもそれに工業力の貧弱さも、金さえあればどうにか出来る!

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

旧陸軍の天才?に転生したので大東亜戦争に勝ちます

竹本田重朗
ファンタジー
転生石原閣下による大東亜戦争必勝論 東亜連邦を志した同志達よ、ごきげんようである。どうやら、私は旧陸軍の石原莞爾に転生してしまったらしい。これは神の思し召しなのかもしれない。どうであれ、現代日本のような没落を回避するために粉骨砕身で働こうじゃないか。東亜の同志と手を取り合って真なる独立を掴み取るまで… ※超注意書き※ 1.政治的な主張をする目的は一切ありません 2.そのため政治的な要素は「濁す」又は「省略」することがあります 3.あくまでもフィクションのファンタジーの非現実です 4.そこら中に無茶苦茶が含まれています 5.現実的に存在する如何なる国家や地域、団体、人物と関係ありません 6.カクヨムとマルチ投稿 以上をご理解の上でお読みください

勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる! ×ランクだと思ってたギフトは、オレだけ使える無敵の能力でした

赤白玉ゆずる
ファンタジー
【コミックス第1巻発売です!】 早ければ、電子書籍版は2/18から販売開始、紙書籍は2/19に店頭に並ぶことと思います。 皆様どうぞよろしくお願いいたします。 【10/23コミカライズ開始!】 『勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる!』のコミカライズが連載開始されました! 颯希先生が描いてくださるリュークやアニスたちが本当に素敵なので、是非ご覧になってくださいませ。 【第2巻が発売されました!】 今回も改稿や修正を頑張りましたので、皆様どうぞよろしくお願いいたします。 イラストは蓮禾先生が担当してくださいました。サクヤとポンタ超可愛いですよ。ゾンダールもシブカッコイイです! 素晴らしいイラストの数々が載っておりますので、是非見ていただけたら嬉しいです。 【ストーリー紹介】 幼い頃、孤児院から引き取られた主人公リュークは、養父となった侯爵から酷い扱いを受けていた。 そんなある日、リュークは『スマホ』という史上初の『Xランク』スキルを授かる。 養父は『Xランク』をただの『バツランク』だと馬鹿にし、リュークをきつくぶん殴ったうえ、親子の縁を切って家から追い出す。 だが本当は『Extraランク』という意味で、超絶ぶっちぎりの能力を持っていた。 『スマホ』の能力――それは鑑定、検索、マップ機能、動物の言葉が翻訳ができるほか、他人やモンスターの持つスキル・魔法などをコピーして取得が可能なうえ、写真に撮ったものを現物として出せたり、合成することで強力な魔導装備すら製作できる最凶のものだった。 貴族家から放り出されたリュークは、朱鷺色の髪をした天才美少女剣士アニスと出会う。 『剣姫』の二つ名を持つアニスは雲の上の存在だったが、『スマホ』の力でリュークは成り上がり、徐々にその関係は接近していく。 『スマホ』はリュークの成長とともにさらに進化し、最弱の男はいつしか世界最強の存在へ……。 どん底だった主人公が一発逆転する物語です。 ※別小説『ぶっ壊れ錬金術師(チート・アルケミスト)はいつか本気を出してみたい 魔導と科学を極めたら異世界最強になったので、自由気ままに生きていきます』も書いてますので、そちらもどうぞよろしくお願いいたします。

だってお義姉様が

砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。 ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると…… 他サイトでも掲載中。

とある元令嬢の選択

こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。

処理中です...