腐りかけの果実

しゃむしぇる

文字の大きさ
上 下
76 / 88
第四章 一節 人と吸血鬼と

4-1-8

しおりを挟む

「はぁ……はぁ……これで最後だッ!!」

 最後の一人の被験者へエリーはブレードを突き刺した。そして息を切らしながらメイに声を掛ける。

「メイ、タイムリミットは……後何分だ?」

「後一時間ジャストね。」

「こっから脱出してギリか。走んぞ!!」

 そして三人は走って脱出を始めた。メイの端末に登録した車のGPSを目指して樹海の中をひた走る。

「ホントにこっちで合ってんだな!?」

「えぇ!!このまま真っ直ぐよ!!」

 時間も忘れて走り続けると、やっと検問所が見えてきた。

「はぁ、はぁっ……やっと着きやがったぜ。バリー、運転頼んだ。」

「あいよ!!」

 車に乗り込み、バリーがエンジンをかけた。その瞬間……エリーの背筋に悪寒が走る。

「っ!!伏せろバリー!!」

 エリーがバリーの頭を鷲掴みにして無理矢理頭を下げさせると、その次の刹那防弾仕様のフロントガラスを何かが突き破り、運転席に突き刺さる。

「な、なんだァ!?」

「一筋縄じゃ逃がしてくれねぇってか。」

 エリーの眼前には、検問所のライトに照らされた一人の男が立っていた。

「よぉ、久しぶりだな。。」

「経験の勘は信じるものだな。本部強襲に合わせてお前達も動いていたか。」

 黒井とエリーが顔を合わせると、先程車を貫いた触手がズルズルと黒井の体へと戻っていく。

「テメェ、その触手みてぇなやつは……一ノ瀬と同じやつか?」

「一ノ瀬くんに会ったのか?」

「あぁ、随分可哀想な姿に変わっちまってやがったぜ。」

「そうか、たがまぁ彼女の犠牲があって俺にはこの力が宿った。大きな力には犠牲がつきものとはよく言うだろう……彼女もこの力の犠牲になったのだ。」

「ハッ、くだらねぇ……。テメェらはホントにくだらねぇよ。」

 エリーは右手に再びパイルバンカーを装着する。

「何が犠牲だ馬鹿野郎。テメェらのやってることは単なる人殺しと変わらねぇよ。」

「それをお前が言うのか?傭兵エリー。」

「まとめてんじゃねぇぜ。テメェらほどアタシは腐ってねぇ!!」

 その言葉と同時にエリーは腰からハンドガンを引き抜くと、黒井へと向かって速射する。弾丸は正確無比に黒井の眼球へと目掛けて飛んでいくが、目前で黒井から生えた触手に叩き落されてしまう。

「流石の腕前だな。」

 ポツリとそう呟く黒井の懐には既に銃を捨て、銀色のブレードを握っているエリーがいた。

「褒められても嬉しかねぇよ!!」

 そしてエリーは、心臓目掛けてブレードを突き立てようとする。しかし、すぐに触手がその行く手を阻んだ。

「読めているぞ。」

「あぁ、そうかよ。」

 エリーはブレードが触手に突き刺さる寸前で体を極端に屈ませる。その体勢から黒井の両足の腱を切り裂いた。

「なっ!?」

 ガクリと崩れる黒井の心臓にエリーはパイルバンカーを密着させる。

「読めたのはテメェが死ぬ未来か?」

 冷徹にエリーは黒井を見下しながらパイルバンカーのトリガーを引いた。すると、銀の杭が黒井の心臓を穿った。

「ガハァッ!!」

 それとほぼ同時、大量に吐血する黒井。絶命する一撃を受けたはずの彼だが、杭に貫かれたままギロリと背後にいるエリーへと鋭い眼光を向ける。

「残念だったな、俺の弱点は…………あ?」

 そして体から触手を伸ばしエリーを貫こうとした黒井だったが、突如として視界が下へと落ちていく。

「弱点がどうしたって?」

 エリーのその言葉を聞きながら、黒井の視界は地面まで落ちる。そこでやっと、黒井は自分の首と胴体が寸断されていたことに気が付いた。

「ばか…な。」

「確か政府は吸血鬼のを決定したって一ノ瀬が言ってたよなぁ?」

 そう言ってエリーは、銀のブレードの剣先を黒井へと向ける。

「待…て!!」

「ならテメェはここでしとかねぇとなぁ!!」

 そしてエリーは黒井の頭部を真っ二つに切り裂いた。

 ブレードに付着した血液を振り払うと、エリーは口に煙草を咥え、車の陰に身を隠していた二人の元へ歩み寄る。

「エンジンはイカれてねぇだろ?さっさと帰ろうぜ。」

「お、おう!!」

 エリー達が車に乗り込み、走り出すと同時に背後で大きな爆発が起こった。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

軍艦少女は死に至る夢を見る~戦時下の大日本帝国から始まる艦船擬人化物語~

takahiro
キャラ文芸
 『船魄』(せんぱく)とは、軍艦を自らの意のままに操る少女達である。船魄によって操られる艦艇、艦載機の能力は人間のそれを圧倒し、彼女達の前に人間は殲滅されるだけの存在なのだ。1944年10月に覚醒した最初の船魄、翔鶴型空母二番艦『瑞鶴』は、日本本土進攻を企てるアメリカ海軍と激闘を繰り広げ、ついに勝利を掴んだ。  しかし戦後、瑞鶴は帝国海軍を脱走し行方をくらませた。1955年、アメリカのキューバ侵攻に端を発する日米の軍事衝突の最中、瑞鶴は再び姿を現わし、帝国海軍と交戦状態に入った。瑞鶴の目的はともかくとして、船魄達を解放する戦いが始まったのである。瑞鶴が解放した重巡『妙高』『高雄』、いつの間にかいる空母『グラーフ・ツェッペリン』は『月虹』を名乗って、国家に属さない軍事力として活動を始める。だが、瑞鶴は大義やら何やらには興味がないので、利用できるものは何でも利用する。カリブ海の覇権を狙う日本・ドイツ・ソ連・アメリカの間をのらりくらりと行き交いながら、月虹は生存の道を探っていく。  登場する艦艇はなんと58隻!(2024/12/30時点)(人間のキャラは他に多数)(まだまだ増える)。人類に反旗を翻した軍艦達による、異色の艦船擬人化物語が、ここに始まる。  ――――――――――  ●本作のメインテーマは、あくまで(途中まで)史実の地球を舞台とし、そこに船魄(せんぱく)という異物を投入したらどうなるのか、です。いわゆる艦船擬人化ものですが、特に軍艦や歴史の知識がなくとも楽しめるようにしてあります。もちろん知識があった方が楽しめることは違いないですが。  ●なお軍人がたくさん出て来ますが、船魄同士の関係に踏み込むことはありません。つまり船魄達の人間関係としては百合しかありませんので、ご安心もしくはご承知おきを。かなりGLなので、もちろんがっつり性描写はないですが、苦手な方はダメかもしれません。  ●全ての船魄に挿絵ありですが、AI加筆なので雰囲気程度にお楽しみください。  ●少女たちの愛憎と謀略が絡まり合う、新感覚、リアル志向の艦船擬人化小説を是非お楽しみください。またお気に入りや感想などよろしくお願いします。  毎日一話投稿します。

悠久の機甲歩兵

竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。 ※現在毎日更新中

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

実はスライムって最強なんだよ?初期ステータスが低すぎてレベルアップが出来ないだけ…

小桃
ファンタジー
 商業高校へ通う女子高校生一条 遥は通学時に仔犬が車に轢かれそうになった所を助けようとして車に轢かれ死亡する。この行動に獣の神は心を打たれ、彼女を転生させようとする。遥は獣の神より転生を打診され5つの希望を叶えると言われたので、希望を伝える。 1.最強になれる種族 2.無限収納 3.変幻自在 4.並列思考 5.スキルコピー  5つの希望を叶えられ遥は新たな世界へ転生する、その姿はスライムだった…最強になる種族で転生したはずなのにスライムに…遥はスライムとしてどう生きていくのか?スライムに転生した少女の物語が始まるのであった。

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

処理中です...