腐りかけの果実

しゃむしぇる

文字の大きさ
上 下
68 / 88
二節 対吸血鬼専門部隊

3ー2-12

しおりを挟む

 ビル全体を揺るがすような轟音とともに、銀の杭が坂本の心臓を穿った。
 しかし、エリーはすぐにパイルバンカーを引き抜くと、今度は坂本の額に標準を合わせた。

「あばよ。」

 そして今一度轟音が響くと、坂本の頭が弾け飛んだ。

 ビリビリと反動で痺れる腕をダランと垂らすエリーに、ヴラドが拍手を送る。

「素晴らしい、我輩との戦闘で得た知識をよく活かしている。抜かりのない攻撃だった。」

「へ~へ~、そりゃどうも。」

 スタスタとエリーはヴラドに歩み寄ると、未だ反動の残る腕でパイルバンカーを持ち上げ、ヴラドの心臓へと向けた。

「いつかはテメェにもぶっ込んでやるよ。」

「クク、それは楽しみだ。だが、少なくとも……今がその時ではなさそうだな。」

 ヴラドがそう言うと同時に、エリーのパイルバンカーの銀の杭がポロリと抜け落ちた。

「げっ……。」

「改良をした結果、2発が今のところの限界か。まぁあれだけの威力を人間が携帯できる武器で発揮できるのであれば、破格の性能だ。」

 クツクツとヴラドは笑うと、坂本の死体を持ち上げた。

「さて、コイツは我輩がもらっていこう。」

「そんな死体何に使うんだよ。」

「決まっている、研究だ。」

「ハッ、研究ねぇ……それ、やってること政府の奴らと変わんねぇぜ?」

「そんなことは百も承知。だが、必要なことだ。」

「…………勝手にしろよ。」

 そして二人が廃ビルから出ると、そこには対吸血鬼専門部隊と思わしき一団が二人を待ち構えていた。

「はぁ~、随分な歓迎だぜ。もうこっちはクタクタだってのによ。」

「クク、歓迎ならば受けるまでのこと。」

 担いでいた坂本の死体を地面に下ろすと、ヴラドは坂本の血を使って槍を作り出した。

「こういうのはよ、ありがた迷惑ってもんだぜ。」

 エリーは壊れたパイルバンカーの入ったアタッシュケースを地面に置くと、腰からハンドガンを二丁抜いた。

「さっきみてぇな気配はねぇ。コイツらは全員人間だろ?」

「恐らくはな。」

「ほんじゃパッパと片付けちまうか。」

 そして戦いの火蓋が切り落とされる寸前……目前の一団の足元に巨大な眼が現れた。

「ん、あれは……。」

「どうやら我々にも援軍のようだ。」

 その足元の眼が一つ瞬きをすると同時、一団はまるで風船のように膨らみ、体の内側から破裂してしまった。

「グロすぎだろ。」

「クク、待ったか?」

 ヴラドがそうポツリとこぼすと、血溜まりの中から眼の吸血鬼がゆっくりと姿を現した。

「待ちましたよぉ、ヴラド公~。まぁ、目標が達成できたのならいいんですがぁ~。」

 パチャパチャと血溜まりを歩いてくる眼の吸血鬼は、エリーの姿を捉えると、薄ら笑みを浮かべた。

「おやおやぁ~。本当に縁がありますねぇ~。まさか本当に今一度お会いできるとはぁ~。」

「こっちは会いたくなかったっての。」

「まぁ~そう言わず。ヴラド公とも仲良くやられているようじゃないですかぁ~?」

「武器があったら今すぐにでも殺してやるっつうの。」

「クク、吠えろ吠えろ。」

 エリーの強がりをヴラドは嘲笑う。そんなやり取りを眺めていた眼の吸血鬼は一つため息を吐くと、口を開く。

「さぁヴラド公~帰りますよぉ~。やることはまだまだ山積みなんですからぁ~。」

「うむ。」

 眼の吸血鬼はヴラドと自分の足元に眼を出現させると、ゆっくりと体を沈ませていく。

「傭兵エリー、またどこかで会おう。」

「二度とゴメンだぜ。」

 そうヴラドに辛口で言い放つと、二人はエリーの前から消えた。

「……アタシも帰るか。」

 メイに無線で帰ることを告げ、エリーはラボへと引き返すのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

ヴァンパイアキス

志築いろは
恋愛
ヴァンパイアおよびグール退治を専門とする団体『クルースニク』。出自ゆえに誰よりもヴァンパイアを憎むエルザは、ある夜、任務先で立ち入り禁止区域を徘徊していた怪しい男に遭遇する。エルザは聴取のために彼を支部まで連れ帰るものの、男の突拍子もない言動に振り回されるばかり。 そんなある日、事件は起こる。不審な気配をたどって地下へ降りれば、仲間の一人が全身の血を吸われて死んでいた。地下にいるのは例の男ただひとり。男の正体はヴァンパイアだったのだ。だが気づいたときにはすでに遅く、エルザ一人ではヴァンパイア相手に手も足も出ない。 死を覚悟したのもつかの間、エルザが目覚めるとそこは、なぜか男の屋敷のベッドの上だった。 その日を境に、エルザと屋敷の住人たちとの奇妙な共同生活が始まる。 ヴァンパイア×恋愛ファンタジー。 この作品は、カクヨム様、エブリスタ様にも掲載しています。

囚われの姫〜異世界でヴァンパイアたちに溺愛されて〜

月嶋ゆのん
恋愛
志木 茉莉愛(しき まりあ)は図書館で司書として働いている二十七歳。 ある日の帰り道、見慣れない建物を見かけた茉莉愛は導かれるように店内へ。 そこは雑貨屋のようで、様々な雑貨が所狭しと並んでいる中、見つけた小さいオルゴールが気になり、音色を聞こうとゼンマイを回し音を鳴らすと、突然強い揺れが起き、驚いた茉莉愛は手にしていたオルゴールを落としてしまう。 すると、辺り一面白い光に包まれ、眩しさで目を瞑った茉莉愛はそのまま意識を失った。 茉莉愛が目覚めると森の中で、酷く困惑する。 そこへ現れたのは三人の青年だった。 行くあてのない茉莉愛は彼らに促されるまま森を抜け彼らの住む屋敷へやって来て詳しい話を聞くと、ここは自分が住んでいた世界とは別世界だという事を知る事になる。 そして、暫く屋敷で世話になる事になった茉莉愛だが、そこでさらなる事実を知る事になる。 ――助けてくれた青年たちは皆、人間ではなくヴァンパイアだったのだ。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

札束艦隊

蒼 飛雲
歴史・時代
 生まれついての勝負師。  あるいは、根っからのギャンブラー。  札田場敏太(さつたば・びんた)はそんな自身の本能に引きずられるようにして魑魅魍魎が跋扈する、世界のマーケットにその身を投じる。  時は流れ、世界はその混沌の度を増していく。  そのような中、敏太は将来の日米関係に危惧を抱くようになる。  亡国を回避すべく、彼は金の力で帝国海軍の強化に乗り出す。  戦艦の高速化、ついでに出来の悪い四姉妹は四一センチ砲搭載戦艦に改装。  マル三計画で「翔鶴」型空母三番艦それに四番艦の追加建造。  マル四計画では戦時急造型空母を三隻新造。  高オクタン価ガソリン製造プラントもまるごと買い取り。  科学技術の低さもそれに工業力の貧弱さも、金さえあればどうにか出来る!

旧陸軍の天才?に転生したので大東亜戦争に勝ちます

竹本田重朗
ファンタジー
転生石原閣下による大東亜戦争必勝論 東亜連邦を志した同志達よ、ごきげんようである。どうやら、私は旧陸軍の石原莞爾に転生してしまったらしい。これは神の思し召しなのかもしれない。どうであれ、現代日本のような没落を回避するために粉骨砕身で働こうじゃないか。東亜の同志と手を取り合って真なる独立を掴み取るまで… ※超注意書き※ 1.政治的な主張をする目的は一切ありません 2.そのため政治的な要素は「濁す」又は「省略」することがあります 3.あくまでもフィクションのファンタジーの非現実です 4.そこら中に無茶苦茶が含まれています 5.現実的に存在する如何なる国家や地域、団体、人物と関係ありません 6.カクヨムとマルチ投稿 以上をご理解の上でお読みください

処理中です...