腐りかけの果実

しゃむしぇる

文字の大きさ
上 下
65 / 88
二節 対吸血鬼専門部隊

3ー2-9

しおりを挟む

 一ノ瀬からの着信にメイは警戒しながら出た。

「もしもし?」

『お久しぶりですメイさん。』

「今日は依頼?」

『はい、実はこちらで吸血鬼が複数潜むアジトの場所を発見しました。2か所あるのですが、片方はこちらの部隊で制圧しますので、エリーさんにはもう片方を制圧していただきたいのです。』

「ふぅん?そっちの部隊だけじゃ片付かないの?吸血鬼実験で生み出したもいるんでしょ?」

 メイのその鋭い問いかけに、少しの間端末の先の一ノ瀬が言葉に詰まる。

『その情報をどこで?』

「別に?風のうわさで流れてきただけだけど?」

『そんな風のうわさで流れるほど、最高機密のセキュリティーは甘くありません。……まぁ、それについてはいいでしょう。深く言及するつもりもありませんから。』

 なにやら一ノ瀬は以前と比べると少し高圧的だ。そんな態度のまま、一ノ瀬はメイへと向かって問いかける。

『それで、受けていただけますか?』

「……。」

 メイは一瞬エリーへと視線を向けた。するとエリーは一つ頷く。それが了承の合図であることをわかったメイは、一ノ瀬へと答えを告げる。

「わかった。その依頼、受けるわ。」

『そう言ってくださると信じていました。それでは座標を送ります。至急向かってください。』

 それだけ言うと、一ノ瀬との通信が切れてしまう。

「だってさ、エリー?」

「依頼ならしゃあねぇさ、ナビ頼む。」

 準備を整えながら、エリーはメイに言った。すると、メイの端末に1件のメールが入る。

「メール?座標のメールかしら。」

 メイが確認するとそのメールの送り主は一ノ瀬で、今回向かう場所の座標と、末尾に一言あることが書いてあった。

『今回の依頼完了で、お二人への依頼は満了といたします。』

「エリー、今回の依頼で最後だってさ~。」

「はっ、たった2回出ただけで終わりか。ま、関係ねぇか金さえもらえりゃあそれでいい。ほんじゃ最後の仕事に行ってくるわ。」

 パイルバンカーの入ったアタッシュケースを携え、耳に無線をはめたエリーはラボを出た。そしてメイのナビゲートに従って、吸血鬼のアジトがあるという廃ビルの目の前へとやってきた。

『エリー、その廃ビルが吸血鬼たちのアジトらしいわ。潜入には気をつけて。何がいるか情報がないから。』

「わかってる。」

 エリーは無線を切ると、廃ビルの中へと一歩足を踏み入れた……その次の瞬間、エリーの背筋にゾクゾクと悪寒が走る。
 それと同時に彼女の肩にポン……と背後から何者かが手を置いた。

「こんなところで出会うとは偶然か?」

「テメェはっ……ヴラドッ!!」

 エリーの背後に現れたのはヴラドだった。彼はエリーのことを見下ろしながら、赤い瞳をキラリと光らせる。

「何の用だよ、それともここにいる吸血鬼どもってぇのはテメェのことか?」

「吸血鬼……?クク、なるほどそちらはそういう風に聞いてきたというわけか。」

 くつくつとヴラドは笑う。

「どういうこったよ。」

「それは中に踏み入ればわかること。せっかくだ、今宵は手を組んでやろう傭兵エリー。なぁに遠慮はするな。行くぞ。」

「お、おい!!テメェ引っ張るんじゃねぇっての!!」

 高らかに笑うヴラドに引きずられエリーはずるずると廃ビルの中へと連れ込まれるのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ヴァンパイアキス

志築いろは
恋愛
ヴァンパイアおよびグール退治を専門とする団体『クルースニク』。出自ゆえに誰よりもヴァンパイアを憎むエルザは、ある夜、任務先で立ち入り禁止区域を徘徊していた怪しい男に遭遇する。エルザは聴取のために彼を支部まで連れ帰るものの、男の突拍子もない言動に振り回されるばかり。 そんなある日、事件は起こる。不審な気配をたどって地下へ降りれば、仲間の一人が全身の血を吸われて死んでいた。地下にいるのは例の男ただひとり。男の正体はヴァンパイアだったのだ。だが気づいたときにはすでに遅く、エルザ一人ではヴァンパイア相手に手も足も出ない。 死を覚悟したのもつかの間、エルザが目覚めるとそこは、なぜか男の屋敷のベッドの上だった。 その日を境に、エルザと屋敷の住人たちとの奇妙な共同生活が始まる。 ヴァンパイア×恋愛ファンタジー。 この作品は、カクヨム様、エブリスタ様にも掲載しています。

囚われの姫〜異世界でヴァンパイアたちに溺愛されて〜

月嶋ゆのん
恋愛
志木 茉莉愛(しき まりあ)は図書館で司書として働いている二十七歳。 ある日の帰り道、見慣れない建物を見かけた茉莉愛は導かれるように店内へ。 そこは雑貨屋のようで、様々な雑貨が所狭しと並んでいる中、見つけた小さいオルゴールが気になり、音色を聞こうとゼンマイを回し音を鳴らすと、突然強い揺れが起き、驚いた茉莉愛は手にしていたオルゴールを落としてしまう。 すると、辺り一面白い光に包まれ、眩しさで目を瞑った茉莉愛はそのまま意識を失った。 茉莉愛が目覚めると森の中で、酷く困惑する。 そこへ現れたのは三人の青年だった。 行くあてのない茉莉愛は彼らに促されるまま森を抜け彼らの住む屋敷へやって来て詳しい話を聞くと、ここは自分が住んでいた世界とは別世界だという事を知る事になる。 そして、暫く屋敷で世話になる事になった茉莉愛だが、そこでさらなる事実を知る事になる。 ――助けてくれた青年たちは皆、人間ではなくヴァンパイアだったのだ。

札束艦隊

蒼 飛雲
歴史・時代
 生まれついての勝負師。  あるいは、根っからのギャンブラー。  札田場敏太(さつたば・びんた)はそんな自身の本能に引きずられるようにして魑魅魍魎が跋扈する、世界のマーケットにその身を投じる。  時は流れ、世界はその混沌の度を増していく。  そのような中、敏太は将来の日米関係に危惧を抱くようになる。  亡国を回避すべく、彼は金の力で帝国海軍の強化に乗り出す。  戦艦の高速化、ついでに出来の悪い四姉妹は四一センチ砲搭載戦艦に改装。  マル三計画で「翔鶴」型空母三番艦それに四番艦の追加建造。  マル四計画では戦時急造型空母を三隻新造。  高オクタン価ガソリン製造プラントもまるごと買い取り。  科学技術の低さもそれに工業力の貧弱さも、金さえあればどうにか出来る!

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

だってお義姉様が

砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。 ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると…… 他サイトでも掲載中。

旧陸軍の天才?に転生したので大東亜戦争に勝ちます

竹本田重朗
ファンタジー
転生石原閣下による大東亜戦争必勝論 東亜連邦を志した同志達よ、ごきげんようである。どうやら、私は旧陸軍の石原莞爾に転生してしまったらしい。これは神の思し召しなのかもしれない。どうであれ、現代日本のような没落を回避するために粉骨砕身で働こうじゃないか。東亜の同志と手を取り合って真なる独立を掴み取るまで… ※超注意書き※ 1.政治的な主張をする目的は一切ありません 2.そのため政治的な要素は「濁す」又は「省略」することがあります 3.あくまでもフィクションのファンタジーの非現実です 4.そこら中に無茶苦茶が含まれています 5.現実的に存在する如何なる国家や地域、団体、人物と関係ありません 6.カクヨムとマルチ投稿 以上をご理解の上でお読みください

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

蒼海の碧血録

三笠 陣
歴史・時代
 一九四二年六月、ミッドウェー海戦において日本海軍は赤城、加賀、蒼龍を失うという大敗を喫した。  そして、その二ヶ月後の八月、アメリカ軍海兵隊が南太平洋ガダルカナル島へと上陸し、日米の新たな死闘の幕が切って落とされた。  熾烈なるガダルカナル攻防戦に、ついに日本海軍はある決断を下す。  戦艦大和。  日本海軍最強の戦艦が今、ガダルカナルへと向けて出撃する。  だが、対するアメリカ海軍もまたガダルカナルの日本軍飛行場を破壊すべく、最新鋭戦艦を出撃させていた。  ここに、ついに日米最強戦艦同士による砲撃戦の火蓋が切られることとなる。 (本作は「小説家になろう」様にて連載中の「蒼海決戦」シリーズを加筆修正したものです。予め、ご承知おき下さい。) ※表紙画像は、筆者が呉市海事歴史科学館(大和ミュージアム)にて撮影したものです。

処理中です...