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二節 対吸血鬼専門部隊
3ー2-7
しおりを挟むエリーがラボに戻ると、何やら深刻そうな面持ちでメイがパソコンとにらめっこをしていた。そんな彼女の肩にポンとエリーは手を置いて話しかける。
「おいおい、なんて顔してんだよメイ。」
「ふぇ?あ、あぁ……エリー、帰ったのね。」
「なんだよ随分元気がねぇじゃねぇか?」
「そりゃそうよ、リースさんの最新鋭の機器を使っても私には政府の最高機密のセキュリティーを突破できなかったんだから。」
そう言ってメイはがっくりと肩を落とす。
そういう関係の話はさっぱり分からないエリーだが、一先ずメイのプライドが傷ついていることは察しがついている。
「まぁまぁ、それだけまだ技術を磨けるってことじゃねぇか。落ち着きてぇならタバコ吸うか?」
そう言ってエリーは、この後メイが何と口にするか内心わかっていながらも、笑顔で煙草を一本差し出した。
すると彼女の予想通り、メイは差し出された煙草を手で遮りながら言った。
「わかってるでしょ~、私はタバコ吸わないのよ。」
「アタシのそばにいたら副流煙でタバコ吸ってるも同然だぜ?」
「それはそうかもしれないけど、それとこれとはやっぱり違うのよ!!」
「へいへい、悪かったって。」
さっぱり悪びれる様子もなくエリーはメイの隣に座ると、何やら手に持っていたビニール袋に手を突っ込み、子供向けにかなり甘く作られたミルクチョコを一粒取り出した。
そしてそれを溜息をついているメイの口へ強引に押し込んだ。
「ふむぐっ!?」
「好きだろ?甘いチョコ。ホントはリンが食うかと思って買ったんだが、ちょい多めに買ってきて正解だったな。」
けらけらと笑うエリーをじっとりとした視線でにらみながらも、メイは口の中で溶けていく甘いチョコを味わっていた。
すっかり口の中のチョコが溶けてなくなると、メイはエリーにスッとマグカップを差し出した。
「コーヒー。」
「アタシはお前の家政婦かっての。」
「励ますつもりなら最後までやりなさいよ。」
「へ~いへい。わかりましたよお嬢サマ。」
エリーはメイのマグカップを受け取ると、備え付けてあるコーヒーメーカーの前に立ちスイッチを入れた。するとアツアツのコーヒーがこぽこぽと注がれていく。
「ほいよ。」
コーヒーの入ったマグカップをエリーはメイへと差し出す。
「ありがと。」
注がれたばかりで、まだ湯気の立っているコーヒーをメイはためらいなく口に含んだ。
「あっっつ……。」
「そりゃあそうだろ、今淹れたばっかなんだから。」
そんなエリーのツッコミを受けながらも、メイはお構いなしにコーヒーを飲み始めると、先ほどまですっかり止まっていた彼女の手が再びパソコンのキーボードをタイピングし始めた。
彼女の瞳はまっすぐに画面へと向いている。
その様子を見てエリーはふと笑う。
(ゾーン入ったな。後は邪魔しねぇようにしとこ。)
このやり取りは二人が長い付き合いだからこそできるものだろう。
再びスイッチの入ったメイの横からスッとエリーは音もなく立ち去ると、買ってきたお菓子などをリンに渡しに行くのだった。
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