腐りかけの果実

しゃむしぇる

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第三章 一節 切り開かれた未来

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「ん……。ん?」

 疲れて仮眠していたエリーがふと目を覚ますと、彼女のベッドにリンが潜り込んできていた。彼女はリンのことを起こさないようにゆっくりと起き上がると、胸ポケットに手を突っ込んで煙草の箱を取り出した。

「んぁ、そういやヴラドと戦う前に吸い切っちまったんだったなぁ。」

 空の箱をぐしゃりと握りつぶすとエリーはそれをゴミ箱に放り投げる。

「ちょいとコンビニ行ってくっか。」

 そして部屋を後にしようとしたエリーだが、おもむろに振り返ると安らかに眠っているリンの寝顔を眺めた。

「ん、適当な菓子でも買ってきてやるか。」

 エリーが部屋の外に出ると、そこでメイとばったり出くわした。

「あ、エリー。」

「おぅ。」

「リンちゃん探してるんだけど、知らない?」

「リンならアタシのベッドで寝てるぜ?」

「え、嘘。」

「ほれ、見えるだろ?」

 エリーは部屋のドアを開けて、奥にあるベッドで眠るリンの姿をメイに見せた。

「ホントだ。ずいぶんエリーに懐いちゃってるのねぇ。」

「なんでかはわかんねぇけどな。」

「まぁ迷子になってないようだからよかったわ。それで、エリーはどこか行くつもりだった?」

「あぁ、煙草切れちまったからな。買ってくるわ。リンの面倒は任せたぜ。」

「それは任せてほしいけど、エリーも外出には気を付けてね?」

「わかってる。ほんじゃ行ってくるわ。」

 リンのことをメイに託してエリーはバイクで近所のコンビニへと向かう。そこで煙草とお菓子をいくつか買ってコンビニを出ると、あることを思い出す。

「……一番最初に殺されたのはこのタイミングだったな。」

 彼女が初めて殺されたのは、この後。ローブの吸血鬼と鉢合い、最終的にはヴラドに殺された。今回は既にローブの吸血鬼は死んでいるし、ヴラドも撃退している。故に彼女を脅かすような出来事は何も起きなかった。

「まったく生きてるって素晴らしいぜ。」

 今自分が生きていることを噛みしめるようにエリーは煙草に火をつけた。

「この先何が待ってるんだろうな。未来の予測ができてりゃ苦労はしねぇんだが。」

 一つ大きく煙草の煙を吐き出して、エリーは煙草の火を消した。

「ま、なるようになるか。今考えたってわかるもんじゃねぇ。」

 そしてエリーはバイクにまたがると、リースのラボへと引き返すのだった。彼女が帰ってくると、メイとリンの二人が彼女のことを待っていた。

「え、エリーお姉ちゃんお帰りなさい。」

「お帰りエリー。何も問題なかった?」

「ん、なにもねぇよ。ほれリンこれやるよ。」

 エリーはリンにお菓子の入ったビニール袋を手渡した。中には定番のポテトチップスやチョコや飴など様々入っている。
 お菓子の袋を受け取ると、リンは目を輝かせた。

「も、もらっていいの?」

「あぁ、好きなの食えよ。」

「良かったわねリンちゃん。」

「うん、あ、ありがとうエリーお姉ちゃん!!」

 まっすぐで純粋な瞳でエリーを見つめるリンに、思わず視線を向けられたエリーはまぶしさを感じてしまう。

「あらあらエリーったら照れてるの~?」

「そんなんじゃねぇよ。ただリンが純粋すぎて眩しくなっただけだ。」

「子供の特権よね。大人になればなるほど汚れていっちゃうんだから。」

「間違いねぇな。」

 くつくつと二人は笑いあう。

「アタシは少しお袋と話すことがあるからよ、ちょっと行ってくるぜ。」

「オッケー、リンちゃん向こうで一緒にお菓子食べましょ?」

「う、うん。エリーお姉ちゃんまたね?」

「あぁ。」

 二人と別れたエリーはリースの研究室へと向かう。コンコンとドアをノックすると、ドアが開きひょっこりとリースが顔を出した。

「あら、エリーどうかした?」

「ちょっと今後のことで話がある。」

「ん~オッケー。まぁまぁ中に入りなよ座って話そう。」

 研究室の中に入り向かい合うように座ると、エリーが話を切り出した。

「お袋、これから先どうするべきだと思う?」

「これから先って言うと、エリーがまだ見たことがない未来の話だよね?」

「あぁ。」

「ん~、あいにく私には未来を予知する力なんてないから何とも言えないけど。エリーは今の今まで何度もヴラドに殺されたけど、その運命を変えるために頑張ったじゃない?これからも同じようにやればいいと思うけどねぇ。」

「でもそれってよ、アタシがまだ復活できる前提の話だよな?」

「うん、まぁね。」

「だが、仮に死に戻れたとしてもまたヴラドと殺りあうのは御免だな。」

「そうだね、だから一先ず今まで通り必死に生きてみるしかないと思うな。」

「そうだな……それしかねぇよな。」

 一先ず運命に身を任せることしかできない現状に、エリーはやるせないように一つ溜息を吐くのだった。
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