48 / 88
第三章 一節 切り開かれた未来
3-1-2
しおりを挟む「ん……。ん?」
疲れて仮眠していたエリーがふと目を覚ますと、彼女のベッドにリンが潜り込んできていた。彼女はリンのことを起こさないようにゆっくりと起き上がると、胸ポケットに手を突っ込んで煙草の箱を取り出した。
「んぁ、そういやヴラドと戦う前に吸い切っちまったんだったなぁ。」
空の箱をぐしゃりと握りつぶすとエリーはそれをゴミ箱に放り投げる。
「ちょいとコンビニ行ってくっか。」
そして部屋を後にしようとしたエリーだが、おもむろに振り返ると安らかに眠っているリンの寝顔を眺めた。
「ん、適当な菓子でも買ってきてやるか。」
エリーが部屋の外に出ると、そこでメイとばったり出くわした。
「あ、エリー。」
「おぅ。」
「リンちゃん探してるんだけど、知らない?」
「リンならアタシのベッドで寝てるぜ?」
「え、嘘。」
「ほれ、見えるだろ?」
エリーは部屋のドアを開けて、奥にあるベッドで眠るリンの姿をメイに見せた。
「ホントだ。ずいぶんエリーに懐いちゃってるのねぇ。」
「なんでかはわかんねぇけどな。」
「まぁ迷子になってないようだからよかったわ。それで、エリーはどこか行くつもりだった?」
「あぁ、煙草切れちまったからな。買ってくるわ。リンの面倒は任せたぜ。」
「それは任せてほしいけど、エリーも外出には気を付けてね?」
「わかってる。ほんじゃ行ってくるわ。」
リンのことをメイに託してエリーはバイクで近所のコンビニへと向かう。そこで煙草とお菓子をいくつか買ってコンビニを出ると、あることを思い出す。
「……一番最初に殺されたのはこのタイミングだったな。」
彼女が初めて殺されたのは、この後。ローブの吸血鬼と鉢合い、最終的にはヴラドに殺された。今回は既にローブの吸血鬼は死んでいるし、ヴラドも撃退している。故に彼女を脅かすような出来事は何も起きなかった。
「まったく生きてるって素晴らしいぜ。」
今自分が生きていることを噛みしめるようにエリーは煙草に火をつけた。
「この先何が待ってるんだろうな。未来の予測ができてりゃ苦労はしねぇんだが。」
一つ大きく煙草の煙を吐き出して、エリーは煙草の火を消した。
「ま、なるようになるか。今考えたってわかるもんじゃねぇ。」
そしてエリーはバイクにまたがると、リースのラボへと引き返すのだった。彼女が帰ってくると、メイとリンの二人が彼女のことを待っていた。
「え、エリーお姉ちゃんお帰りなさい。」
「お帰りエリー。何も問題なかった?」
「ん、なにもねぇよ。ほれリンこれやるよ。」
エリーはリンにお菓子の入ったビニール袋を手渡した。中には定番のポテトチップスやチョコや飴など様々入っている。
お菓子の袋を受け取ると、リンは目を輝かせた。
「も、もらっていいの?」
「あぁ、好きなの食えよ。」
「良かったわねリンちゃん。」
「うん、あ、ありがとうエリーお姉ちゃん!!」
まっすぐで純粋な瞳でエリーを見つめるリンに、思わず視線を向けられたエリーはまぶしさを感じてしまう。
「あらあらエリーったら照れてるの~?」
「そんなんじゃねぇよ。ただリンが純粋すぎて眩しくなっただけだ。」
「子供の特権よね。大人になればなるほど汚れていっちゃうんだから。」
「間違いねぇな。」
くつくつと二人は笑いあう。
「アタシは少しお袋と話すことがあるからよ、ちょっと行ってくるぜ。」
「オッケー、リンちゃん向こうで一緒にお菓子食べましょ?」
「う、うん。エリーお姉ちゃんまたね?」
「あぁ。」
二人と別れたエリーはリースの研究室へと向かう。コンコンとドアをノックすると、ドアが開きひょっこりとリースが顔を出した。
「あら、エリーどうかした?」
「ちょっと今後のことで話がある。」
「ん~オッケー。まぁまぁ中に入りなよ座って話そう。」
研究室の中に入り向かい合うように座ると、エリーが話を切り出した。
「お袋、これから先どうするべきだと思う?」
「これから先って言うと、エリーがまだ見たことがない未来の話だよね?」
「あぁ。」
「ん~、あいにく私には未来を予知する力なんてないから何とも言えないけど。エリーは今の今まで何度もヴラドに殺されたけど、その運命を変えるために頑張ったじゃない?これからも同じようにやればいいと思うけどねぇ。」
「でもそれってよ、アタシがまだ復活できる前提の話だよな?」
「うん、まぁね。」
「だが、仮に死に戻れたとしてもまたヴラドと殺りあうのは御免だな。」
「そうだね、だから一先ず今まで通り必死に生きてみるしかないと思うな。」
「そうだな……それしかねぇよな。」
一先ず運命に身を任せることしかできない現状に、エリーはやるせないように一つ溜息を吐くのだった。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
軍艦少女は死に至る夢を見る~戦時下の大日本帝国から始まる艦船擬人化物語~
takahiro
キャラ文芸
『船魄』(せんぱく)とは、軍艦を自らの意のままに操る少女達である。船魄によって操られる艦艇、艦載機の能力は人間のそれを圧倒し、彼女達の前に人間は殲滅されるだけの存在なのだ。1944年10月に覚醒した最初の船魄、翔鶴型空母二番艦『瑞鶴』は、日本本土進攻を企てるアメリカ海軍と激闘を繰り広げ、ついに勝利を掴んだ。
しかし戦後、瑞鶴は帝国海軍を脱走し行方をくらませた。1955年、アメリカのキューバ侵攻に端を発する日米の軍事衝突の最中、瑞鶴は再び姿を現わし、帝国海軍と交戦状態に入った。瑞鶴の目的はともかくとして、船魄達を解放する戦いが始まったのである。瑞鶴が解放した重巡『妙高』『高雄』、いつの間にかいる空母『グラーフ・ツェッペリン』は『月虹』を名乗って、国家に属さない軍事力として活動を始める。だが、瑞鶴は大義やら何やらには興味がないので、利用できるものは何でも利用する。カリブ海の覇権を狙う日本・ドイツ・ソ連・アメリカの間をのらりくらりと行き交いながら、月虹は生存の道を探っていく。
登場する艦艇はなんと58隻!(2024/12/30時点)(人間のキャラは他に多数)(まだまだ増える)。人類に反旗を翻した軍艦達による、異色の艦船擬人化物語が、ここに始まる。
――――――――――
●本作のメインテーマは、あくまで(途中まで)史実の地球を舞台とし、そこに船魄(せんぱく)という異物を投入したらどうなるのか、です。いわゆる艦船擬人化ものですが、特に軍艦や歴史の知識がなくとも楽しめるようにしてあります。もちろん知識があった方が楽しめることは違いないですが。
●なお軍人がたくさん出て来ますが、船魄同士の関係に踏み込むことはありません。つまり船魄達の人間関係としては百合しかありませんので、ご安心もしくはご承知おきを。かなりGLなので、もちろんがっつり性描写はないですが、苦手な方はダメかもしれません。
●全ての船魄に挿絵ありですが、AI加筆なので雰囲気程度にお楽しみください。
●少女たちの愛憎と謀略が絡まり合う、新感覚、リアル志向の艦船擬人化小説を是非お楽しみください。またお気に入りや感想などよろしくお願いします。
毎日一話投稿します。
悠久の機甲歩兵
竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。
※現在毎日更新中
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
実はスライムって最強なんだよ?初期ステータスが低すぎてレベルアップが出来ないだけ…
小桃
ファンタジー
商業高校へ通う女子高校生一条 遥は通学時に仔犬が車に轢かれそうになった所を助けようとして車に轢かれ死亡する。この行動に獣の神は心を打たれ、彼女を転生させようとする。遥は獣の神より転生を打診され5つの希望を叶えると言われたので、希望を伝える。
1.最強になれる種族
2.無限収納
3.変幻自在
4.並列思考
5.スキルコピー
5つの希望を叶えられ遥は新たな世界へ転生する、その姿はスライムだった…最強になる種族で転生したはずなのにスライムに…遥はスライムとしてどう生きていくのか?スライムに転生した少女の物語が始まるのであった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる