腐りかけの果実

しゃむしぇる

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二節 死に戻りのリベンジ

2-2-14

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 吸血鬼の血を体内へと摂取することによって、彼らの力を扱えることを証明し、エリーの気分が高揚していたのも束の間、彼女の体にさらなる異変が起こる。

「ゴホッ……。」

 こみ上げてきた喉の異変に思わずエリーが咳き込むと、口を押さえていた彼女の手にはベットリと血がついていた。

「エリー!?」

「し、心配いらねぇ……多分大丈夫だ。」

 そうリースに言った彼女だが、目や鼻からも血を流し始めていた。

「クソ、止まらねぇ。」

 大量に血を流し、ふらつくエリーは床に膝をつく。もう視界もボンヤリと霞がかってきていた。

(やべぇ……この方法はやっぱダメか。)

 そしてエリーは完全に意識を失うと、自らの血液によって作られた血溜まりに伏してしまうのだった。



 次にエリーが目を覚ますと、彼女がいたのはリースのラボではなく死に戻りの始まりの地点である密林の中。自分のいる場所を確認したエリーは大きくため息を吐いた。

「はぁぁぁ……結局また死んだのか。やっぱ、あの方法はダメだな。」

 そう言いながらエリーは立ち上がると、補給部隊が来る前に密林からの脱出を始めた。

「ヴラドの野郎に吸血鬼の力で対抗する手段はナシだとして、残されてるのはパイルバンカーでアイツの弱点を撃ち抜く方法だけ……か。」
 
 エリーに残されているヴラドの対抗手段は、自分の技量に左右されるパイルバンカーによる弱点部位の破壊のみ。

「楽な方法ってのはねぇもんだなァ。」

 困ったようにポツリとそう呟くエリー。

 彼女は今度こそ自らの生を勝ち取るため、再び日本へと向かう。





 エリーが日本に着いてからしばらくして、彼女はリースの開発したパイルバンカーを腕に装着して、ラボにあるシューティングレンジに立っていた。

 彼女の目の前にはランダムに動く人型の的。大きさはかなり大型に作られており、ヴラドの身長とほぼ変わりない。
 その的に記された弱点部位目掛けてエリーはパイルバンカーを叩き込む。

「ぐっ……良し。」

 放ったパイルバンカーの杭は正確に弱点部位を捉え貫通している。

 反動でビリビリと痺れる腕を押さえながら、彼女はパイルバンカーの杭を的から引き抜く。

「アドレナリンがドバドバ出てる時じゃねぇとやっぱ痛ぇな。腕が雷で撃たれたみてぇに痺れてやがる。」

 手の感覚を確かめているエリーに、遠目で眺めていたリースが話しかけた。

「威力はどうかな?それぐらいでいい?」

「あぁ、このぐらいで充分だ。この人型の中にある装甲板もしっかり貫通してるしな。」

「ん、なら結構。使用感はどう?」

「若干重てぇから小回りは利かねぇが……これ以上の軽量化は無理なんだろ?」

「まぁ現実的ではないかな。本当に一発限りのモノにするのであれば可能だけど。」

 リースの発言にエリーは悩む。

(どちらにせよ一撃を外しちまったら後はねぇ。初撃に全てを懸けるなら……一撃限りにしてなるだけ腕に馴染むように軽量化したほうが良いよな。)

 そして決断したエリーはリースへとパイルバンカーのさらなる軽量化を頼むことにした。

「お袋、一発限りでも構わねぇ。軽量化してくれ。」

「ホントに良いの?」

「あぁ、どうせ一発スカしたら終わりだ。二発目に当たってくれるほどぬるい奴じゃねぇ。それに、一発限りのほうがよっぽど気合が入るってもんだ。」

「そこまで言うのなら、わかったよ。やってみよう。」

「あんがとな。」

 要望を聞いてくれるリースに一言お礼を言うと、エリーはパイルバンカーを手から外し、ケースへと納めそれをリースへと手渡した。

「ほんじゃ、頼むぜ。」

「まっかせなさ~い!キミ達が旅行に行ってる間に仕上げてみせるよ。」

 明日にはエリーはメイとともに温泉旅館へと行かねばならない。それを終えれば、次に待ち構えているのはヴラドとの決戦だ。

 その時に備え、エリーとリースの二人は急ピッチながらも、着実に……準備を進めていくのだった。
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