腐りかけの果実

しゃむしぇる

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二節 死に戻りのリベンジ

2-2-9

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 すっかり夜も更け、メイが眠ってしまった後もエリーは黙々と設計図とにらめっこをしていた。すっかり頭がパンクしかけている彼女は、設計図を一度畳むと煙草を持って部屋の外に出た。

 そして旅館の玄関のほうへと向かっている途中、ツバキと出くわした。

「エリー様、こんな夜更けにどちらへ?」

「ちょっと気分転換にタバコ吸いに行くだけだ。」

「ふふふ、お部屋で吸っていただいても構いませんのに。」

「夜は寒い風が入ってくるからな。さすがに気持ちよく寝てるメイの横で窓は開けらんねぇよ。」

「お優しいですね。それでは私もお供しましょうか。夜は獣が出るかもしれませんから……ね。」

 エリーはツバキに付き添われながら旅館を出ると、煙草を一本取り出した。

「良ければどうぞ。」

 エリーが煙草を取り出すのを見て、ツバキはライターに火をつけて彼女に差し出した。

「ん……。」

 ツバキの持つライターで煙草に火をつけると、エリーはそれを大きく吸った。

「ふぅ……。」

「何やらお悩みのご様子ですね。」

「んぁ、なんで分かった?」

「ふふふ、リース様と同じ顔を浮かべておりましたから。」

「まぁ腐っても親子だからなぁ。」

 ツバキの言葉にエリーは苦笑いする。

「にしてもお袋も悩みなんかあんだなぁ……悩みとは到底無縁だとばっかり思ってたが。」

「エリー様には明かさないかもしれませんが、ここに来るとずっと……何か考え込んでいるようなご様子なんですよ。」

「あの能天気なお袋がねぇ。いったいどんな悩み事なんだか。…………まさか身長が伸びねぇこと悩んでたりしてな。」

 くつくつとエリーは笑う。

 それからツバキと会話を嗜みながら一服を終えたエリーは再び部屋へと戻るべく踵を返す。

「ふぅ、やっぱ最近夜は冷えてきやがった。そろそろ戻るか。」

「温泉はいつでも入れるようにしておりますから、お冷えになったら遠慮なくお入りくださいね。」

「あぁ、そうさせてもらう。」

 そしてエリーが旅館の玄関口を通ろうとした時……ツバキの側に音もなく一人の人影が現れる。

「ツバキ様、火急のご報告が……。」

「あらあら、どうしましたか?」

 なにかの報告を受けるツバキ。その隣りにいる黒い忍者装束に身を包んだ女性にエリーは警戒心を強めた。

(何者なんだ……近くに気配もしなかった。それに音もなく急に現れやがった。兎に角、ただ者じゃねぇな。)

 すると、エリーが警戒していることを察してか、ツバキに報告を終えた忍者装束の女性が、彼女のほうを向いて自己紹介を始めた。

「お初目にかかる。私はツバキ様の護衛、名をという。敵意はない故、警戒は解いてもらって構わない。」

「…………。まさかこの歳になってガチの忍者を目の当たりにするとは思わなかったぜ。ツバキさん、アンタとんでもない護衛雇ってんだな。」

「ふふふ、雇っているわけではありません。この子の家系と、私の家系にはある繋がりがありまして……話すと長くなるのですが。」

「ん、別に深く詮索するつもりはねぇさ。ほんで、なんか火急の報告とか言ってなかったか?」

「えぇ、どうやらこの旅館に不法侵入を試みるお方が近付いてきているようで……。」

「ほぉ……ソイツは丁度いいぜ。冷えた体動かしたかったんだ、手伝わせてくれよ。」

「大変助かる申し出だが、手を煩わせる程ではない。お客人はゆるりと部屋で休んでおられよ。」

 と、エリーの申し出をキッパリと断るカラス。

「まぁまぁ、せっかくのお申し出ですからそんなに無下にしてはなりませんよ。」

「…………。」

 そうカラスを宥めたあと、ツバキはエリーの方に視線を向けるとにこやかに微笑みながら言った。

「エリー様、どうかお怪我だけはなさらぬよう……お約束頂けますか?」

「あぁ、任せろよ。」

「ふふふ、では参りましょう。」

 そして一度そこでカラスと別れ、エリーとツバキは山の麓へと降りていく。旅館へと続く山道へとたどり着くと、そこには1台の車が停まっていた。

 その中からスーツに身を包んだ集団が降りてくる。手には小型のマシンガンやハンドガン等などを携帯していた。

「おいおい、随分物騒じゃねぇの?ここ日本だぜ?」

「ターゲット確認。排除しろ。」

 その言葉と同時に一斉にエリー達へと銃口が向けられるが、夜の闇の中から彼らに向かって暗器が飛ぶ。

「ぐぁっ!!」

 彼らの手には深々とクナイが突き刺さっている。

 その怯んだ瞬間を見逃さず、エリーは一気に走り出すと、一人の首に手を回して、首の骨をへし折った。

「まず一人。……お?」

 エリーが一人片付けている間にも、バタバタと隣で命が消えていく。

「忍者は伊達じゃねぇな。」

 次々にサイレントキルを決めていくカラスに負けじと、エリーもスーツの集団を排除していくのだった。
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