腐りかけの果実

しゃむしぇる

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二節 死に戻りのリベンジ

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 ラボへと帰ったエリーはリースと話し合いを始めた。

「いやはや、兎にも角にもみんなが無事で何よりだったけど……エリーから聞いていたこととはずいぶん違う出来事が起きてしまったね。」

「あぁ。」

「本来なら、メイちゃんたちが無事に取引を終えて帰ってくるはずが……新手の吸血鬼に絡まれて、その上芦澤カナの身柄までもっていかれたと。」

「マジでどうなってやがる……なんでこんなに変わるんだ。違うのはあのローブの野郎が死んだってだけだろ。」

「う~ん、たぶんそれがかなり影響してるんじゃないかな?エリーが経験した物語のパターンでカギになっていたのが彼で、それを序盤で殺してしまったから、物語が進むべき方向から外れざるを得なかった。そう考えれば合点がいく。」

 紅茶をすすりながら、リースは淡々と分析する。その分析はエリーにはかなり的を射ているように聞こえている。

「で、今回遭遇した新手の吸血鬼に本当に見覚えはないのかい?」

「あぁ、見たことねぇ……。あんな狂った野郎は一回見たら忘れねぇはずだ。」

「ふむ、芦澤カナを連れ去ったという行動を見るに、例の吸血鬼化する薬を開発してる黒幕の手先の可能性が高いよね。」

「政府の飼い犬って可能性は?」

「どうだろう、可能性がないとは言いきれない。ただ……最初に前金を振り込んでおいて、確実に身柄を確保できる算段も整っているのに、わざわざそんなことをするかな?」

「……しねぇな。」

 そう判断するとエリーは煙草を咥えて火をつけた。

「ふぅ……で、これからどうするよ。アタシは正直これから先どうなるかわからねぇし、どう動くべきなのかもわからねぇ。」

「そうだねぇ、まずは一つ一つ物語を回収していこうか。もしエリーにまたがあるのなら、今回のことは新たなパターンとして対策できるようになるはずさ。」

ねぇ。……ってかお袋、それアタシ死ぬ前提で話してねぇか?」

 ふとエリーは自分が死ぬ前提でリースが話を進めていることに気が付いた。

「だって今作ってる武器で、本来エリーを殺すはずのヴラドを殺せるとは限らない。もし物語が最終的にヴラドに殺されるという結末にたどり着くのであれば、エリーの死はほぼ避けられないようなものなんだよね。」

「ふぅ……確かにな。」

「でしょ?でもただで死ぬんじゃ次に活かせない。だから今回のパターンはどのようにして起こるのか、そして最終的にはどこへとたどり着くのか……それをしっかりと確かめておく必要はあるよね?」

 まるでエリー自身よりも死に戻るという性質を理解しているかのようにリースは語る。

「まぁグダグダ長くしゃべったけど、今やれるのは次の私たちの行動で何が起こるのかをしっかりとエリーが記憶しておくってことさ。」

「ん、わかった。」

 リースの言葉に納得した様子のエリーは吸っている途中の煙草を灰皿で消すと立ち上がった。

「ちょっくらメイんとこ行ってくる。そろそろ政府のやつらと話はついてるだろうからな。」

「うん、私の方もなるべく急ぎで完成させるから。」

「頼んだぜ。」

 今後の目標を見据えたエリーは、リースと別れメイのもとへと向かう。

「おーい、メイ政府のやつらと話はついたかぁ?」

 通信室で端末を耳に当てている彼女にエリーは問いかける。すると、メイは真剣な表情を崩さずに首を横に振った。

「ぜんぜんだめ。困ったことに話をつけるどころか通信すら繋がらないのよ。」

「通信がつながらねぇ?……いったいどうなってやがる。」

 考え込む二人のもとに何やら焦った様子のバリーが駆け込んでくる。

「おい二人とも!!」

「あんだよバリー、こっちは今忙し……。」

「ニュースを見るんだ!!」

「ニュース?」

 彼に促されるがままメイが端末で現在流れているニュースを見ると……。

『つい先ほど政府高官が会議を行っていた建物が何者かによって爆破されました。消防隊が突入していますが、現在詳しい怪我人の情報は入っていません。現場からお伝えしております。』

「こ、これ……。」

 ニュースを見たメイはエリーのほうに顔を向ける。

「どういうことかわからねぇが、突然連絡がつかなくなったことと関係ねぇ話じゃあなさそうだな。……ん?」

 何かに気が付いたエリーはメイの持っている端末を眼前に引き寄せると、食い入るように画面に見入った。

「え、エリー?」

「間違いねぇ……アイツだ。」

 エリーが視線を送っていたのは画面に映る野次馬の中……。その中にさっき戦った吸血鬼の狂気的な目と全く同じ目をした男が紛れていたのだ。
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