腐りかけの果実

しゃむしぇる

文字の大きさ
上 下
35 / 88
二節 死に戻りのリベンジ

2-2-4

しおりを挟む
  エリーの知るシナリオ通りに過ごしていた彼女達だったが、一度変わってしまったシナリオをもとに戻すことはできず、それはすぐにイレギュラーな事態を引き起こした。

「エリー、異常事態だよ。」

「ん?お袋、どうした?」

 ソファーに深く腰掛け、煙草を吹かしていたエリーにリースがそう告げた。

「引き渡しに向かったバリーから緊急事態を知らせるサインが送られてきたんだ。確かエリーの話だと生け捕りの場合なら何も問題ないはず……だったよね?」

「あぁ、そのはずだ。」

 チラリとエリーが時計に目を向けると、現在の時刻はまだ芦澤カナの引き渡し時刻ではなかった。それにメイ達は先程出ていったばかり……。取引の場所にはまだたどり着いていないはず。

「まだその時間じゃねぇ、移動中に何かあったか。」

 エリーは耳掛け式の無線機のスイッチを入れると、メイに向かって語りかけ始めた。

「メイ、無事か?状況はどうなってる?」

『ザザ……ザ━━━━━。』

 無線の先から聴こえてくるのはノイズ音ばかり。

「チッ、なにか良くねぇ事が起こったらしいな。お袋、二人を確認できた最後の場所わかるか?」

「サインが送られてきたのはラボを出て少し走ったところだよ。ナビゲートするから向かえるかい?」

「ん。」

 エリーはすぐにハンドガンを撃てる状態にすると、バイクに跨ってバリーがサインを送ってきた地点へと急いだ。

 サインが送られてきた場所にたどり着くと、そこには二人の乗っていたはずの車が乗り捨てられている。

「この近くか。」

 エリーはバイクから降りると、ハンドルを引っ張ってブレードを引っこ抜くと周辺を調べ始めた。

「車は……ボンネットが何かで貫かれてるな。それ以外に特に損傷はねぇ。」

(運転席と助手席のほうに何の痕もねぇし、助手席のドアは開きっぱだ。襲われた後二人はなんとか脱出はできてるみてぇだ。ただ、芦澤カナの姿が見当たらねぇ。)

『エリー、何か見つけられたかい?』

「二人が乗ってた車がある。二人はなんとか脱出できてるみてぇだが……。」

『わかった。それじゃ引き続き周囲の捜索を…………。』

 と、リースがまだ話している最中だった。

 タタン……!!

「っ!!お袋銃声だ。」

 一言報告すると同時にエリーは銃声のする方向へと走り始める。

 そしてたどり着いた先は……。

「ここは…………。」

 銃声が聞こえた場所、それはエリーが初めてローブの吸血鬼と接敵し、ヴラドに殺されたあの廃工場の中。

「嫌な予感がビンビンしやがる。生きてろよ、メイ、バリー!!」

 苦い記憶を噛み潰し、エリーは廃工場の中へと入る。すると暗がりの中に一人の人影を確認した。

 それはエリーの接近に気がつくと、彼女の方を向いて歪に表情を歪ませた。

「アハァ、やっとキタァ……。」

 明らかに常人とは思えない狂った紅い瞳……それをエリーに向けながら、男は長い白髪を振り乱す。

「テメェ、二人はどうした?」

「二人?二人………………アァ!!さっきまで遊んでたヤツだナァ?アイツ等と楽しく遊んでたのに、この中に隠れちゃったんだよナァ~。ま、もっと楽しそうなのがキタからイイケド。」

 ケラケラと笑う男からはエリーがかつて見たことがないほど狂気が溢れ出している。

「まずはなにスル?鬼ごっこ?それともかくれんぼ?それとも……。」

 楽しそうに子供の遊戯を並べていた男は、一瞬でエリーとの距離を詰める。

「それとも、戦争ゴッコがイイ?」

「あぁ、そっちのがよっぽど楽しいと思うぜ?」

 近づいてきた男へとエリーは容赦なくブレードを振るう。

「アァッ!!危ない危ない、それ嫌いダ。」

 超反応でブレードを避けると、少し距離を取って男はエリーの手にあるブレードを指さして言った。

「これが嫌い……ねぇ、まぁ薄々わかってはいたが……テメェも吸血鬼だな?」

「大正解~!その通りダヨ、僕は吸血鬼…………あれ?吸血鬼…………アッ、忘れてタ!!」

 すると、男は工場の隅に乱雑に投げ捨てられていた芦澤カナの首根っこを掴む。

「うぅ。」

「今日の目的はコイツ!!ホントはまだまだ遊びたいケド、帰らなくちゃ、怒られルゥ!!」

「っ!!待てッ!!」

 真っ赤な翼を背中から生やして飛び上がる男へとエリーはハンドガンを撃つ。それをマトモに喰らいながらも男は上からエリーに向かって語りかけた。

「またネ!」

 そして目にも止まらぬ速度で男は芦澤カナを持ってどこかへと消えてしまう。

「クソッ、おいバリー、メイ無事か!!」

「エリー!!!!」

 脅威がなくなったことを確認すると、廃材の裏からメイが飛び出してくる。

「うぅ~怖かったぁ……。」

「無事で安心したぜ。」

「おいおい、俺の心配はないのかぁ?」

「どうせ大丈夫だと思ってたぜ。」

「キツイぜそりゃ。」

 二人の安全を確保した後、エリーはリースに無線で連絡をいれる。

「お袋、二人は無事だ。ただ……芦澤カナは連れ去られた。」

『オッケー、ひとまず戻ってきなよ。状況を少し整理しよう。』

「あぁ。」

 エリーは二人を連れてリースのラボへと引き返すのだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

ヴァンパイアキス

志築いろは
恋愛
ヴァンパイアおよびグール退治を専門とする団体『クルースニク』。出自ゆえに誰よりもヴァンパイアを憎むエルザは、ある夜、任務先で立ち入り禁止区域を徘徊していた怪しい男に遭遇する。エルザは聴取のために彼を支部まで連れ帰るものの、男の突拍子もない言動に振り回されるばかり。 そんなある日、事件は起こる。不審な気配をたどって地下へ降りれば、仲間の一人が全身の血を吸われて死んでいた。地下にいるのは例の男ただひとり。男の正体はヴァンパイアだったのだ。だが気づいたときにはすでに遅く、エルザ一人ではヴァンパイア相手に手も足も出ない。 死を覚悟したのもつかの間、エルザが目覚めるとそこは、なぜか男の屋敷のベッドの上だった。 その日を境に、エルザと屋敷の住人たちとの奇妙な共同生活が始まる。 ヴァンパイア×恋愛ファンタジー。 この作品は、カクヨム様、エブリスタ様にも掲載しています。

囚われの姫〜異世界でヴァンパイアたちに溺愛されて〜

月嶋ゆのん
恋愛
志木 茉莉愛(しき まりあ)は図書館で司書として働いている二十七歳。 ある日の帰り道、見慣れない建物を見かけた茉莉愛は導かれるように店内へ。 そこは雑貨屋のようで、様々な雑貨が所狭しと並んでいる中、見つけた小さいオルゴールが気になり、音色を聞こうとゼンマイを回し音を鳴らすと、突然強い揺れが起き、驚いた茉莉愛は手にしていたオルゴールを落としてしまう。 すると、辺り一面白い光に包まれ、眩しさで目を瞑った茉莉愛はそのまま意識を失った。 茉莉愛が目覚めると森の中で、酷く困惑する。 そこへ現れたのは三人の青年だった。 行くあてのない茉莉愛は彼らに促されるまま森を抜け彼らの住む屋敷へやって来て詳しい話を聞くと、ここは自分が住んでいた世界とは別世界だという事を知る事になる。 そして、暫く屋敷で世話になる事になった茉莉愛だが、そこでさらなる事実を知る事になる。 ――助けてくれた青年たちは皆、人間ではなくヴァンパイアだったのだ。

札束艦隊

蒼 飛雲
歴史・時代
 生まれついての勝負師。  あるいは、根っからのギャンブラー。  札田場敏太(さつたば・びんた)はそんな自身の本能に引きずられるようにして魑魅魍魎が跋扈する、世界のマーケットにその身を投じる。  時は流れ、世界はその混沌の度を増していく。  そのような中、敏太は将来の日米関係に危惧を抱くようになる。  亡国を回避すべく、彼は金の力で帝国海軍の強化に乗り出す。  戦艦の高速化、ついでに出来の悪い四姉妹は四一センチ砲搭載戦艦に改装。  マル三計画で「翔鶴」型空母三番艦それに四番艦の追加建造。  マル四計画では戦時急造型空母を三隻新造。  高オクタン価ガソリン製造プラントもまるごと買い取り。  科学技術の低さもそれに工業力の貧弱さも、金さえあればどうにか出来る!

旧陸軍の天才?に転生したので大東亜戦争に勝ちます

竹本田重朗
ファンタジー
転生石原閣下による大東亜戦争必勝論 東亜連邦を志した同志達よ、ごきげんようである。どうやら、私は旧陸軍の石原莞爾に転生してしまったらしい。これは神の思し召しなのかもしれない。どうであれ、現代日本のような没落を回避するために粉骨砕身で働こうじゃないか。東亜の同志と手を取り合って真なる独立を掴み取るまで… ※超注意書き※ 1.政治的な主張をする目的は一切ありません 2.そのため政治的な要素は「濁す」又は「省略」することがあります 3.あくまでもフィクションのファンタジーの非現実です 4.そこら中に無茶苦茶が含まれています 5.現実的に存在する如何なる国家や地域、団体、人物と関係ありません 6.カクヨムとマルチ投稿 以上をご理解の上でお読みください

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

処理中です...