腐りかけの果実

しゃむしぇる

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二節 死に戻りのリベンジ

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 数日後、エリーは外出した芦澤カナの後をつけ、変わらぬ路地裏で彼女の吸血行動を目撃していた。

「あ!見られ……え?」

 彼女が振り返った瞬間、彼女の視界が落ちていく。彼女の目に最後に移ったのは冷徹な眼差しで見下すエリーの表情。そして首を失い仰向けに倒れる自分の体。

 エリーは処理を終えた後無線でメイに連絡を入れた。

「終わったぜ。」

「さすがエリー仕事が早いわね。帰りのルートは大丈夫?」

「あぁ、問題ねぇすぐ戻るわ。」

 そして彼女が無線を切り帰ろうとすると、背後に何かが降り立った。

「貴様、危険だな。」

「……その声、あぁなるほどな。最初から見られてたってわけか。」

 エリーが後ろを振り返ると、そこには見覚えのあるローブを纏った吸血鬼が立っていた。

「今のうちにテメェをぶっ殺したらどうなるんだろうな?」

「ただの人間風情が……。」

 エリーの挑発するようなその言葉に腹を立てたのか、ローブの吸血鬼は怒気のこもった声とともに目の前から姿を消す。

「死ねッ!!」

「ん、テメェがな。」

 目の前から消えたローブの吸血鬼に何の動揺も見せず、エリーは後ろを振り返ることもなく、背後に現れたローブの吸血鬼の心臓をブレードで貫いた。

「が……バカな……。」

「あいにくテメェとは何度もりあってる。手札は全部バレてんだよ。ちょっと煽ってやったらすぐに攻撃してくる短気野郎だってことも知ってる。」

 エリーの背後でドサッ……と倒れる音がする。それを聞いて彼女は振り返ると胸ポケットから煙草を一本取りだして火をつけた。

「ほぉ、今ここで殺せば、あのヴラドとかいう吸血鬼は出てこねぇんだな。となると……っと考えるより先にこいつを片付けたほうがいいな。」

 考察を始めようとしたエリーだが、目の前に転がっているローブの吸血鬼の処理の方が優先事項と判断し、片づけ始めた。そして二人分の体が入った死体袋をバイクに積むと、ラボへと帰っていった。









 エリーがラボに帰ってくるとそこではメイが彼女のことを待っていた。

「エリーお帰り、ケガはない?」

「問題ねぇ。それより追加で死体が一体出来上がっちまった。」

「え、誰かに見られた?」

「ん~にゃ、もう一体吸血鬼が出やがっただけだ。」

「吸血鬼は一体じゃなかったってこと?」

「そういうこった。それとクライアントに連絡入れときな、ターゲットの生け捕りに成功したってな。それ以外に余計なことは一切言わなくていい。」

「思いっ切り首ちょんぱしてあるけど……。」

「どうやら首切り落としたぐれぇじゃこいつらは死なねぇらしい。その証拠にまだ心臓が動いてやがるぜ?」

「えぇ……どんだけ生命力強いのよ。まぁいいわ、クライアントには連絡入れとく。」

「ん、頼んだ。アタシは一回こいつらをお袋に渡してくるわ。」

 そしてメイと別れると、エリーは死体袋を引きずりながらリースの研究室の扉を開けた。

「お袋~、帰ったぜ。」

「あ、お帰りエリー。で、どうだったかな?」

「ちとイレギュラーが起きた。ヴラドの配下の野郎がもうアタシを襲ってきやがった。」

 エリーは死体袋のジッパーを開けて中に入っていたローブの吸血鬼をリースに見せた。

「ふむ、エリーの話してたシナリオと外れたか。筋書き通りに進まなかったってことは、なにか変わったことやったんじゃない?」

「ん~、変わったことつったって、容赦なく芦澤カナの首を飛ばしたぐれぇだな。」

「何か条件があるのかもしれないね。まぁ起こってしまったことは仕方ないさ。何とか修正して元の筋書きに戻せばいいだけ。」

「なんかアタシよりお袋のがこの状況に適応してねぇか?」

「そんなことはないさ、それよりもエリーの話だと配下クンを殺したらヴラドが現れるって話じゃなかった?」

「それが今回は現れやがらなかった。」

「ふむ……。」

 リースは少し考え込むような仕草を見せると、ホワイトボードに文字を書き出していく。

「考えられる可能性はいくつかある。エリーが死ぬときに現れていたそこの吸血鬼クンはあらかじめヴラドと近くで行動を共にしていた……。それなら突然ブラドがエリーの前に現れたことに説明はつくよね。」

「あぁ。」

「だから、もし今回の出来事に仮説を立てるのであれば……今回は単独行動をしていた。と考えるのが妥当かな。」

「だけどよ、そう考えるならアタシが死ぬフラグがポッキリ折れちまってるんじゃねぇか?だってもうこいつがアタシの前に現れることはねぇんだからよ。」

「こればっかりはエリーが例の瞬間に辿り着いたときまでわからない。そこの吸血鬼クンが死んでいたとしても、エリーとヴラドは結局そこで出会う運命なのか……検証が必要だ。」

「検証……ね。」

「エリーの死に戻る力が機能する前提の話だけどね。ま、やってみようよ。ダメだったら……また次さ。」

「確かにそうだな。」

「さて、それじゃあ一先ず本来の筋書き通りに物語を進めてみようか。」

 リースは携帯端末を操作すると、メイの端末に依頼を送る。その画面をエリーに見せた。

「これでいいんでしょ?」

「あぁ、これでいいはずだ。」

 今回がダメだったとしてもまた次がある。そう割り切ってエリーとリースは本来辿るはずの物語にできる限り沿った生活を始めるのだった。
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