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二節 死に戻りのリベンジ
2-2-2
しおりを挟むエリーがリースへとこれから起こるであろうこと、そして自分は最終的にヴラドという吸血鬼になすすべなく殺されてしまうことを伝え終えると、リースは冷たくなったコーヒーを一口口にした。
「ふむ、よくわかった。それにしてもエリーのことを殺す男の名前がヴラドとはねぇ。」
「知ってんのか?」
「有名人だよ。とはいってもだいぶ昔の話だけどね。」
リースは近くにあった本棚から一冊の本を引っ張り出すと、迷いなくあるページを開いた。
「ここにあるだろ?ヴラド三世……通称串刺し公、またはドラキュラ公。」
「この本に書かれてる年号……1462年だぁ!?どんだけ昔の話なんだよ。」
「だからこそ奇妙なのさ。エリーは確かにヴラドって名乗った男からとんでもない死臭を感じ取ったんでしょ?」
「あぁ、アイツは間違いなくおびただしい数の人間を殺してるぜ。その辺の戦争で死ぬ人間の数よりもずっと多そうだった。」
「だけど、現代で戦争以上に死人を出す事件が起こっていたら……普通にニュースになると思わないかい?」
「確かに……じゃあアタシのことを殺してるアイツはこの時代から生きてるっつうことなのか?」
「それはわからない。これはあくまでも憶測の範疇にすぎないからね。ただ、もし本当にヴラド三世が現代に生きていたとしたら、すごいよね吸血鬼って話。」
リースは長くなりそうな詮索を一度そこで絶つと、改めてエリーの今後について話し合い始めた。
「さて、問題は芦澤カナを確保した後に開発する武器の火力が低いこと……マグナム級の破壊力でも手の皮さえ貫けない、バイクに搭載してるブレードで直接切ったとしても硬度が足りない。この二つの点を踏まえてエリーはどんな武器を開発すべきだと思う?」
「あ~……人間がギリギリ携帯できる最高火力だと対戦車ライフル辺りか?」
「それを作るにはさすがに開発期間が足りないかもね。それに作れたとしても、いざ戦闘であんな長物を振り回してる余裕はあるかい?」
「ねぇな。ぶっ壊されるオチが見えた。」
「そこでお母さんは考えました。エリーの得意な近距離ファイトに持ち込むなら、それこそゼロ距離で最高の瞬間火力を発揮できるものならいいんじゃないかってね。」
饒舌に話すリースだが、エリーは彼女が話す武器がどんなものかパッと頭の中に浮かんでこなかった。
「そんなこと言ったってよ、具体的にはどんな武器になるんだよ。」
「エリーは工事現場で杭打機を見たことはあるかい?あれと同じような原理を応用しようと思う。」
すると、リースはホワイトボードにサラサラと絵を描いていく。
「イメージは銀製の杭を火薬の爆発力、それで足りなそうであれば電磁加速を使って超速で押し出し、硬い装甲の一点突破を目指す。」
「ほぉ……面白そうな武器だ。」
「エリーの話だとマグナムの弾を手で受け止めるぐらいの硬さだから……だいたい戦車の装甲を一撃で貫けるぐらいの火力には仕上げたいよね。」
「そんなもんぶっ放したらアタシの腕イカレねぇか?」
「それは試してみないとわからない。最低でも対戦車ライフル以上の威力になる予定だから、対戦車ライフルの反動を片手で完全制御できるぐらいじゃないとキツイかも?」
「バケモンかよ。」
リースの言葉にエリーは思わず苦笑いする。
「でもこれならすぐ形にできると思うよ。構造はある程度単純だし、試運転は何回かできると思うな。よし、そうと決まれば早速制作に取り掛かろうか。」
リースが荷物をまとめていると、不意にあることを思い出し彼女はエリーへと告げた。
「あ、そういえばこの新兵器の開発が終わったら、エリーは設計図を頭の中に叩き込んでね?」
「は!?なんでそんなこと……。」
「わかるだろ?仮にもし、今回作ったものでも火力不足だった場合エリーが死ぬ未来からは逃れられない。もし、次があるなら……その設計図を基にさらなる改良を施したほうがいいと思わないかい?」
「……確かに。」
「じゃ!!そういうことだから、膨大な量の情報を頭の中に突っ込む準備はしといてね!」
それだけ告げるとリースはパタパタと自分の研究室の外へと飛び出していった。それを見送ってエリーは大きくため息を吐いた。
「お袋が信じてくれたのは不幸中の幸いだな。後は新兵器があのクソ吸血鬼に効くかどうか……。」
エリーは机の上に広げられた本の中にある、ヴラド三世の顔を描いたものとみられる人物画に目を落とすと憎たらしそうにぽつりと言った。
「待ってやがれ……テメェの心臓にブチ開けてやるからよ。」
そうこぼしたエリーは灰皿で乱暴に煙草を消すと、リースの研究室を出て行った。
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