腐りかけの果実

しゃむしぇる

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二節 死に戻りのリベンジ

2-2-1

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 暗闇からエリーがまた意識を取り戻す。

「……。また戻ってやがる。」

 彼女が目を覚ますと、またしても密林の中に時間が戻されていた。

「あのクソ野郎……吸血鬼をぶっ殺すために作ったマグナムも、近接戦用のブレードも全部効かなかったが、あの吸血鬼化する薬を飲んだ後の攻撃は効いてたな。」

(あんときはたまたま吸血鬼になっちまう薬が体内に取り込まれたおかげで確かにほんの少しの間吸血鬼になれた。マグナムの弾を素手で受け止めるような狂ったアイツにも傷をつけることもできたし、身体能力そのものがバカみてぇに引きあがってやがった。極めつけは、吸血鬼どもが使う変な能力……あれも使えた。だが問題は、あれを使うと。)

 せっかく掴みかけた攻略の糸口も自分が死んでしまうのでは意味がない。またしても振出しに戻ってしまったエリーは頭を抱えて大きなため息を吐き出した。

「クソッ、どうすりゃあいい……リンを助けることがアイツ等と遭遇するトリガーになってることは間違いねぇ。そこまでにある時間の中でどうにか対策を見つけなきゃいけねぇな。」

 億劫になっている彼女の前を補給部隊が通り過ぎていく。彼らの動きは相も変わらず、エリーの知っているそれだった。

 補給部隊が通り過ぎて行ったあと少ししてメイから無線が入る。

『あ~、あ~。こちらメイ。エリー聞こえる?』

「聞こえてるぜメイ。」

『ならオッケー、例の補給部隊はもうやっちゃった?』

「……今尾行中だ。」

 まさかこの先の展開を知っているとはいえず、エリーはとっさに嘘をついた。そんな彼女を疑うこともなくメイは続けて言った。

『あ、そうなの?それならもう追わなくてオッケーよ。クライアントがバックレちゃってね。エリーが撃破してたら骨折り損になるところだったのよ。』

「そうか、わかった。んじゃとりあえず合流でいいか?」

『うん、例の場所で待ってるわ。それじゃ気を付けて離脱してね。』

「了解。」

 メイとの合流を決めたエリーは無線を切ると、あることを決断する。

「アタシがこんなバカみてぇなことを経験してるなんてことを言ったって、まともに信じてくれるやつなんざ一人しかいねぇわ。」

 エリーは離脱しながら携帯電話を取り出すと、ある番号へと電話をかけた。すると1コール目の呼び出し音で電話の先の人物が呼び出しに応じた。

『やっほ~、エリーから電話してくるなんてどうしたのかな?何か困りごと~?』

 エリーのかけた電話に陽気な声で応答したのは彼女の母親であるリース。

「お袋、アタシがこれからそっちに帰ること知ってんだろ?依頼の内容も。」

『うん、まぁ一応ね。』

「ん、それじゃあよ、帰ったらお袋に相談してぇことがある。時間空けといてくれ。」

『あらあら、そんなに改まっちゃって何かな~?まさか、恋愛の相談!?お母さんまだそういうのは許しませんからね!!』

「はっ、ちげぇよ。だが、とんでもなく重要なことだ。それだけ伝えとく。」

『あはは、わかってるって。そういうことなら時間は空けておくよ。なんてったってかわいい愛娘のエリーのお願いだからね♪』

「そいじゃな。」

『は~い、気を付けて帰ってくるんだよ。』

 エリーは通話を切ると、その後メイと合流しバックレたクライアントを叩き潰してリースが待つ日本へと飛び立った。









 エリーが日本にたどり着くと、流れ通り空港にはバリーが待っていた。彼の運転する車でリースのラボへと向かうと、そこにはエリー達を出迎えているリースの姿があった。

「お帰りエリー、メイちゃん。」

「帰ったぜお袋。」

「お久しぶりですリースさん。」

「さて、帰ってきてさっそくで悪いんだけどメイちゃん、私は少しエリーと話さなきゃいけないことがあるから先に向こうで休んでいてくれるかな?」

「え、は、はいわかりました。」

「バリーも休んでていいよ。さ、行こうかエリー。」

「あぁ。」

 そして二人はリースの研究室へと向かう。エリーが中に入ったことを確認すると、リースは研究室のカギを閉める。

「さて、これでいいね。エリーから私に電話なんて何があったのかな?」

 お互いにソファーに腰掛けると、エリーは煙草に火をつけて吹かしながらリースに話し始めた。

「お袋、もしアタシがこれから起こる出来事をすべて知ってるって言ったら……信じるか?」

 その問いかけにリースはにこりと笑って答えた。

「愛娘の言葉を信じない親がいるかい?エリーの言葉なら何だって信じるさ。それがどんなに現実離れしたものだとしてもね。」

「そいつを聞いて安心した。」

 期待していた答えだからか、それともリースならそう言うと確信していたのか、エリーは笑う。

「実はよお袋、アタシは二回死んでる。もしここで運命を変えなきゃ……間違いなく今回が三回目の死になる。」

「ほぉ、つまり……エリーにとっては三度目の人生ってわけかい?」

「そういうこった。」

「んん~大体話は見えてきたよ。エリーはその確定している死の結末から逃れたいってわけだね?そのためにお母さんにこの話を持ってきたと。」

「話が早くて助かるぜ。普通のやつならこうはいかねぇだろうな。」

 煙草を吸いながらエリーは苦笑いする。

 そしてエリーはリースへとこれから起こる出来事を……自分がどのようにして死んでしまうのかを事細かに話すのだった。
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