腐りかけの果実

しゃむしぇる

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第二章 一節 不死身の傭兵

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 リースの持つ重機関銃の重い射撃音が響くと同時に、両手にサブマシンガンを構えたエリーが走り出す。彼女の弾幕の横を駆け抜け、張り付けにされていた男の横にスライディングで姿を現すと、サブマシンガンの銃口を男に向けた。

「まずは一人目ェッ!!」

 パパパ……と重機関銃の銃声とは正反対の軽い音が響き、あっという間に一人をハチの巣にすると、エリーはすぐに次の目標へと意識を切り替えるが、すでに重機関銃の弾幕によってズタボロにされていた。

 エリーがリースのほうに目を向けると、彼女はパチクリとウインクして見せる。

「まったく、やってくれるぜ。負けてらんねぇな。」

 そしてエリーとリースの二人の活躍により、あっという間にメイたちを襲った男たちは一人残さず殲滅された。

 バリーの怪我を治療するメイのもとに二人は歩み寄ると、リースがバリーに向かって声をかける。

「大丈夫かい?」

「このぐらい問題ありません。」

「自分で大丈夫と決めつけることほど危ういことはないんだよバリー。帰ったら体内に残った弾の摘出手術だ。しばらくは安静にしなきゃいけないからそのつもりで。」

「了解しました。」

「さてと、これだけ騒いだからね。この場所にももうすぐ警察とかが集まってくる。撤収するよみんな。」

「お袋、こいつはどうする?」

 そう言ってエリーが指さしたのは芦澤カナの遺体が入った死体袋。

「それはもちろん私たちで預かろう。死体とはいえ、貴重な吸血鬼のサンプルだからね。」

「あいよ。」

 芦澤カナの遺体を回収すると、エリー達はその場から颯爽と姿を消したのだった。



 ラボに戻ると、リースはバリーの手術のため、手術室の中へと入っていった。それを見送ったエリーとメイは、ホッと一息溜息を吐いた。

「ふぅ、にしても大変な目にあったなメイ。」

「まったくよ。政府のやつら蘆澤カナが死体だってわかるや否や撃ってきたんだから。」

「死体だったのが気に食わなかったってことか?」

「多分ね。」

「向こうが最悪死体でもいいって言ってやがったくせに勝手な野郎だな。」

 エリーは煙草に火をつけると、あきれた様子で大きく煙を吐き出す。

(今回の一件は前回はなかった……恐らく芦澤カナを生きた状態で渡すか、死体で渡すかが運命の分岐になってやがる。つぅことはこれから先もアタシの判断次第でまた運命が変わる。)

 そんな考察をしていると、メイがエリーにあることを問いかけた。

「ねぇエリー、前に予知夢の話をしたじゃない。今回のは予知夢みたいなやつで見えなかった?」

「……あぁ、アタシが見たのは違う結果だった。」

「そっか、やっぱり簡単に未来がわかるわけないわよね~。そんなことが自由自在にできたら苦労しないもの。」

「確かにな。」

 大きなため息を吐いたメイにエリーは苦笑いする。

「ちなみに次、身元割り出す予定のやつは決まってんのか?」

「次?次はそうね、巧妙に身元を隠してる輩の身元でも割ってみようかしら。面倒なのから片づけたいし……。」

(この辺は変わらずか。一応大まかには決められた路線ってのがあるらしいな。)

「ん、そうか。ま、メイなら余裕だろ。任せたぜ。」

 ぽんぽんとメイの肩をたたいてからどこかへと歩き出すエリー。

「エリー?どこか出かけるの?」

「ちょいと行かなきゃいけねぇ場所があんだ。」

「そう、気を付けてよね?」

「あぁ。」

 そしてエリーはラボを後にしてある場所へとバイクを走らせるのだった。










 エリーはとある家の前にバイクを停めると、ヘルメットを脱いだ。

「……ここだな。」

 彼女が訪れたのは、本来次のターゲットを確保してから向かう予定のリンの家だった。すでに夕暮れになりつつあるということもあって家からは電気の光が漏れ出ている。

「さて、どうなってるか……。」

 エリーが家に近づくと、中から男の声が聞こえてくる。

「おいリィン!!面白そうなものを買ったんだ、せっかくだからお前に飲ましてやるよ。」

「の、飲みたくないよお父さん……。やめてよ。」

「うるせぇ!」

 怒声とともに響く肉を打つような鈍い音……。

「クズ野郎が。」

 エリーは誰にも気づかれないようにそっと家のドアを開けると、中へと侵入する。そしてリビングのほうを陰からのぞき込むと、そこにはなにやら瓶に入った赤い液体を強引にリンに飲ませようとしている男の姿があった。

「オイコラ……。」

 背後から男の手をエリーは取った。

「アァ!?誰だよテメェは!!ここ他人ん家だぞ!!」

「あぁ、そうだな。」

 男の怒声を聞きつけたのか、家の二階から急ぎ足で降りてくる足音が聞こえてきた。

「なに!?どうしたの!!」

 姿を現したのは男の妻……。エリーは腰からいつもとは形状の違うハンドガンを抜くと、容赦なく男の妻へと向かって発砲した。

「うっ……。」

 発射されたものが首元に突き刺さると、彼女は一瞬にして意識を失ってしまう。

「麻酔弾だ死にやしねぇ。だが、テメェには本物をぶっ放してやってもいいんだぜ?」

 ドスの効いた声で男の首元に銃口をぐりぐりと押し付けるエリー。

「わ、わかった。な、なにをすればいい?」

「とりあえずその手に持ってるやつをそこのテーブルに置きな。」

 男はエリーの言うとおりに手に持っていた瓶をテーブルの上に置いた。

「よしそれじゃあテメェはもう用済みだ。」

「え?」

 パスっとエリーは男の首元に麻酔弾を撃ち込む。すると一瞬で意識を刈り取られ、男は床に伏したのだった。
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