腐りかけの果実

しゃむしぇる

文字の大きさ
上 下
24 / 88
二節 交錯する思惑

1-2-11

しおりを挟む
 捕食者のようなまなざしでエリーのことを見つめるリンの姿に、リースは興味深そうな様子だ。

「これがもしかして吸血鬼の吸血衝動ってやつかな?実に興味深い反応だね。ヨシキ君も一度吸血衝動を見せたけど、キミみたいに目は赤くならなかったんだよね。ちょっと失礼。」

「んぅ~。」

 クイッとリースはリンの顎を持ち上げると、リンの赤い瞳の奥深くをのぞき込む。

「ふむ、血流が巡って赤くなっているわけではないと。ということはやっぱり、吸血鬼の何かしらの能力と考えるのが妥当そうだ。」

 そう分析すると、リースはエリーのほうに視線を向ける。するととんでもないことを言い出したのだ。

「よし、それじゃあエリーさっそく実験だ。リンちゃんに吸血されてみてくれないかな?」

「はぁっ!?死ぬだろ!!」

「大丈夫、大丈夫~。リンちゃんが加減すればいいだけだからさ。」

 そう言ってリースはリンの頭の上に手を置く。

「できるよねリンちゃん?」

「た、たぶん。」

「さ、というわけだから~♪」

 目にもとまらぬ速度でリースはエリーの手首をつかむと、小さな体には似つかわしくない怪力でリンの目の前へと引っ張った。

「なぁっ!?ちょ、ちょっとまてお袋ぉっ!!」

「はい召し上がれリンちゃん♪」

「アタシの人権はどこに行った……。」

 半ばあきらめムードでがっくりと肩を落とすエリー。そんな彼女の指先に口を開けたリンが迫る。

「エリーお姉ちゃんごめんなさい。い、いただきます。」

「はぁ……頼むぜ、加減してくれよリン。」

 そんなエリーの願いを聞き入れる前にパクっとリンはエリーの人差し指を咥えた。そしてストローで飲み物を飲むかのようにちゅ~っと何かを吸い始める。

「んくっ……こくっ。」

「ん~?エリー、何か吸われてる感じする?」

「まったくしねぇ。それどころか痛みすら感じねぇぜ。ただ指しゃぶられてるだけだ。」

「ふむ。これは貴重な記録だ。エリー、ちゃんと事細かに教えてね~。」

「へいへい。つっても何も伝えられることなんてねぇぜ。」

 しばらくリンが何かを飲む様子を眺めていると、満足したのかリンがエリーの指先から口を離す。するとエリーの指先から2、3滴血の雫が滴り落ちる。

「ぷはっ……お、美味しかったぁ。あ、ご、ごちそうさまでした。」

「しっかり血が出てるところを見るに、吸血はされてたみたいだね。記録に残しておかないと。」

 エリーの指先に絆創膏を張ったリースはパソコンに今わかったデータを刻んでいく。それと同時進行でリンに質問を始めた。

「さて、リンちゃん。大事なことだからちゃんと質問に答えてね。」

「う、うん。」

「まず、ひとつ聞きたいのはリンちゃんは今エリーの血液を飲んだけど、それは美味しかった?どんな味だった?」

「えと、たぶん……ぶ、ぶどう?みたいな味。本物食べたことないからわからないけど。」

「ふむふむ、葡萄ね。」

 記録を取りながらリースはエリーの絆創膏が貼ってあった指先に目を向けるとおもむろにその絆創膏をはがす。

「は?」

「あむっ!」

 何を思ったのか、リースはエリーの間立が出ている油夫先を咥えたのだ。そして丹念にエリーの指先を舐めまわすと、少し顔をしかめながら口を離す。

「んえっ、やっぱり吸血鬼の味覚は人間とは違うんだね。全然おいしくな~い。」

「あたりめぇだろ!!」

 盛大なツッコミをエリーから入れられながらも、リースは口元をナプキンでふくと、改めてリンに質問を始めた。

「さて気を取り直して次だ。リンちゃん、今エリーの血液を飲んだけど、空腹感は満たされたかい?」

「うん、すごくお腹いっぱい。」

「体に何か変化は?」

「えと、わからない。でもすごく元気になった?」

「うんうん、結構。ちょっと体触ってもいいかな?」

「うん。」

 するとリースがリンの体をペタペタと確認していく。

「ん?んん?」

 リンの体を触っているうちに、ある変化にリースが気付く。

「さっきまであばら骨が浮き出るぐらい痩せてたんだけど、ちょっとお肉ついた?」

「そんなことあるかぁ?」

「それにさっき抱き着いたときいくつか、痣とか傷跡も体に確認できたんだけど……そういうのもなくなってるね。ちょっと腕まくってみて?」

 リンが腕をまくると、そこにはエリーも確認していた煙草でつけられたような火傷痕があったはずだが、それすらもきれいさっぱり消えてなくなり、きれいな地肌のみが残っていた。

「アタシが見たときにあった傷もねぇ、やっぱ血を吸ったから治ったのか?」

「おそらくね。まぁリンちゃんも満足したし、まだこの状況にも慣れてないだろうから一度ゆっくり休んでもらおう。お話はまた改めて聞くことにするさ。」

 するとリースはパソコンの画面を閉じ、片手に抱えると、リンの手を引く。

「さてリンちゃん、今日からキミが住むお家を案内しよう。もちろんキミ専用のお部屋もあるからね。」

「あ、う、うん。え、エリーお姉ちゃんまたね。」

「ん~、しっかり休めよリン。なんかあったらお袋にでもアタシにでも言え。」

 リンのことを見送ったエリーはすっかり忘れ去られた自分の指先に自分で絆創膏を張ると、煙草を咥えた。

「ふぅ……慣れねぇことはするもんじゃねぇな。変に疲れたぜ。」

 そうぼやきながらエリーは煙草を吹かすのだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

旧陸軍の天才?に転生したので大東亜戦争に勝ちます

竹本田重朗
ファンタジー
転生石原閣下による大東亜戦争必勝論 東亜連邦を志した同志達よ、ごきげんようである。どうやら、私は旧陸軍の石原莞爾に転生してしまったらしい。これは神の思し召しなのかもしれない。どうであれ、現代日本のような没落を回避するために粉骨砕身で働こうじゃないか。東亜の同志と手を取り合って真なる独立を掴み取るまで… ※超注意書き※ 1.政治的な主張をする目的は一切ありません 2.そのため政治的な要素は「濁す」又は「省略」することがあります 3.あくまでもフィクションのファンタジーの非現実です 4.そこら中に無茶苦茶が含まれています 5.現実的に存在する如何なる国家や地域、団体、人物と関係ありません 6.カクヨムとマルチ投稿 以上をご理解の上でお読みください

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました

紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。 国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です 更新は1週間に1度くらいのペースになります。 何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。 自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

処理中です...