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二節 交錯する思惑
1-2-10
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エリーがリンのことを連れてラボにたどり着くと、そこでは既にリースが満面の笑みで彼女たちのことを待っていた。
「やぁやぁ、お帰り。」
「ん、出迎えはお袋だけか?」
「そそ、二人じゃ万が一の事態には対応できないでしょ?その子の安全性が確保されるまでは待機してもらってるのさ。」
「妥当な判断だな。」
ヘルメットを脱ぎ、バイクにかけるとエリーはリンの両脇に手を回し軽く持ち上げると、バイクの横におろした。
「リン、紹介しとくぜ。このちんちくりんがアタシのお袋だ。」
「ちんちくりんとは失礼だねっ!!」
「いっでぇっ!?」
笑顔を保ったままリースはぴょんと垂直に飛び上がると、エリーの頭に拳骨を落とす。その威力はすさまじかったようで、リースよりもはるかに背も高くガタイもいいエリーが一撃で膝をつく。
「ふぅ、さて……リンちゃんだね?エリーが変な紹介をしてくれたけど、改めて……私はリース。エリーの母親さ。」
「え、エリーお姉ちゃんはだ、大丈夫?」
「デケェたんこぶができただけだ、心配すんな。」
さすさすと頭にできたたんこぶを優しくなでながらエリーは立ち上がった。
「り、リースお姉ちゃんはエリーお姉ちゃんのことイジメるの?」
「ん?」
涙目になりながら震える声でリンが絞り出すと、その瞬間リンの黒い瞳が赤く光る。そして髪の毛がざわめきだした。
「おっと、これは……。」
「ゆ、ゆるさない…よ?」
リースがエリーにチラリと視線を送ると、その意図に気が付いたらしく、エリーはリンのことを落ち着かせるため彼女の頭にポンと手を置いた。
「大丈夫だリン。今のはアタシがお袋の悪口言ったから怒られたんだ。他人の悪口言ったら怒られて当然だろ?」
「そ、そうかな。」
「そういうもんだ。だから気にすんな。」
「うん……リースお姉ちゃんごめんなさい。」
リンが落ち着きを取り戻すと、彼女の目も元の黒目に戻り、髪のざわつきも収まっていく。素直に言うことを聞くばかりかすぐにぺこりと頭を下げたリンに感激したリースは、ぎゅっと彼女のことを抱きしめた。
「ん~♪素直な子は大好きだよ~♪」
「あぅぅ、ちょ、ちょっと苦しいよ。」
リンのことをキュッと抱きしめたリースは、リンの体が異常にやせ細っていることに気が付く。
「リンちゃん、キミお腹減ってないかい?」
そうリースが問いかけると、びくっとリンの体が震えた。
「ど、どうして?」
「ん~、だってまぁこんなにやせ細ってたらねぇ。あばら骨も浮き出ちゃってるし、何日ぐらいまともなご飯食べてないのかな?」
「ふ、三日ぐらい。」
おずおずと言ったリンの目をまっすぐに見つめて、リースはあることを確信する。
「嘘だね。明らかに栄養失調の症状が体に表れてる。大丈夫私たちは怒ったりしないから正直に言ってみて?」
「一週間?どれぐらいなのかも、もう忘れちゃった。お母さんもお父さんもリンがお腹減ったって言ったら怒っちゃうから……。」
「ふむ、なるほどね。でも水だけは何とか頑張って飲んでたってわけだ。」
リースの言葉にリンは二つ頷いた。
「うんうん、よ~くわかった。それじゃあまずは消化に良い重湯あたりから食べ始めてもらおうか。すぐにでも美味しいものを食べさせてあげたいのはやまやまなんだけど、急にそういうの食べさせたらお腹がびっくりしちゃうからね。」
するとリースが彼女の手を引いた。背丈がそんなに変わらないため、遠目で見れば姉妹に見えなくもない光景だ。
「さ、リンちゃん中にいらっしゃいな。まずはご飯にしよう。色々聞きたいことがあるけど話はそこからさ。」
そしてリースはリンのことをラボの中に連れて行くと、リンに食べやすいように少し味付けを施した重湯を食べさせた。
すると、何口か食べた後、突然リンがぽろぽろと涙を流し始める。
「んっ……ぐすっ……うぅ。」
「あ、あれ?お、美味しくなかったかなぁ、それとも塩味が足りなかった?」
焦るリースの問いかけにリンは激しく首を横に振った。
「違う……のっ。すごくあったかくて……美味しくて、食べてたら勝手に。」
「そっかそっか、まぁゆっくりお食べよ。お代わりはまだまだあるからさ。」
「うん、うん……。」
そして時間をかけて重湯を食べきったリンは、満足そうにほぅ……と一つ溜息を吐いた。その様子にリースがニコニコと笑みを浮かべる。
「お腹いっぱいかな?」
「ご、ごちそうさまでした。」
「うん、ちゃんとごちそうさまも言えて偉いぞ~。エリーとは大違いだね。」
「余計なお世話だぜ。ったく……。」
そんな会話をしていた最中、満腹のはずのリンのお腹が再びかわいい音で悲鳴を上げた。
「あれ?まだお腹減ってる感じ?」
「え、えっとね、えっとね……違うのお腹はいっぱいなんだけど……。」
チラリとリンはエリーのほうに視線を向けた。その時、リンの瞳は赤く光っている。
「なんでかわからないけど、え、エリーお姉ちゃんからすっごくいい匂いがして……。」
「あ、アタシがかぁ!?」
「う、うん。」
おずおずとエリーに視線を送るリンの目は、エリーが戦場で何度も目にした捕食者の目をしていた。
「やぁやぁ、お帰り。」
「ん、出迎えはお袋だけか?」
「そそ、二人じゃ万が一の事態には対応できないでしょ?その子の安全性が確保されるまでは待機してもらってるのさ。」
「妥当な判断だな。」
ヘルメットを脱ぎ、バイクにかけるとエリーはリンの両脇に手を回し軽く持ち上げると、バイクの横におろした。
「リン、紹介しとくぜ。このちんちくりんがアタシのお袋だ。」
「ちんちくりんとは失礼だねっ!!」
「いっでぇっ!?」
笑顔を保ったままリースはぴょんと垂直に飛び上がると、エリーの頭に拳骨を落とす。その威力はすさまじかったようで、リースよりもはるかに背も高くガタイもいいエリーが一撃で膝をつく。
「ふぅ、さて……リンちゃんだね?エリーが変な紹介をしてくれたけど、改めて……私はリース。エリーの母親さ。」
「え、エリーお姉ちゃんはだ、大丈夫?」
「デケェたんこぶができただけだ、心配すんな。」
さすさすと頭にできたたんこぶを優しくなでながらエリーは立ち上がった。
「り、リースお姉ちゃんはエリーお姉ちゃんのことイジメるの?」
「ん?」
涙目になりながら震える声でリンが絞り出すと、その瞬間リンの黒い瞳が赤く光る。そして髪の毛がざわめきだした。
「おっと、これは……。」
「ゆ、ゆるさない…よ?」
リースがエリーにチラリと視線を送ると、その意図に気が付いたらしく、エリーはリンのことを落ち着かせるため彼女の頭にポンと手を置いた。
「大丈夫だリン。今のはアタシがお袋の悪口言ったから怒られたんだ。他人の悪口言ったら怒られて当然だろ?」
「そ、そうかな。」
「そういうもんだ。だから気にすんな。」
「うん……リースお姉ちゃんごめんなさい。」
リンが落ち着きを取り戻すと、彼女の目も元の黒目に戻り、髪のざわつきも収まっていく。素直に言うことを聞くばかりかすぐにぺこりと頭を下げたリンに感激したリースは、ぎゅっと彼女のことを抱きしめた。
「ん~♪素直な子は大好きだよ~♪」
「あぅぅ、ちょ、ちょっと苦しいよ。」
リンのことをキュッと抱きしめたリースは、リンの体が異常にやせ細っていることに気が付く。
「リンちゃん、キミお腹減ってないかい?」
そうリースが問いかけると、びくっとリンの体が震えた。
「ど、どうして?」
「ん~、だってまぁこんなにやせ細ってたらねぇ。あばら骨も浮き出ちゃってるし、何日ぐらいまともなご飯食べてないのかな?」
「ふ、三日ぐらい。」
おずおずと言ったリンの目をまっすぐに見つめて、リースはあることを確信する。
「嘘だね。明らかに栄養失調の症状が体に表れてる。大丈夫私たちは怒ったりしないから正直に言ってみて?」
「一週間?どれぐらいなのかも、もう忘れちゃった。お母さんもお父さんもリンがお腹減ったって言ったら怒っちゃうから……。」
「ふむ、なるほどね。でも水だけは何とか頑張って飲んでたってわけだ。」
リースの言葉にリンは二つ頷いた。
「うんうん、よ~くわかった。それじゃあまずは消化に良い重湯あたりから食べ始めてもらおうか。すぐにでも美味しいものを食べさせてあげたいのはやまやまなんだけど、急にそういうの食べさせたらお腹がびっくりしちゃうからね。」
するとリースが彼女の手を引いた。背丈がそんなに変わらないため、遠目で見れば姉妹に見えなくもない光景だ。
「さ、リンちゃん中にいらっしゃいな。まずはご飯にしよう。色々聞きたいことがあるけど話はそこからさ。」
そしてリースはリンのことをラボの中に連れて行くと、リンに食べやすいように少し味付けを施した重湯を食べさせた。
すると、何口か食べた後、突然リンがぽろぽろと涙を流し始める。
「んっ……ぐすっ……うぅ。」
「あ、あれ?お、美味しくなかったかなぁ、それとも塩味が足りなかった?」
焦るリースの問いかけにリンは激しく首を横に振った。
「違う……のっ。すごくあったかくて……美味しくて、食べてたら勝手に。」
「そっかそっか、まぁゆっくりお食べよ。お代わりはまだまだあるからさ。」
「うん、うん……。」
そして時間をかけて重湯を食べきったリンは、満足そうにほぅ……と一つ溜息を吐いた。その様子にリースがニコニコと笑みを浮かべる。
「お腹いっぱいかな?」
「ご、ごちそうさまでした。」
「うん、ちゃんとごちそうさまも言えて偉いぞ~。エリーとは大違いだね。」
「余計なお世話だぜ。ったく……。」
そんな会話をしていた最中、満腹のはずのリンのお腹が再びかわいい音で悲鳴を上げた。
「あれ?まだお腹減ってる感じ?」
「え、えっとね、えっとね……違うのお腹はいっぱいなんだけど……。」
チラリとリンはエリーのほうに視線を向けた。その時、リンの瞳は赤く光っている。
「なんでかわからないけど、え、エリーお姉ちゃんからすっごくいい匂いがして……。」
「あ、アタシがかぁ!?」
「う、うん。」
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