腐りかけの果実

しゃむしぇる

文字の大きさ
上 下
21 / 88
二節 交錯する思惑

1-2-8

しおりを挟む
 二泊三日という旅行期間もあっという間に過ぎ去った。

 二人にとっては久しぶりのしっかりとした休暇、その効果は絶大で、傭兵生活などで蓄積した疲労などを完璧に取り去った。

 旅館からでてきた二人はここに来る前とは違いどこかスッキリしたような、面構えをしている。

「んぁ~、体が軽ぃ。」

 ぐるぐると肩を回すエリーの姿はやはり軽快そうだ。その隣にいるメイに至っては温泉の効果だろうか、肌のツヤが以前よりも増している。

「お忘れ物はございませんか?」

 二人を見送るため同行してきたツバキが問いかける。

「大丈夫です、しっかり確認しましたから。エリーも大丈夫よね?」

「あぁ、バッチリだ。」

「ふふふ、そうですか。それでは麓まで送りましょう。もうお二方のお迎えが来ているようですから。」

 そして三人は旅館へと続く山道を下ってゆく。その最中、エリーが何かに気が付いた。

「ん?」

 クンクンとエリーが鼻を鳴らす。

「エリー?どうかした?」

「……いんや、なんでもねぇ。」

(かすかに血の匂いがする……。獣の匂いじゃねぇ、間違いなくこいつは人間だ。)

 きょろきょろとあたりを見渡す彼女だが、それらしきものは見当たらない。そんな彼女の様子をツバキは興味深そうに眺めていた。

 登ってくる時とは裏腹にあっという間に麓にたどり着くと、そこではバリーが二人のことを待っていた。

「おっ、来たな二人とも。ずいぶんリフレッシュできたみたいだな!面構えが違う。ツバキさんによっぽどもてなしてもらったみたいだな。ちゃんとお礼言ったか?」

「言ったつぅの。」

「ふふふ、もうお礼はたくさんもらってますよバリー様。」

「そいつは失礼しましたツバキさん。それと姉さんから伝言を預かってますよ。」

 そう言ってバリーはツバキに一枚の紙を手渡した。それをそっと彼女は開くと、一つ納得したようにこくりと頷いた。

「確かに預かりました。」

 その言葉を聞いたバリーは車の運転席に乗り込んだ。そしてツバキはエリー達へとぺこりと一礼する。

「もしまたお時間があればいつでもいらしてくださいね?」

「ありがとうございます!絶対来るわよエリー!」

「はいはいわかったよ。ほんじゃ、世話んなったな女将さん。」

「帰り道にはお気をつけて……。またのご来訪お待ちしております。」

 エリー達の姿が見えなくなるまでツバキは深々と頭を下げていた。そして車が完全に見えなくなると、彼女のもとに忍者装束の女性が現れる。

「ツバキ様、あのエリーという女性……血の匂いに感づいておりました。」

「えぇ、そのようね。普通の人間じゃまず感じ取れないでしょうものを、敏感に感じ取るあの力……どうやら順調に成長しているみたいですね。次に会うときが楽しみ……ふふふ。」

 踵を返してツバキが山道を戻り始めると、彼女のそばに控えていた忍者装束の女性もどこかへと消えた。









 二人がリースのラボへと戻ると、たくさんの資料をまとめているリースの姿があった。

「あ、二人ともおかえりー。どうだった?いいとこだったでしょ?」

「あぁ、最高だったぜ。ま、お袋が何から何まで手掛けただけあったわ。」

「あそこは景色もいい上に近くに温泉の源泉があったからね。立地条件が最高だったんだ。まぁ~思わず旅館立てちゃったよね。」

 けらけらとリースは笑う。

 そんな彼女の様子にエリーが呆れていると、メイがリースのまとめている資料に目を落とした。

「これは、もしかして吸血鬼の研究データですか?」

「その通り!キミたちが温泉につかっている間に、ずいぶん研究が進んだよ。」

「ほーん、なら吸血鬼をぶっ殺す方法も分かったのか?」

「もちろん!まずはこれを見て~。」

 リースが取り出したのは一枚のレントゲン写真。一見普通のレントゲン写真のように見えるが、ある部分が普通の人間とは違っていた。

「ここ、わかる?」

 リースが指さしたのは心臓……に隣接している謎の臓器。

「こいつは?」

「おそらくは吸血鬼の力の源ってところだろうね。彼らが何かしらの能力を使うときには必ずここが肥大化するんだ。」

「ほぉ……。」

「ちなみにやっぱり普通の武器じゃ傷つけることはできなかったよ。ここの臓器だけほかの部位よりも圧倒的に修復が早いんだ。ナイフで切ったとしても、切ったそばからすぐに修復しちゃう。」

「銀の武器なら?」

 エリーのその問いかけにリースはにこりと笑って頷いた。

「一撃さ。実験では試しに殺傷能力の低いフォークで試したんだけど、臓器を貫いた瞬間に絶命したよ。」

「はっ、なら話は早ぇな。生け捕りは専門外だったが……殺しに関してはエキスパートだぜ。」

「あ、もちろんサンプルは生きた状態じゃなきゃダメだよ?」

「マジか。」

「大マジ♪」

 やる気を出したエリーの心をへし折るリースの一言。吸血鬼についていろいろ分かったとはいえ、彼女たちの仕事は変わらないようだ

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

ヴァンパイアキス

志築いろは
恋愛
ヴァンパイアおよびグール退治を専門とする団体『クルースニク』。出自ゆえに誰よりもヴァンパイアを憎むエルザは、ある夜、任務先で立ち入り禁止区域を徘徊していた怪しい男に遭遇する。エルザは聴取のために彼を支部まで連れ帰るものの、男の突拍子もない言動に振り回されるばかり。 そんなある日、事件は起こる。不審な気配をたどって地下へ降りれば、仲間の一人が全身の血を吸われて死んでいた。地下にいるのは例の男ただひとり。男の正体はヴァンパイアだったのだ。だが気づいたときにはすでに遅く、エルザ一人ではヴァンパイア相手に手も足も出ない。 死を覚悟したのもつかの間、エルザが目覚めるとそこは、なぜか男の屋敷のベッドの上だった。 その日を境に、エルザと屋敷の住人たちとの奇妙な共同生活が始まる。 ヴァンパイア×恋愛ファンタジー。 この作品は、カクヨム様、エブリスタ様にも掲載しています。

囚われの姫〜異世界でヴァンパイアたちに溺愛されて〜

月嶋ゆのん
恋愛
志木 茉莉愛(しき まりあ)は図書館で司書として働いている二十七歳。 ある日の帰り道、見慣れない建物を見かけた茉莉愛は導かれるように店内へ。 そこは雑貨屋のようで、様々な雑貨が所狭しと並んでいる中、見つけた小さいオルゴールが気になり、音色を聞こうとゼンマイを回し音を鳴らすと、突然強い揺れが起き、驚いた茉莉愛は手にしていたオルゴールを落としてしまう。 すると、辺り一面白い光に包まれ、眩しさで目を瞑った茉莉愛はそのまま意識を失った。 茉莉愛が目覚めると森の中で、酷く困惑する。 そこへ現れたのは三人の青年だった。 行くあてのない茉莉愛は彼らに促されるまま森を抜け彼らの住む屋敷へやって来て詳しい話を聞くと、ここは自分が住んでいた世界とは別世界だという事を知る事になる。 そして、暫く屋敷で世話になる事になった茉莉愛だが、そこでさらなる事実を知る事になる。 ――助けてくれた青年たちは皆、人間ではなくヴァンパイアだったのだ。

札束艦隊

蒼 飛雲
歴史・時代
 生まれついての勝負師。  あるいは、根っからのギャンブラー。  札田場敏太(さつたば・びんた)はそんな自身の本能に引きずられるようにして魑魅魍魎が跋扈する、世界のマーケットにその身を投じる。  時は流れ、世界はその混沌の度を増していく。  そのような中、敏太は将来の日米関係に危惧を抱くようになる。  亡国を回避すべく、彼は金の力で帝国海軍の強化に乗り出す。  戦艦の高速化、ついでに出来の悪い四姉妹は四一センチ砲搭載戦艦に改装。  マル三計画で「翔鶴」型空母三番艦それに四番艦の追加建造。  マル四計画では戦時急造型空母を三隻新造。  高オクタン価ガソリン製造プラントもまるごと買い取り。  科学技術の低さもそれに工業力の貧弱さも、金さえあればどうにか出来る!

旧陸軍の天才?に転生したので大東亜戦争に勝ちます

竹本田重朗
ファンタジー
転生石原閣下による大東亜戦争必勝論 東亜連邦を志した同志達よ、ごきげんようである。どうやら、私は旧陸軍の石原莞爾に転生してしまったらしい。これは神の思し召しなのかもしれない。どうであれ、現代日本のような没落を回避するために粉骨砕身で働こうじゃないか。東亜の同志と手を取り合って真なる独立を掴み取るまで… ※超注意書き※ 1.政治的な主張をする目的は一切ありません 2.そのため政治的な要素は「濁す」又は「省略」することがあります 3.あくまでもフィクションのファンタジーの非現実です 4.そこら中に無茶苦茶が含まれています 5.現実的に存在する如何なる国家や地域、団体、人物と関係ありません 6.カクヨムとマルチ投稿 以上をご理解の上でお読みください

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

処理中です...