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二節 交錯する思惑
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二人が湯船につかってから少し時間は経ち、真っ赤な夕陽が窓から差し込み始めていた。
「ん……んんっ。」
「やっと起きたかメイ。」
ふかふかのベッドからメイがゆっくりと体を起こす。
「あれ、私お風呂に入ってて……。」
「すっかり酔っぱらっちまって寝てたんだぜ?」
「それで気づいたらもう夕方ってわけ……ね。も~、めちゃめちゃ寝過ごしちゃったじゃない。」
少し肩を落としたメイだが、そんな彼女へエリーは笑って言葉をかける。
「ま、休みってのはそういうもんでいいんじゃねぇか?好きなようにダラダラ過ごしてもよ、楽しけりゃそれでいい。」
「まぁそうかもね。」
「そういやさっき女将さんが来て、もうすぐ飯の用意するってよ。」
メイが起きる直前、この旅館の女将であるツバキがこの部屋を訪ね、夕食の用意を始めることを告げていったのだ。
「こういう旅館のお料理って何が出てくるのかしらね?」
「あ~……勝手なイメージだが、アタシはこういう旅館だと豪華な刺し盛りとか……そういうのじゃねぇの?」
「そういうイメージ確かにあるわね!お刺身とか海外じゃ食べられなかったから楽しみだわ。」
そんな夕食についての会話を弾ませていると、部屋の扉がコンコンとノックされた。
「失礼いたします。」
ツバキが扉を開けると、その奥からふわりと食欲をそそる良い香りが二人の部屋の中に漂い始める。
「ふぁ、いい匂い……。」
「メイ様お体は問題ありませんか?」
「あ、全然大丈夫です!迷惑かけちゃってすみません……。」
「ふふふ、迷惑だなんてそんなことはありませんよ。お食事のほうは食べられそうですか?」
「はい!」
「それは何よりでした。では一品ずつお料理の方運ばせていただきますね。」
するとツバキは一品の料理を二人の前に並べる。最初に二人の前に出された料理はとろりとしたクリームのようなものがかけられた一品料理。
興味深そうにそれを眺めている二人にツバキは料理の説明を始めた。
「まず一品目は先付けとなりまして、秋ナスのゴマ豆腐かけになります。」
「この白いクリームみたいなのがゴマ豆腐なんですか?」
「はい、固めたゴマ豆腐にお出汁を加えて裏漉ししたものになります。」
「へぇ~……。」
「どうぞお出汁に浸した秋ナスにたっぷりと絡めて一緒にお召し上がりください。」
二人は「頂きます。」と手を合わせると、ツバキに言われた通りにして一口食べた。それと同時、二人はカッと目を見開く。
「美味しい……。」
「う、美味すぎる。」
「ふふふ、お口に合いましたようで何よりです。」
二人はあっという間にそれを食べ終えると、タイミングよく次の料理が運ばれてくる。
「続きまして、お凌ぎでございます。」
「お凌ぎ?」
聞き覚えのない言葉にメイが首を傾げた。
「お凌ぎというのはお酒をいただく前に少しおなかを満たすお料理のことです。今回は旬のお魚を使って二貫お寿司を握らせていただきました。」
ツバキの説明に続いて二人の前に運ばれたのは、今が旬の鮭と鰹の寿司。二人はそれをぺろりとおなかの中に収めた。
「それでは次のお料理からはお酒とともにお楽しみください。メイ様もお酒をお楽しみいただけるようこちらでしっかりと度用意いたしましたから。どうぞご堪能くださいね。」
「ありがとうございます!」
そして二人はツバキの提供する美味しい料理を食べ、酒を嗜み、会話を弾ませ。夕食の時間を堪能するのだった。
それからすっかり陽は沈み、夜の帳が下りたころ……。
二人が泊まる旅館がある山の麓に一台の車が停まる。その中から黒いスーツに身を包んだ男たちが下りてくる。彼らの手にはハンドガンが握られていた。
「ターゲットはこの先だ。目撃者と障害になる人物への発砲許可は出ている。躊躇はするな。」
リーダーらしき男がそう告げると、登山口に吊るされている提灯に突然灯がともる。そしてそこからツバキがにこやかに微笑みながら現れた。
「ふふふ、どちら様でしょう?この先に何か御用で?」
「…………。」
その問いかけを無視し、リーダーらしき男はツバキへと銃口を向けた。そして容赦なく引き金を引く。
その銃弾はまっすぐにツバキへと向かっていくが、彼女を貫く直前、キン……という金属音が響くと自ら逸れるように軌道が変わり、彼女の横を抜けていった。
「っ!?」
「あらあら、野蛮なお方で。」
自分に向かって銃を撃たれたというのに何の動揺も見せず、ツバキはクスリと笑うと、顔の横で手を二度たたく。
すると彼女の前に闇に紛れる黒い忍者装束に身を包んだ女性が現れた。彼女はツバキへと向かって巨大な大太刀を手渡すと、その鞘を抜いた。
「ありがとう。」
ツバキのその言葉を聞いた彼女はぺこりと一礼すると大太刀の鞘を大事そうに抱えて再び闇の中へと消えた。
「さて、先ほどはこちらがもてなされてしまいましたから……。お返しを。」
カラン……と下駄を響かせ、ツバキは一歩距離を詰める。それと同時に女性が振るうものとは思えないスピードで大太刀をふるう。その一撃は一瞬にして二つの命の火を消し去った。
「クソッ!!撃てっ!!」
残る男三人がツバキへと銃を撃つが、彼女の姿はゆらりゆらりと闇に溶け、まったく当たらない。そればかりかまた一人……また一人とツバキによって両断されてしまう。
最後に残ったリーダーの男は、勝てないと判断するや否やすぐに車に乗り込み、逃げようとするが……。
「行きはよいよい……。」
ツバキの大太刀がボンネットを貫く。それによってエンジンを損傷した車は動かなくなる。
「帰りは怖い。」
そして最後には運転席のフロントガラスに深々と大太刀が突き刺さり、車内に鮮血が飛び散った。
「ん……んんっ。」
「やっと起きたかメイ。」
ふかふかのベッドからメイがゆっくりと体を起こす。
「あれ、私お風呂に入ってて……。」
「すっかり酔っぱらっちまって寝てたんだぜ?」
「それで気づいたらもう夕方ってわけ……ね。も~、めちゃめちゃ寝過ごしちゃったじゃない。」
少し肩を落としたメイだが、そんな彼女へエリーは笑って言葉をかける。
「ま、休みってのはそういうもんでいいんじゃねぇか?好きなようにダラダラ過ごしてもよ、楽しけりゃそれでいい。」
「まぁそうかもね。」
「そういやさっき女将さんが来て、もうすぐ飯の用意するってよ。」
メイが起きる直前、この旅館の女将であるツバキがこの部屋を訪ね、夕食の用意を始めることを告げていったのだ。
「こういう旅館のお料理って何が出てくるのかしらね?」
「あ~……勝手なイメージだが、アタシはこういう旅館だと豪華な刺し盛りとか……そういうのじゃねぇの?」
「そういうイメージ確かにあるわね!お刺身とか海外じゃ食べられなかったから楽しみだわ。」
そんな夕食についての会話を弾ませていると、部屋の扉がコンコンとノックされた。
「失礼いたします。」
ツバキが扉を開けると、その奥からふわりと食欲をそそる良い香りが二人の部屋の中に漂い始める。
「ふぁ、いい匂い……。」
「メイ様お体は問題ありませんか?」
「あ、全然大丈夫です!迷惑かけちゃってすみません……。」
「ふふふ、迷惑だなんてそんなことはありませんよ。お食事のほうは食べられそうですか?」
「はい!」
「それは何よりでした。では一品ずつお料理の方運ばせていただきますね。」
するとツバキは一品の料理を二人の前に並べる。最初に二人の前に出された料理はとろりとしたクリームのようなものがかけられた一品料理。
興味深そうにそれを眺めている二人にツバキは料理の説明を始めた。
「まず一品目は先付けとなりまして、秋ナスのゴマ豆腐かけになります。」
「この白いクリームみたいなのがゴマ豆腐なんですか?」
「はい、固めたゴマ豆腐にお出汁を加えて裏漉ししたものになります。」
「へぇ~……。」
「どうぞお出汁に浸した秋ナスにたっぷりと絡めて一緒にお召し上がりください。」
二人は「頂きます。」と手を合わせると、ツバキに言われた通りにして一口食べた。それと同時、二人はカッと目を見開く。
「美味しい……。」
「う、美味すぎる。」
「ふふふ、お口に合いましたようで何よりです。」
二人はあっという間にそれを食べ終えると、タイミングよく次の料理が運ばれてくる。
「続きまして、お凌ぎでございます。」
「お凌ぎ?」
聞き覚えのない言葉にメイが首を傾げた。
「お凌ぎというのはお酒をいただく前に少しおなかを満たすお料理のことです。今回は旬のお魚を使って二貫お寿司を握らせていただきました。」
ツバキの説明に続いて二人の前に運ばれたのは、今が旬の鮭と鰹の寿司。二人はそれをぺろりとおなかの中に収めた。
「それでは次のお料理からはお酒とともにお楽しみください。メイ様もお酒をお楽しみいただけるようこちらでしっかりと度用意いたしましたから。どうぞご堪能くださいね。」
「ありがとうございます!」
そして二人はツバキの提供する美味しい料理を食べ、酒を嗜み、会話を弾ませ。夕食の時間を堪能するのだった。
それからすっかり陽は沈み、夜の帳が下りたころ……。
二人が泊まる旅館がある山の麓に一台の車が停まる。その中から黒いスーツに身を包んだ男たちが下りてくる。彼らの手にはハンドガンが握られていた。
「ターゲットはこの先だ。目撃者と障害になる人物への発砲許可は出ている。躊躇はするな。」
リーダーらしき男がそう告げると、登山口に吊るされている提灯に突然灯がともる。そしてそこからツバキがにこやかに微笑みながら現れた。
「ふふふ、どちら様でしょう?この先に何か御用で?」
「…………。」
その問いかけを無視し、リーダーらしき男はツバキへと銃口を向けた。そして容赦なく引き金を引く。
その銃弾はまっすぐにツバキへと向かっていくが、彼女を貫く直前、キン……という金属音が響くと自ら逸れるように軌道が変わり、彼女の横を抜けていった。
「っ!?」
「あらあら、野蛮なお方で。」
自分に向かって銃を撃たれたというのに何の動揺も見せず、ツバキはクスリと笑うと、顔の横で手を二度たたく。
すると彼女の前に闇に紛れる黒い忍者装束に身を包んだ女性が現れた。彼女はツバキへと向かって巨大な大太刀を手渡すと、その鞘を抜いた。
「ありがとう。」
ツバキのその言葉を聞いた彼女はぺこりと一礼すると大太刀の鞘を大事そうに抱えて再び闇の中へと消えた。
「さて、先ほどはこちらがもてなされてしまいましたから……。お返しを。」
カラン……と下駄を響かせ、ツバキは一歩距離を詰める。それと同時に女性が振るうものとは思えないスピードで大太刀をふるう。その一撃は一瞬にして二つの命の火を消し去った。
「クソッ!!撃てっ!!」
残る男三人がツバキへと銃を撃つが、彼女の姿はゆらりゆらりと闇に溶け、まったく当たらない。そればかりかまた一人……また一人とツバキによって両断されてしまう。
最後に残ったリーダーの男は、勝てないと判断するや否やすぐに車に乗り込み、逃げようとするが……。
「行きはよいよい……。」
ツバキの大太刀がボンネットを貫く。それによってエンジンを損傷した車は動かなくなる。
「帰りは怖い。」
そして最後には運転席のフロントガラスに深々と大太刀が突き刺さり、車内に鮮血が飛び散った。
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