腐りかけの果実

しゃむしぇる

文字の大きさ
上 下
15 / 88
二節 交錯する思惑

1-2-2

しおりを挟む
 ガオン!!ガオン!!

 二発の大きな銃声がシューティングレンジに響く。エリーの放ったマグナムの弾丸は二発とも遠くに設置された人型の的の脳天をとらえていた。

「……ん、精度は悪くねぇ。狙い通りの場所に弾は飛ぶ。ただ反動がなかなか曲者だな。」

 たった二発の銃弾を撃っただけでもエリーの手にはビリビリと反動による衝撃が残っていた。

「よっぽどのことがねぇ限り市街地での発砲はできねぇな。つっても、メイの持ってるアレがあれば問題ねぇか。」

 メイの持つエリー達の免罪符ともなりえる銃火器携帯許可証。それがあればたとえ市街地の人通りの多い場所で発砲しても最悪どうにかなると彼女は踏んでいた。
 しかしそんな彼女の思惑は芦澤カナの身柄を引き渡して戻ってきたメイの言葉によっていとも簡単に崩れ去ったのだ。

「あ、エリーここにいたのね。」

「ん?メイか、無事に戻ってきたってことは何も問題なく引き渡しは終わったんだな。」

「えぇ、これにて政府からの私たちへの依頼はお終いよ。」

 そう言ったメイだが、なぜか表情は少し浮かない様子だ。それを長い付き合いのエリーが見逃すはずはなかった。

「依頼がすっぱり終わったって顔じゃねぇぜ?何があった?」

 煙草を一本咥えて火をつけながらエリーはメイに問いかける。

「……今回以来の満了と同時に私たちはまたお尋ね者扱いよ。この身分証明書もただの紙切れになったわ。」

 メイは二人分の証明書を取り出すと跡形もないほどびりびりに破いてゴミ箱へと捨て去った。

「まぁそういう展開は予想してただろ?アタシ達は正義じゃねぇ。正義をモットーにしてるこの国には居場所なんざなくて当然だ。」

「えぇ、そうね。わかっていたはずなんだけど、やっぱりこうも居場所がなくなると寂しいわよ。」

 そうぽつりとつぶやいたメイの肩にエリーが手を置いた。

「居場所ってのは最初からあるもんは決まって碌なもんじゃねぇ。自分たちで楽園をつくりゃいいだけの話だろ?」

「確かに……ね。そのために危険な依頼いっぱいエリーにこなしてもらってるんだから、私も前を向かなくちゃ。」

 悩みを振り切った様子のメイはパチンと両頬を叩くと顔を上げた。

「よし、それじゃあ私リースさんが割り出してくれた例の購入者の身元洗ってくるわ!!」

「張り切るのは言いが空回りすんなよ?」

 すっかり立ち直った様子のメイに満足そうな表情を浮かべながらエリーがそういった。

「大丈夫、エリーのバックアップが私の仕事だからそれを全うするのよ。プラスで……日本の政府がまだつかんでない情報まで引き出して見せるんだから!!」

 そしてメイは勢いよくシューティングレンジを飛び出していった。その様子を見送ったエリーが再びマグナムを手にすると、メイと入れかわるようにしてリースが顔を出した。

「やっほ!やってるねエリー。」

「お袋……。」

「どうかな?対吸血鬼用ハンドマグナムMk.1は。」

「悪くねぇ。だが、この銃声と衝撃だ市街地でなんざ使えねぇぜ?」

「そこはもうすぐ解決できるよ。専用のサプレッサーの製造も開始してるところさ。ただ、その銃の性質上耐久値は低くなっちゃうけどね。」

「大事な局面で一発打撃てりゃあ十分だ。こんなもん連射してたら腕のほうがイカレちまう。」

「うんうん、よく性能を把握しているようで結構。それとさっき渡し忘れてたけど、これも使ってみてよ。」

 リースがエリーに手渡してきたのは鞘に収められた一本のナイフだった。

「こいつも銀製か?」

「うん、試しに作ってみた試作品だよ。やっぱりステンレスと違って銀は柔らかいから、耐久力が結構落ちちゃった。まぁ刀身でガードとかよほど固いものを切らない限り大丈夫だとは思う。」

「ん、わかった。」

 リースから説明を受けたエリーはそのナイフを服の内側にしまい込む。

「ありがたく頂いとくぜ。」

「うん、有効活用してよ。それじゃ……。」

 エリーにナイフを渡して去ろうとするリース。そんな彼女をエリーは呼び止めた。

「待てよお袋。」

「うん?」

「一つ聞きてぇことがある。」

「何かな?」

「前アタシらに仕事を依頼したとき、吸血鬼事件に因縁があるって言ってたな?あんときは聞き流しちまったが、よくよく考えりゃあこんな地下に引きこもってるアンタが地上で起きてる事件に因縁があるなんざ考えられねぇ。吸血鬼を使って何をしようとしてやがる?」

 エリーのその言葉にリースは一瞬驚いた表情を浮かべ、そして苦笑いした。

「やれやれ、ずいぶん鋭くなったね。そういうところも戦場で鍛えられたのかな?」

「まぁな。で?どうなんだよ。」

「正直に言えば、ただの研究意欲さ。明らかに人の枠を超えている存在、彼らは何者なのか……それと吸血鬼になれるとかいう変なモノを作り出した黒幕はどんな技術を使って彼らを生み出しているのか気になるんだ。」

「ん、まぁそんなこったろうとは思ったぜ。」

「ちなみに1つ質問だけど、エリーはもしお母さんが吸血鬼になれる薬を作れたら……使う?」

 リースのその問いかけにエリーはすぐに首を横に振った。

「お断りだ。あいにくアタシは人間で満足してるんでな。」

「エリーならそう言うと思ってたよ。」

 リースはエリーの答えに満足したのかニコリと笑みを浮かべると、白衣を翻して彼女に背を向けた。

「それじゃあ、この件よろしくね?」

「あぁ、任せな。」

 そしてリースが出て行ったのを見送ったエリーは、灰皿で吸いきったタバコの火を消した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

ヴァンパイアキス

志築いろは
恋愛
ヴァンパイアおよびグール退治を専門とする団体『クルースニク』。出自ゆえに誰よりもヴァンパイアを憎むエルザは、ある夜、任務先で立ち入り禁止区域を徘徊していた怪しい男に遭遇する。エルザは聴取のために彼を支部まで連れ帰るものの、男の突拍子もない言動に振り回されるばかり。 そんなある日、事件は起こる。不審な気配をたどって地下へ降りれば、仲間の一人が全身の血を吸われて死んでいた。地下にいるのは例の男ただひとり。男の正体はヴァンパイアだったのだ。だが気づいたときにはすでに遅く、エルザ一人ではヴァンパイア相手に手も足も出ない。 死を覚悟したのもつかの間、エルザが目覚めるとそこは、なぜか男の屋敷のベッドの上だった。 その日を境に、エルザと屋敷の住人たちとの奇妙な共同生活が始まる。 ヴァンパイア×恋愛ファンタジー。 この作品は、カクヨム様、エブリスタ様にも掲載しています。

囚われの姫〜異世界でヴァンパイアたちに溺愛されて〜

月嶋ゆのん
恋愛
志木 茉莉愛(しき まりあ)は図書館で司書として働いている二十七歳。 ある日の帰り道、見慣れない建物を見かけた茉莉愛は導かれるように店内へ。 そこは雑貨屋のようで、様々な雑貨が所狭しと並んでいる中、見つけた小さいオルゴールが気になり、音色を聞こうとゼンマイを回し音を鳴らすと、突然強い揺れが起き、驚いた茉莉愛は手にしていたオルゴールを落としてしまう。 すると、辺り一面白い光に包まれ、眩しさで目を瞑った茉莉愛はそのまま意識を失った。 茉莉愛が目覚めると森の中で、酷く困惑する。 そこへ現れたのは三人の青年だった。 行くあてのない茉莉愛は彼らに促されるまま森を抜け彼らの住む屋敷へやって来て詳しい話を聞くと、ここは自分が住んでいた世界とは別世界だという事を知る事になる。 そして、暫く屋敷で世話になる事になった茉莉愛だが、そこでさらなる事実を知る事になる。 ――助けてくれた青年たちは皆、人間ではなくヴァンパイアだったのだ。

札束艦隊

蒼 飛雲
歴史・時代
 生まれついての勝負師。  あるいは、根っからのギャンブラー。  札田場敏太(さつたば・びんた)はそんな自身の本能に引きずられるようにして魑魅魍魎が跋扈する、世界のマーケットにその身を投じる。  時は流れ、世界はその混沌の度を増していく。  そのような中、敏太は将来の日米関係に危惧を抱くようになる。  亡国を回避すべく、彼は金の力で帝国海軍の強化に乗り出す。  戦艦の高速化、ついでに出来の悪い四姉妹は四一センチ砲搭載戦艦に改装。  マル三計画で「翔鶴」型空母三番艦それに四番艦の追加建造。  マル四計画では戦時急造型空母を三隻新造。  高オクタン価ガソリン製造プラントもまるごと買い取り。  科学技術の低さもそれに工業力の貧弱さも、金さえあればどうにか出来る!

旧陸軍の天才?に転生したので大東亜戦争に勝ちます

竹本田重朗
ファンタジー
転生石原閣下による大東亜戦争必勝論 東亜連邦を志した同志達よ、ごきげんようである。どうやら、私は旧陸軍の石原莞爾に転生してしまったらしい。これは神の思し召しなのかもしれない。どうであれ、現代日本のような没落を回避するために粉骨砕身で働こうじゃないか。東亜の同志と手を取り合って真なる独立を掴み取るまで… ※超注意書き※ 1.政治的な主張をする目的は一切ありません 2.そのため政治的な要素は「濁す」又は「省略」することがあります 3.あくまでもフィクションのファンタジーの非現実です 4.そこら中に無茶苦茶が含まれています 5.現実的に存在する如何なる国家や地域、団体、人物と関係ありません 6.カクヨムとマルチ投稿 以上をご理解の上でお読みください

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

処理中です...