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二節 交錯する思惑
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ガオン!!ガオン!!
二発の大きな銃声がシューティングレンジに響く。エリーの放ったマグナムの弾丸は二発とも遠くに設置された人型の的の脳天をとらえていた。
「……ん、精度は悪くねぇ。狙い通りの場所に弾は飛ぶ。ただ反動がなかなか曲者だな。」
たった二発の銃弾を撃っただけでもエリーの手にはビリビリと反動による衝撃が残っていた。
「よっぽどのことがねぇ限り市街地での発砲はできねぇな。つっても、メイの持ってるアレがあれば問題ねぇか。」
メイの持つエリー達の免罪符ともなりえる銃火器携帯許可証。それがあればたとえ市街地の人通りの多い場所で発砲しても最悪どうにかなると彼女は踏んでいた。
しかしそんな彼女の思惑は芦澤カナの身柄を引き渡して戻ってきたメイの言葉によっていとも簡単に崩れ去ったのだ。
「あ、エリーここにいたのね。」
「ん?メイか、無事に戻ってきたってことは何も問題なく引き渡しは終わったんだな。」
「えぇ、これにて政府からの私たちへの依頼はお終いよ。」
そう言ったメイだが、なぜか表情は少し浮かない様子だ。それを長い付き合いのエリーが見逃すはずはなかった。
「依頼がすっぱり終わったって顔じゃねぇぜ?何があった?」
煙草を一本咥えて火をつけながらエリーはメイに問いかける。
「……今回以来の満了と同時に私たちはまたお尋ね者扱いよ。この身分証明書もただの紙切れになったわ。」
メイは二人分の証明書を取り出すと跡形もないほどびりびりに破いてゴミ箱へと捨て去った。
「まぁそういう展開は予想してただろ?アタシ達は正義じゃねぇ。正義をモットーにしてるこの国には居場所なんざなくて当然だ。」
「えぇ、そうね。わかっていたはずなんだけど、やっぱりこうも居場所がなくなると寂しいわよ。」
そうぽつりとつぶやいたメイの肩にエリーが手を置いた。
「居場所ってのは最初からあるもんは決まって碌なもんじゃねぇ。自分たちで楽園をつくりゃいいだけの話だろ?」
「確かに……ね。そのために危険な依頼いっぱいエリーにこなしてもらってるんだから、私も前を向かなくちゃ。」
悩みを振り切った様子のメイはパチンと両頬を叩くと顔を上げた。
「よし、それじゃあ私リースさんが割り出してくれた例の購入者の身元洗ってくるわ!!」
「張り切るのは言いが空回りすんなよ?」
すっかり立ち直った様子のメイに満足そうな表情を浮かべながらエリーがそういった。
「大丈夫、エリーのバックアップが私の仕事だからそれを全うするのよ。プラスで……日本の政府がまだつかんでない情報まで引き出して見せるんだから!!」
そしてメイは勢いよくシューティングレンジを飛び出していった。その様子を見送ったエリーが再びマグナムを手にすると、メイと入れかわるようにしてリースが顔を出した。
「やっほ!やってるねエリー。」
「お袋……。」
「どうかな?対吸血鬼用ハンドマグナムMk.1は。」
「悪くねぇ。だが、この銃声と衝撃だ市街地でなんざ使えねぇぜ?」
「そこはもうすぐ解決できるよ。専用のサプレッサーの製造も開始してるところさ。ただ、その銃の性質上耐久値は低くなっちゃうけどね。」
「大事な局面で一発打撃てりゃあ十分だ。こんなもん連射してたら腕のほうがイカレちまう。」
「うんうん、よく性能を把握しているようで結構。それとさっき渡し忘れてたけど、これも使ってみてよ。」
リースがエリーに手渡してきたのは鞘に収められた一本のナイフだった。
「こいつも銀製か?」
「うん、試しに作ってみた試作品だよ。やっぱりステンレスと違って銀は柔らかいから、耐久力が結構落ちちゃった。まぁ刀身でガードとかよほど固いものを切らない限り大丈夫だとは思う。」
「ん、わかった。」
リースから説明を受けたエリーはそのナイフを服の内側にしまい込む。
「ありがたく頂いとくぜ。」
「うん、有効活用してよ。それじゃ……。」
エリーにナイフを渡して去ろうとするリース。そんな彼女をエリーは呼び止めた。
「待てよお袋。」
「うん?」
「一つ聞きてぇことがある。」
「何かな?」
「前アタシらに仕事を依頼したとき、吸血鬼事件に因縁があるって言ってたな?あんときは聞き流しちまったが、よくよく考えりゃあこんな地下に引きこもってるアンタが地上で起きてる事件に因縁があるなんざ考えられねぇ。吸血鬼を使って何をしようとしてやがる?」
エリーのその言葉にリースは一瞬驚いた表情を浮かべ、そして苦笑いした。
「やれやれ、ずいぶん鋭くなったね。そういうところも戦場で鍛えられたのかな?」
「まぁな。で?どうなんだよ。」
「正直に言えば、ただの研究意欲さ。明らかに人の枠を超えている存在、彼らは何者なのか……それと吸血鬼になれるとかいう変なモノを作り出した黒幕はどんな技術を使って彼らを生み出しているのか気になるんだ。」
「ん、まぁそんなこったろうとは思ったぜ。」
「ちなみに1つ質問だけど、エリーはもしお母さんが吸血鬼になれる薬を作れたら……使う?」
リースのその問いかけにエリーはすぐに首を横に振った。
「お断りだ。あいにくアタシは人間で満足してるんでな。」
「エリーならそう言うと思ってたよ。」
リースはエリーの答えに満足したのかニコリと笑みを浮かべると、白衣を翻して彼女に背を向けた。
「それじゃあ、この件よろしくね?」
「あぁ、任せな。」
そしてリースが出て行ったのを見送ったエリーは、灰皿で吸いきったタバコの火を消した。
二発の大きな銃声がシューティングレンジに響く。エリーの放ったマグナムの弾丸は二発とも遠くに設置された人型の的の脳天をとらえていた。
「……ん、精度は悪くねぇ。狙い通りの場所に弾は飛ぶ。ただ反動がなかなか曲者だな。」
たった二発の銃弾を撃っただけでもエリーの手にはビリビリと反動による衝撃が残っていた。
「よっぽどのことがねぇ限り市街地での発砲はできねぇな。つっても、メイの持ってるアレがあれば問題ねぇか。」
メイの持つエリー達の免罪符ともなりえる銃火器携帯許可証。それがあればたとえ市街地の人通りの多い場所で発砲しても最悪どうにかなると彼女は踏んでいた。
しかしそんな彼女の思惑は芦澤カナの身柄を引き渡して戻ってきたメイの言葉によっていとも簡単に崩れ去ったのだ。
「あ、エリーここにいたのね。」
「ん?メイか、無事に戻ってきたってことは何も問題なく引き渡しは終わったんだな。」
「えぇ、これにて政府からの私たちへの依頼はお終いよ。」
そう言ったメイだが、なぜか表情は少し浮かない様子だ。それを長い付き合いのエリーが見逃すはずはなかった。
「依頼がすっぱり終わったって顔じゃねぇぜ?何があった?」
煙草を一本咥えて火をつけながらエリーはメイに問いかける。
「……今回以来の満了と同時に私たちはまたお尋ね者扱いよ。この身分証明書もただの紙切れになったわ。」
メイは二人分の証明書を取り出すと跡形もないほどびりびりに破いてゴミ箱へと捨て去った。
「まぁそういう展開は予想してただろ?アタシ達は正義じゃねぇ。正義をモットーにしてるこの国には居場所なんざなくて当然だ。」
「えぇ、そうね。わかっていたはずなんだけど、やっぱりこうも居場所がなくなると寂しいわよ。」
そうぽつりとつぶやいたメイの肩にエリーが手を置いた。
「居場所ってのは最初からあるもんは決まって碌なもんじゃねぇ。自分たちで楽園をつくりゃいいだけの話だろ?」
「確かに……ね。そのために危険な依頼いっぱいエリーにこなしてもらってるんだから、私も前を向かなくちゃ。」
悩みを振り切った様子のメイはパチンと両頬を叩くと顔を上げた。
「よし、それじゃあ私リースさんが割り出してくれた例の購入者の身元洗ってくるわ!!」
「張り切るのは言いが空回りすんなよ?」
すっかり立ち直った様子のメイに満足そうな表情を浮かべながらエリーがそういった。
「大丈夫、エリーのバックアップが私の仕事だからそれを全うするのよ。プラスで……日本の政府がまだつかんでない情報まで引き出して見せるんだから!!」
そしてメイは勢いよくシューティングレンジを飛び出していった。その様子を見送ったエリーが再びマグナムを手にすると、メイと入れかわるようにしてリースが顔を出した。
「やっほ!やってるねエリー。」
「お袋……。」
「どうかな?対吸血鬼用ハンドマグナムMk.1は。」
「悪くねぇ。だが、この銃声と衝撃だ市街地でなんざ使えねぇぜ?」
「そこはもうすぐ解決できるよ。専用のサプレッサーの製造も開始してるところさ。ただ、その銃の性質上耐久値は低くなっちゃうけどね。」
「大事な局面で一発打撃てりゃあ十分だ。こんなもん連射してたら腕のほうがイカレちまう。」
「うんうん、よく性能を把握しているようで結構。それとさっき渡し忘れてたけど、これも使ってみてよ。」
リースがエリーに手渡してきたのは鞘に収められた一本のナイフだった。
「こいつも銀製か?」
「うん、試しに作ってみた試作品だよ。やっぱりステンレスと違って銀は柔らかいから、耐久力が結構落ちちゃった。まぁ刀身でガードとかよほど固いものを切らない限り大丈夫だとは思う。」
「ん、わかった。」
リースから説明を受けたエリーはそのナイフを服の内側にしまい込む。
「ありがたく頂いとくぜ。」
「うん、有効活用してよ。それじゃ……。」
エリーにナイフを渡して去ろうとするリース。そんな彼女をエリーは呼び止めた。
「待てよお袋。」
「うん?」
「一つ聞きてぇことがある。」
「何かな?」
「前アタシらに仕事を依頼したとき、吸血鬼事件に因縁があるって言ってたな?あんときは聞き流しちまったが、よくよく考えりゃあこんな地下に引きこもってるアンタが地上で起きてる事件に因縁があるなんざ考えられねぇ。吸血鬼を使って何をしようとしてやがる?」
エリーのその言葉にリースは一瞬驚いた表情を浮かべ、そして苦笑いした。
「やれやれ、ずいぶん鋭くなったね。そういうところも戦場で鍛えられたのかな?」
「まぁな。で?どうなんだよ。」
「正直に言えば、ただの研究意欲さ。明らかに人の枠を超えている存在、彼らは何者なのか……それと吸血鬼になれるとかいう変なモノを作り出した黒幕はどんな技術を使って彼らを生み出しているのか気になるんだ。」
「ん、まぁそんなこったろうとは思ったぜ。」
「ちなみに1つ質問だけど、エリーはもしお母さんが吸血鬼になれる薬を作れたら……使う?」
リースのその問いかけにエリーはすぐに首を横に振った。
「お断りだ。あいにくアタシは人間で満足してるんでな。」
「エリーならそう言うと思ってたよ。」
リースはエリーの答えに満足したのかニコリと笑みを浮かべると、白衣を翻して彼女に背を向けた。
「それじゃあ、この件よろしくね?」
「あぁ、任せな。」
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